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15:古書の翻訳
しおりを挟む「あの・・・これ、私読めますよ?」
ダリルとマルコの後ろからまさかの言葉が聞こえてくる
バッと音が出るくらい、勢いよく後ろを振り返るダリルとマルコは、その声の主であるセラの顔を見る
いきなり振り返られたセラは驚き目を見開く
「今・・・なんと・・・?」
ダリルは震える声で尋ねる
いつのまにかセラの隣に立つハリスも、セラからの言葉を待っている
「えっ・・・と、・・・その本、読めます」
何か変なことを言ってしまったのかと目が泳ぐセラに、頭が追いついてこない3人は一瞬時が止まったように感じた
しかし、ハリスはダリルたちと違い即座に動き、勢いよくセラの手をとり声を上げる
「セラ嬢!!!」
「は、はいっ!!」
ハリスの勢いに押され返事をするセラにハリスは薄緑の瞳をキラキラと輝かせて話しだす
「本当に読めるのですか?!」
「は・・・はい」
グイグイと顔を寄せてこられ、気恥ずかしくなり赤くなるセラ
もはや翻訳の事しか考えていないハリスの間にダリルが割って入る
「ハリス伯爵!若い女人の手をいきなり取るなど!」
顔を赤くし、ハリスに物申すダリル
「ダリル様だって先程手を取っていらっしゃったではございませんか」
何かおかしなことをしたのか、と言いたげなハリスにやっと動けるようになったマルコが2人を止めようと近づく
その時、セラが口を開く
「・・・これ。」
その言葉に3人は静かになりセラの方を向く
セラはダリルが持っていた本を取って表紙を撫でると静かに語り出す
「この本は、以前スミス伯爵様と初めてお会いした時に譲っていただいた青い石のネックレスの迷信がある国の古語で書かれた本なのです」
そう言うセラにハリスは少し疑問の顔になる
「スミス伯爵・・・?」
そうぽつりと呟くと、ダリルは焦ったように咳払いをする
「オホン・・・ハリス伯爵・・・君は私の事を名前で呼ぶからすっかり忘れているみたいだな」
そう言ってハリスに目配せをすると、ハリスは納得したような顔をする
「ああ!そうでした!・・・それでセラ嬢、この本の中身はどのような内容が書かれているのです?」
ハリスはダリルの偽名よりも本の内容が気になり話の続きを促す
ダリルはハリスに物を申したい気持ちもあったが、それよりもセラの話の続きを聞きたかった
「それで、そのセラという者が語った本の内容とはなんだったのだ。」
王宮の最奥
身体を倒すようにして座る王様がダリルの方を見てまるで物語を聞く少年のように先を知りたがる
そんな王様を見て、ダリルはなんとも居たたまれないような気持ちになった。
「はい、それが・・・」
本のページをめくる音が聞こえる
本を読むセラの真剣な眼差しを大の大人の男が3人
静かに見ている
長いまつ毛に少し陽に焼けた肌
つい1時間ほど前まで幼い少女だと思っていたのに、改めてみると成人の女性に見える
人間とは勝手なものだ・・・
ダリルはそんな風に思いながら、セラが誰も読めないと言われている本を、まるで普通の本のように読み進めていることに感心していた
『この本は、以前スミス伯爵様と初めてお会いした時に譲っていただいた青い石のネックレスの迷信がある国の古語で書かれているのです』
あの言葉・・・気になる
セラは以前
『迷信みたいなものなんです。 ここから遥か遠い他国の青い石に幸せになってもらいたい人への願いを込めて渡すと、その人は天に召されるその時まで幸福が続くっていう。』
そんな風に言っていた
そんな遥か遠い他国の事を知っているどころか、古語まで知っているなんて・・・いったいどうやって・・・
そんな風に考えを巡らせていると、本を閉じる音が聞こえ、現実に引き戻された
「ゆっくり読んでいる時間もないので、ざっくりとですが読みました。」
そう話す彼女の目は疑いようもなく真っ直ぐ我々を見ている
