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19:試験
しおりを挟む「セラ、そろそろ寝なさい」
「父さん。ごめん、もう少し・・・」
試験を受ける宣言から一週間が経った。
昼は父さんのお店の手伝い。
夕方はノアとリアを連れて母の病院。
私が机に向かえる時間はごく僅かだ。
それでも、勉強なんて今まで殆ど縁のなかった私にはとても新鮮で楽しい。
平民でも通える学校はあるし、幼い頃は少しだけ通っていたけど、結局自宅で父が時々受けていた他国の翻訳の仕事を見ている方が楽しかった。
そんな好きの延長で出来たことがきっかけでこんなことになるなんて思ってなかった・・・
父さんは一度部屋を出たと思ったら温かいミルクを持ってきてくれた
「隣のお婆さんがくれたハチミツが入ってるから甘いぞ」
「ありがとう」
ハチミツの入った甘いホットミルクをそっと飲む
口の中に広がる甘さが、昼間からの疲れを癒してくれる。
ゆっくり飲んでいる私の姿をじっと観察している父さんに気づいた
「父さん?どうしたの?」
「セラ、家族の為なら・・・」
暗い顔で言う父さんにもう何度目かの言葉をかける。
「父さん。私無理して試験を受けるわけでも、家族の犠牲になる為でもないよ」
もちろん全部自分のためというわけではない。
近所のおじさん達の手伝いをしたり、お店の看板娘として頑張って稼いでも、母の薬すら買えない日だってある。
平民と言ったって毎日満足な暮らしが出来るわけじゃない。
それはこの王都の商店の人達だってそうだ。
裏路地で暮らしている人より恵まれている。
正直感覚的にはその程度だ。
弟と妹には私よりも沢山勉強して、もっと立派になって欲しい。
だからこそお金は稼ぎたい。
王宮勤めならば今の微々たる稼ぎなんて目じゃない。
なんならうちの古書や本を買いたい人が見つかるかもしれない。
お金は家族の為だけど、私は自分がどこまで出来るのかを試したい
そんな好奇心もある。だからこそ私は試験を受ける。
「父さん」
「なんだ?」
私の言葉に納得出来ていない父さんはまだ自分を責めたような顔をしている
「もちろん父さんや母さん。そしてノアとリアの為にもお金は稼ぎたい。だけど、それだけじゃない」
「セラ・・・」
「私がどこまで出来るのか試したい。もちろん嫌がらせを受けることもあるかもしれないけど、私負けない!私が功績を挙げれば、他にもいる優秀な平民だって王宮で勤められるかもしれないでしょ?」
「ああ、そうだな。」
優しい顔で私を見る父さんは私の頭に大きな手を置く
「成長してるよ。セラ。」
「ちょっとー、もうとっくに成人してる娘なんですけど?」
二人で吹き出して笑う
その後また父さんは目を伏せる
「ただでさえ家庭のことばかりで婚期が遅れているというのに、これではもっと遅れるな。」
ごめんな。と謝る父さんに、きっと父さんの一番の心配はそこなんだろうと感じた
「んもー!私がその気になったら結婚だってきっとあっという間よ?なんなら王宮で貴族様に目をかけてもらえるかもしれないでしょ?」
玉の輿よ?そうおどけて見せると、父さんはにこりと微笑んでくれた
そして私の頭を撫でてくれた
「そうだな。お前なら大丈夫だ。でも嫌になったらすぐ辞めなさい」
「はいはい、わかってるってば。」
そして二人で笑い合う
大好きな場所、大好きな家族
大好きな商店の人達
何かを成し遂げたいわけじゃない
だけど何かを始めたらより良く変われる
そんな気がする
そして、この試験はその第一歩なんだ
きっとそうに違いない
-試験当日
城の門の前でウロウロと困ったようにしているセラに、城の中から声がかけられる
「セラ嬢」
「ハリス伯爵様」
セラはハリスに近づき頭を下げる
「きっと入るのに困ってると思い迎えに来ましたよ。試験会場までお送りしましょう」
「助かります」
セラはホッとした顔をしてハリスの後ろを歩く
城の中は従者や貴族が歩いており、時折セラをチラリと見てはなぜ平民が?と言った顔をする
居たたまれなくなり窓の外を見ると防具を身につけた騎士達がゾロゾロと歩いている
また廊下の床に目を向けると絨毯が敷かれていてふわふわ
裸足で歩けそうだな・・・などと思いながらハリスについて行くセラはふと思い出す
「そういえば、スミス伯爵様は?」
そう言いながら城内をキョロキョロと見渡す
セラの言葉にドキリとするハリス
「あー、あの方は今仕事で手が離せないので私だけ来ました」
「そうなんですね!ハリス伯爵様もお忙しい中ありがとうございます」
「いえ、私は丁度休憩時間なのです。」
さ、着きましたよ。とハリスは扉の前で立ち止まる
「私はここまでです。 セラ嬢であれば、そんなに難しいものも出ないでしょう。どうか頑張ってください。」
「ありがとうございます。頑張ります!」
「終わり頃に迎えに来ますからここで待っていてくださいね。」
「何から何まで助かります。」
セラは、あはは。と乾いた笑いを見せるとハリスに深々と頭を下げ、扉をノックして部屋に入っていった
「頑張ってください。セラ嬢」
閉じられた扉に向かって小さく呟いたハリスは図書室へ戻っていく
「失礼します」
扉の中に入ったセラは中に立っていた2人の人物に挨拶をする
1人は眼鏡をかけ、黒を基調としたシンプルな服を着てセラと同じくらいの若い女性
もう1人は白髪混じりの男性でパリッとしたスーツに身を包んでいる
男性の方が声をかけてくる
「セラさん、ですね?」
「はい。」
「王太子様からお話は聞いております。我々は本日の試験官を務めます。どうぞそちらにおかけください。」
そう言うとセラを室内の真ん中にある机に促す
「失礼します」
緊張しながら机に向かい着席する
静かな空間に人の歩く音
時計のカチカチという音が響く
「試験は1時間。セラさんにはあらゆる古文を翻訳していただきます。」
机の上に一枚の紙を置かれ、
セラは静かに目を閉じ深呼吸する
「では、試験開始」
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