恋と愛を知ったのは、陰謀だらけの王宮でした。

みるく

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17:セラへの話

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「ここは何度来ても賑やかだな」
「はい。私も市井の本屋に時々来ますが、賑わっていると、王様の努力の証が見られて良い気持ちになります」

ダリルとハリスは馬車を降り、セラ書房までの道を歩く
その後ろからマルコとジャンが付いてきている

マルコがダリルに小さな声で話しかけてくる
「ダリル様、本日は真っ直ぐ奥まで向かうだけですよ」
「!・・・わかっている!」
マルコからの言葉を聞き、ダリルは少し恥ずかしそうに語気を強めて答えると
後ろでマルコとジャンが吹き出して笑っている

そんな3人の姿を見てハリスは「仲が良いなぁ」と慈愛に満ちた顔になった



セラ書房の前に着くとセラがちょうど店の中から出てきた
ダリルが声を掛けようとした瞬間、隣から声が聞こえてきた
「セラ嬢!」
ハリスは右手を挙げながらセラの名を呼ぶ
ダリルはハリスのその姿に少し胸の奥にモヤッとした気持ちが一瞬わいた気がしたが、その感情はすぐになくなった。

前方にいるセラは、ハリスの声にこちらを見てニコリと微笑んだ

「あら、みなさんこんにちは。本日はどうなさったんですか?」
そう言うセラに今度はダリルが先に声をかける
「セラ、今日は君に話したいことがあってな。・・・と、その前に・・・マルコ」
「はい」
ダリルはマルコの名を呼ぶとマルコが懐から古書を2冊出してダリルに渡す

「これは昨日セラに読んでもらった古書なのだが、後で雑貨屋の店主に渡してやってくれ」
セラの手に渡すと、セラは驚いた顔でダリルを見る
「え?・・・これは盗まれたものなのでは?」
「ああ、だがこの本を盗んだ者の方がこの本を持つのには相応しいだろうと思ってな。」
「それでも・・・いけないことをその人はやったのでは?」
セラは本をギュッと抱きしめながらダリルを見上げる
そのセラの言葉に、なんと正義感のある人なんだとダリルは感じた

「確かにいけない事をした。もちろんそのまま渡すのではなく、取りに来た際は現在雑貨店に配置している王宮の者達に捕まえさせ、王宮への侵入経路や盗んだ理由も尋ねるつもりだ。」
セラやハリスは黙ってその言葉を聞いている

「しかし、処罰する為に捕まえるのではなく、この本の持ち主として良いのかを確認するだけだ。」
あと、捕まえる事で少し灸をすえてやろうと思ってな。とダリルは口元に人差し指を置く

その言葉を聞いて、セラは安心したように息を吐く
ハリスもまた納得した顔をしている
「だからセラ、その本は全て翻訳をして店主に渡してくれ」
「はい!」
元気よく返事をしてにっこりと笑うセラに、ダリルも笑いかける

優しい空気が流れる中、マルコがその空気を壊す。
「ダリル様。それよりもセラに話す事があるでしょう?」
「あぁ、そうだったな。」
別に忘れていたわけではなかったが、マルコに促されたダリルはセラの方を見る

「セラ、君に・・・」
「セラ・・・そちらの方々はお客様かい?」
ダリルが話し始めた時、セラの後ろから被せるように男性の声が聞こえてきた

「あ、父さん。」
セラは声のした方を向いて話しかける
「こちらは昨日話してたスミス伯爵様とハリス伯爵様。そして従者の方々よ」
セラにそう紹介されセラの父の方を向く
セラと同じ茶色の髪と少し疲れた顔をしているが、優しい笑顔でダリルとハリスに頭を下げる。

「初めまして。セラの父マートと申します。娘が貴族の方々のお力になれたようで親として嬉しいことです。」
「スミスだ。こちらはハリス伯爵。そなたの娘には大変世話になった。それもご両親の教育の賜物だろう。この国の貴族として感謝申し上げる。」
ダリルはマートに対して頭を少し下げる

するとマートは驚いた顔でダリルを見て慌てる
「貴族の方が私のような平民に頭をおさげにならないでください!」
優しく、しかし驚きが隠せないマートは両手を前に出してダリルに言う

「感謝を述べる事は貴族や平民問わず当たり前の事だ」
「しかし・・・」
マートがオロオロとする姿に、ダリルはセラの父だなと感じた
「気にせずとも良い」
「は、はぁ・・・。娘を褒めてくださりありがとうございます。」
マートは少し納得のいかない顔をしつつも深々と頭を下げる。
それを見てセラも同じように礼をする。

「うむ。そうだ、セラの父君。そなたも話を聞いて欲しい。良いだろうか?」
ダリルはマートに言うと、マートとセラは何の話かよくわからないという顔をする

「は、はい。狭いですが良ければ中に・・・」
「それはありがたい。失礼する」
マートが店の奥に案内するとダリルとハリスはマートの後ろをついて行く
マルコとジャンはセラにも中に入るように促し、店番をする事になった










セラがダリルとハリスの目の前に温かい飲み物を置き、静かにマートの隣に腰を下ろした

「それで・・・いったいお話とは・・・」
店奥の部屋でテーブルを囲みセラが座ったのを確認してマートが話を切り出す

ダリルはセラとマートをしっかりと見て口を開く
「単刀直入に言おう。私は、セラに王宮入内の特別試験を受けてもらいたい」

まるで室内の音がすべて消えたかのようだった

セラは目を見開いて驚いている。
マートは震える声でダリルに話しかける。

「・・・伯爵様・・・今、なんと?」
「驚くのも無理はない。セラに王宮入内の特別試験を受けてもらいたくここに来たのだ」
「わ、私が王宮に・・・?」
大きな瞳がさらに見開かれ、肩に力が入っているセラにダリルが視線を向ける。
「君には翻訳師として王宮に入ってもらいたいんだ。」
「で、ですが・・・私は平民です。私のような者が下働きではなく、そのような大役なんて・・・」
セラの顔が曇り、マートがセラの肩に手を置く。

「伯爵様、私たちのようなただの平民が、そのような大役を賜って、他の高貴な方々からの目が怖いのです。」
「うむ、その心配はわかる。だからこそ、特別試験という形をとり、セラへの風当たりを最小限にしたいと思っている」
ダリルがそう言うと、セラとマートは深く考え込んだ。

その姿を見て、ハリスがダリルに声をかける。
「ダリル様、良ければ私に話をさせてください。」
「ハリス伯爵・・・わかった」
ここはハリスに任せた方が良い気がする・・・ダリルはそう思い、ハリスを見る。

「セラ嬢の父君のお気持ち、全てをお察しすることは出来ませんがわかります。ですが、我々もセラ嬢の力を借りたいのです。」
「そ、それは・・・私ではダメなのでしょうか?」
マートは自分の膝を見ながら答える

「父君、セラ嬢から聞かせてもらった話では、現在寝込んでいる妻がいると・・・」
「さようです。それと、セラの下に歳の離れた双子がおります」
「では尚更、この家から離れる事は難しいでしょう。 父君の優秀さを引き継いだセラ嬢に頼みたい仕事は、外への持ち出し厳禁の書物ばかりなのです。」

優しい口調とは裏腹に、有無を言わさぬ圧があり、マートはそれ以上言葉を継げなかった。

「あ、あの!」
その時セラが声をあげた
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