隣から身を乗り出すようにハリス伯爵がセラの言葉に耳を傾けている
彼がずっと追い求めていた古書の内容がようやくわかるのだ無理もない
「この本は、ここから遥か遠い他国の貴族令嬢様の青春の日記です」
「「「・・・青春の・・・日記」」」
「なんと!軍師の戦争記や国の機密文書などではなく、他国の令嬢の日記!」
「・・・はい。」
父上が口をポカンと開けてしまうのも無理もない。
私たち3人もセラの前で全く同じ表情だったのだから。
父上は顎髭を撫でながら困ったような顔をする
「うーむ・・・歴代の王たちの戦歴を、敗戦国から押収していたものの中にそのような日記が混ざっていたとは・・・」
「はい、ハリス伯爵も大変驚いておられました」
「そうであろうな。」
髭を撫でながら高い天井を見上げ、どうしたものか・・・と呟く父上の姿を黙って見つめる
「そういえば、盗まれた本は2冊であったな?」
「はい、そちらも同じ国の言葉らしく、セラ・・・翻訳師セラが言うには、その令嬢の書いた料理レシピだとか」
「何故そのようなものが紛れ込んでいたのか・・・」
父上は腕を組んで考えるそぶりをする
その姿を見て、あの日セラから言われたことを思い出した
「父上、その翻訳師曰くですが・・・」
「なんだ、申してみよ」
父上は思ったよりも重要ではなくなった話に、興味が削がれることもなく、むしろ他の者の考えに自分と違う見方があるのかと興味を持たれる方だ。
些細なことも見逃さないよう、良い王であるようにという姿勢が本当に素晴らしいと、心の底から父上のことを尊敬している
そんな父上の姿に報告に来たときと違い幾分か心が軽くなった
「その翻訳師曰く、この日記を書かれた令嬢は、その敗戦国の王宮勤めだったようです。」
「王宮勤めの侍女だった者の日記?」
「はい、その日記には皇女の話相手だった事、そして皇女の護衛騎士への淡い恋心が書かれているようです。」
そう言って、セラに書いてもらった翻訳後の一部が書かれた紙を差し出すと父上は受け取り声に出して読み始めた。
『宮内で今日もあの方を見た、いつでもお会い出来る皇女様が羨ましい。 私はもうすぐお父様がお選びになった顔も知らぬ方と結婚しなくてはならない。 やっと心が通じ合えたというのに・・・。どうか未来では私とあの方が添い遂げられますように。この日記は王宮内に私の想いと共に置いていきます。あの方が美味しいと言ってくださったお菓子のレシピも一緒に』
「なるほど、叶わぬ恋を王宮に置いてきた日記か。 それが押収品に入っていたのか。」
父上は納得した顔をして、その紙をまたこちらに渡してきた。
「そのようです。おそらくこの日記を盗んだ者は、この令嬢のものとわかっていて盗んだのでしょう」
そう言うと父上が疑問に思った顔でこちらを見る
「何故そう思うのだ?」
「はい、この本の翻訳を頼みに来た際店主に、"他国のとあるお方の大切な物"と言ってきたそうです。」
「なるほど、たしかにそれはわかっていて盗んでいるようだな」
父上がまた髭を撫で、天井を見上げている。
きっとこの本をどうするか、そして盗んだ者をどうするかお考えなんだろう。
「・・・ダリルよ。」
「はい。」
「その本は、盗んだ者に渡してやりなさい」
「よろしいのですか?」
「国益を損なうものでもないようだしな。今までも図書室の奥で眠っていたのだ、2冊くらい減ったところでどうと言うこともない。歴代の王の戦歴がなくなるわけでもない」
「父上の温情、私が代わりにお礼申し上げます。」
そう言って跪くと、父上は手のひらをひらひらさせて気にするなというような素振りをする
「うむ。・・・さ、これで以上か?」
父上の言葉に、少し緊張が走る
私が父上に報告に来たのは、この為だけではない
「父上・・・いえ、王様・・・お願いがございます」
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