恋と愛を知ったのは、陰謀だらけの王宮でした。

みるく

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16:ダリルのお願い

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「ふむ・・・願いとはなんだ?」

王様は崩していた姿勢を正し、ダリルを見る
緊張したダリルは深呼吸をして意を決したように王様を見つめ話し出す。


「翻訳師セラを・・・王宮で働かせたいのです。」

ダリルの声が静かな室内に響く。
王様は表情を変えることなくダリルに聞く。

「何故王宮で働かせたい?本来王宮勤めをしようと思うならば、入宮の試験を受けなくてはいけないのはお前もよくわかっているだろう?
それに、本来の翻訳師はその女人の父であろう?」
想定していた通りの質問。
色んなパターンの返答もずっと考えていたダリル。
すぐに返答すると決めていたにも関わらず、王の威厳の前に言葉が詰まった。

「ダリルよ・・・わしの言葉は間違っているか?」
静かな室内に、ダリルの心臓の音が聞こえる気がした。
王様の言葉は正しく、自分の考えは間違いなく異例だろう。

しかしダリルはこんな機会はもう来ないだろうと思い、理路整然と自分の考えを話し出す。
「いえ、間違っておりません。
しかし、翻訳師セラを王宮勤めにする事はこの王宮・・・いえ、国益になると思っております。」
「ほう・・・国益とな。してどのような?」
王様の目を見て話すダリルに、王様は片口を上げた
面白いと思っている時の表情だ

「はい。王様もご存知の通り、我が国が所有している書物の中には、古書研究者でも読めない文字が複数あります。」
「そうだな」
「ゆえに、今回のような状態の書物も複数あるかもしれません。
逆に国にとって利になるものもあるでしょう。」
「ふむ・・・そのために特別登用して、本の翻訳をさせようと?」
「左様でございます。今回共に協力した図書室室長であるハリス伯爵の下に置き、
図書室の職員として普段は働かせつつ翻訳師として本の翻訳、そして清本をさせたく思っております」

言いたい事は言った・・・
そう思いながら王様の目から視線をそらさないダリルと、髭をなで「ふむ・・・」と考えるそぶりをする王様

しかし王様はまたすぐダリルに聞く
「それはその女人でなく父ではダメなのか?」
「セラの父は現在病で倒れた妻の介抱と幼い双子の子どもを育てています。
彼女もまた母の看病に弟妹の世話、さらに生活費も稼いでいるのです。
何かあった際にも父親は家にいるべきと思いますし、娘が王宮勤めになる事により給金も市井で働くよりもずっと高く家族も養えます」
思っていたことをハキハキと話すダリルに王様の顔は少し真剣になる

「ダリルの考えはわかった。だがやはり、平民がこの王宮で、試験もなしに入るのは下働き以外ではそうそうある話ではない。」
「・・・はい。」
やはりダメなのか。
ダリルはそう思いながらも他にいい手立てはないかと思案する
その時、王様が人差し指をダリルの前に指してきた

「そうそうある話ではない・・・わしはそう言ったが、今回手柄を立てたのは紛れもなくその女人だ。
よって、今回はその褒美として特別に入宮の試験を行う事とする」
その言葉に、ダリルは目を見開く
「王様・・・」

「何もなしに城に入る事で、あれこれと言ってくる者も少なくない。貴族とはそう言うものだ。」
「確かにそうです・・・私の考えが浅はかでした」
「いや、お前はよく考えた。わしとは違い、優秀な人材は平民であろうと登用すべきという考えは素晴らしい。
だが、何事においても『文句を言わせないための順番』というものがある。」
王様はいたずらを考える少年のようにウインクをする
その顔に、先ほどまで緊張していたダリルの心は少し解けた

「文句を言わせないための順番・・・ですか?」
「さよう。貴族達は自分や周りの爵位と慣例を重んじるものだ。
そんな中に何の爵位もない者がいきなり来ても嫌がらせを受け、心が折れてしまう。
それを避ける為にも今回、手柄を立てたその女人には試験を受けさせ、合格する事で周りの貴族達を黙らせるのだ」

嬉しそうに微笑む王様を見てダリルは聞く
「それで本当に黙るでしょうか?」
「無論、それでも嫌がらせをしてくる者もいるだろう。だが、少なくともいきなり特別登用するよりも風当たりは強くはあるまい」

「王様・・・」
「お前がこんな事を言ってくるのは初めての事だな。良い人材なのだろう・・・無論その者の責任はお前が持ちなさい」
「はい!」
ダリルは勢いよく頭を下げる

「うむ、ではその翻訳師・・・セラか。登用試験の知らせを出してやりなさい。」
「ありがとうございます。失礼いたします」
そう言ってダリルは部屋を後にする


「ダリルよ・・・頑張りなさい」
その言葉はダリルには聞こえなかった





「はぁ・・・」
王様の部屋から出て肺いっぱいに息を吸い、そして深く吐いた

「試験にはなったが・・・許可がおりた・・・」
ダリルは胸が締め付けられるような感覚になり目頭が熱くなる
こんな風な願いを言った事などなかった
通らないと思っていたのにまさか他の貴族達からの反感を買わないようにする提案まで出してもらえた
自分の考えを理解し、そして賛成してくれた。
それだけでダリルは嬉しくて叫びたくなった。

だが王太子として育てられたからか表に出さず真っ直ぐに歩き出す
向かう先はハリスのところだ。







「セラ嬢に特別試験を!?」
「ああそうだ。」
司書長室でハリスはダリルにお茶を入れながら、王様との話を聞き驚く。

「特別試験は今回の褒美として受けられる事になっている。」
「なるほど。それならば妬み嫉みが出にくいですね。この試験に受かれば、セラ嬢に王宮で勤められるだけの能力があることを周りに納得させられますね」
そう言うと、ダリルの前に座り紅茶を飲むハリス。
そして疑問が浮かんだ。
「あれ・・・でも殿下、この話はセラ嬢はご存知なんですか?あの後そのような話をする時間などありませんでしたよね?」
ダリルとハリスは翻訳して内容がわかった後、すぐに王宮に戻る事になりセラへの挨拶もそこそこに慌てて帰ってきた
だからそんな時間があったのかとダリルに問うと、ダリルは視線を横にずらす。

「いや・・・」
「え?!じゃあ殿下が勝手にお決めに?」
「し、しかし、ハリス伯爵もセラが図書室に勤めると助かるのでは?」
そう聞くと凄い勢いでハリスは立ち上がる

「もちろんです!
あれほどの語学力があればこの国の繁栄の助けにもなるでしょう!出来れば欲しい人材です!ですが、セラ嬢がそれを望むでしょうか?」
ダリルにそう聞くとダリルも黙る
「・・・それを明日にでも聞きに行こうと思っている」
自信なさげな小さな声で話すダリルに思わず笑みがあふれるハリス

「そうですか。では、私もご一緒しましょう。」
「ハリス伯爵が?」
「はい、もし王宮の図書室に配属となれば私の部下になるのですから、試験を受けてもらえるように私も話しましょう」
「すまない。どうかよろしく頼む」

ダリルとハリスはその後明日の予定を話し、司書長室を後にした






「まぁ・・・王太子。お久しぶりですね。」
「お久しぶりです、母上」
部屋に戻っている途中、普段会わない王妃サリアナに出会った

「最近はお忙しいのでしょうか?母への挨拶もなく寂しく思っておりますよ。」
扇子で口元を隠し冷たい視線をダリルに向けている
そんなサリアナにいつもの事だと思いながらダリルは笑顔で対応する

「王様に言われ朝会などにも参加するようになり、母上へのご挨拶を怠り申し訳ございません。」
頭を下げて謝るダリルを見てサリアナはフンッと鼻を鳴らし視線を横にずらす

「・・・そういえば、先ほど王様と何やらお話なさっていたようですが、新たに人を雇おうと思っているのですか?」

何やら・・・とは言っているがきっと全て知っているんだろう。ダリルはそう思いつつも答える
「はい、市井でなかなか良い人材を見つけましたので、王様に許可をもらい図書室で働かせようかと・・・」
「まぁ!市井?!平民ではありませんか!」
大袈裟に反応するサリアナに冷静に対応する。
「はい、ですが王様も特別に試験を受けさせるようにと仰いました」
「王様が試験の許可を・・・」
「はい。」
サリアナの大きな瞳は吊り上がり眉間に皺を寄せている。

「いいですか王太子。
この国のみならず他国でも、貴族と平民には見えないながらも壁があります。
平民は平民として、貴族は貴族として品位を保ち生きるのです。
そのように平民を当たり前に王宮内になど入れてしまえば、どのようなトラブルが巻き起こるか・・・王太子である貴方がわからないとは言わせませんよ?」
声を荒げず鋭い視線でダリルを射るように見るが、ダリルはこれこそがまさに貴族達の視線なのだと思う

良くも悪くもサリアナは貴族令嬢として生まれ、そして品位と爵位があって王妃という地位にいる

「承知しております。ですがこれも王室・・・そしてこの国を良くしようと思ってのことです。母上のお気持ちもわかりますが、父上からの許可はいただいておりますので、どうかあたたかく見守ってください」

では失礼します。と言ってダリルはサリアナに深々と頭を下げ、サリアナの横を通る


そのダリルの後ろ姿を見て、サリアナは扇子で隠れた唇をギリリと噛む
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