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20:試験と合否
しおりを挟む「そろそろ始まったか?」
ダリルは室内に掛けられた時計を見てマルコに聞く
「先程報告を頼んでいた者がそう言っていたのでもう始まっているでしょう。試験は1時間程度で終わると言っていたので、後ほど顔を見に行けばよろしいかと。」
ダリルの机の隣に立ちダリルの前に書類を1枚ずつ並べながらマルコは淡々と話す
マルコの置いた書類にハンコを一つ押すたびに動作が止まり時計を見るダリル
「そうだな・・・ところでセラは迷わずに試験会場まで着いたのだろうか?」
「ハリス伯爵が送ってくださると仰っていたのでちゃんと着いておりますよ。」
ダリルのハンコをつく音、マルコが書類を出す音が響く
「セラは、」
「だー!!!!ダリル様!あなた様はご自分の仕事をなさってください!!」
眉間に皺を寄せ大きな声で怒るマルコ
ダリルは突然怒鳴られて驚いた顔をする
「先程からセラはセラはと!仕事に身が入っておりません!」
「な!そんな事は!!」
ガタッと音を立ててダリルは立ち上がると、机の上に乗ってるいつも以上に多い書類に視線がいく
「・・・今日はいつも以上に書類が多くないか?」
「いいえ、ダリル様の集中力がなく一つ印を押すと時計を見て、一つ押すと時計。を繰り返した結果です」
「そんなにか・・・?」
「えぇ、なんなら部屋の端に立ってるジャンに聞いてください」
そう言って二人はジャンに視線を向ける
「・・・ずっとセラって言ってました」
ジャンがそう言うとマルコはそれ見たことかと言いたそうな顔でダリルを見る
ダリルはその顔を見て苦虫を噛み潰したような顔をして静かに着席すると、書類を見始める
その姿を見て、マルコはジャンと顔を見合わせた後ダリルに声をかける
「セラは大丈夫ですよ。ダリル様が見つけた逸材なのですから。試験終了後労いに行きましょう」
その言葉にダリルは柔らかく笑いマルコを見る
「そうだな」
「それでは、合否は1時間後です。この部屋を出て左の突き当たりに庭園がありますので良ければそちらでお待ちください。」
「ありがとうございます。」
セラは試験会場から出て浅く息を吐く
そして庭園へ向かう
「わぁ・・・」
色とりどりの花が散水された後なのか雫が陽射しにあたりキラキラと輝いてより美しい
その中でセラは深く深呼吸する
肺いっぱいに空気を取り込み、ゆっくり吐き出すと、さっきまでの緊張で固まっていた身体が解れていく感覚がする
「あとは結果のみ・・・」
そう独り言を呟くと近くにあったベンチに腰掛け、静かに花達を眺める
カサカサッ
葉が揺れる音と一緒に誰かの話し声が聞こえてくる
「クスクス・・・だめ」
「静かに・・・」
小さな声で男女の話し声が聞こえてくる
セラは耳を澄まして音の聞こえる方に静かに進む
美しい花壇の奥の茂みの方に進む
するとそこには、木にもたれ掛かる美しく長い金髪の男性と
華美なドレスに身を包んだ女性が深い口付けをしている
「!!!」
あまりにも自分とは無縁の場面に目がチカチカとするセラ
見られていると知らない男女は盛り上がって来たのか、女の方が男の服をはだけさせようとする
これはやばい!と思い静かに後ずさろうとした時
パキッ
小さな枝を踏んでしまい音が鳴る
目の前の男女はハッとした顔でセラの方を見てお互いに目を見開いて固まる
「キ、キャー!!!」
いち早く反応したのはドレスの女性
身なりを整え顔を隠しながら庭園から出ていってしまった
セラは出ていった女性の方に視線を向けていると、男の小さなため息が聞こえる
「見ない顔だな」
その声に男の方に顔を向ける
はだけた服から綺麗な首筋と胸板がチラリと覗く
唇は先程の女性の口紅が付いていて妖艶で
何よりダリルと同じ琥珀色の美しい瞳にセラは見惚れてしまう
まるで彫刻か何かのようだ。
そんな風に思っていた
「おい、聞いてるのか?」
そう言いながら少しずつセラに近づいてくる男性に、我に返ったセラ
「あ、あの!お邪魔してしまったようで!!」
「本当にね・・・君、どこの家の侍女?」
「じじじ、侍女では!・・・わっ!!」
どんどん近づく男に焦るセラは少しずつ後ずさり花壇に足をとられて転びそうになる
ギュッと目を瞑って後頭部の衝撃に耐えようとした時
グイッと手を引っ張られた
目を開けると男の腕にすっぽりおさまっている
「あ!!わ!!!すみません!!」
バッと音がするくらいに離れ深々と頭を下げる
「はぁ・・・ほんと、興がさめた・・・」
貴族の反感を買ってしまったと、震えるセラは小さな声で謝る
その姿に男はセラをジロジロと眺める
セラのひとつに纏めた髪が首筋から垂れる様を見て目を細める
そして、セラの顎をクイっとあげセラの顔をよく見る
「うーん・・・まぁ、悪くないね」
そう言うとセラの顔と自分の顔をゆっくり近づけていく
その瞬間セラは凄い勢いで男の胸元を押し距離を取る
「あ、あの・・・助けてくださりありがとうございました!! これ!!口元拭いた方が良いですよ!!」
そう言ってポケットからハンカチを出して押し付けるように渡す
「じゃあ私はこれで失礼します!!」
くるりとスカートを翻し庭園から走って出る
「あ、おい・・・」
男は声をかけてセラを呼び止めるが、構わず走っていってしまった
無理やり握らされたハンカチを見て口元を拭くと赤い口紅がつく
「ふ・・・ははは。なんだあの変な女」
耳まで赤くして走っていったセラの事を思い出し笑う
「こんなところにあんな面白い女がいたなんて・・・」
男はハンカチを持ってセラとは反対方向に向かってゆっくり庭園を後にした
「はぁ、はぁ・・・なにあの人・・・」
庭園から廊下に入り、呼吸を整える
ふぅ・・・と一呼吸置いた瞬間先程のことを思い出し、顔が熱くなり手でパタパタと仰ぐ
「やっぱ・・・貴族様とは分かり合えないかも・・・」
そんなことをぼそりと口に出し、冷め始めた顔を触っていると廊下の奥から声が聞こえてくる
「セラー!」
その声にセラはホッとした顔になりダリルに向かって走る
その姿にダリルはなんだか心臓の奥がキュっとなるしかし次の言葉で別の意味でギュッとなってしまった
「スミス伯爵様!」
セラがそう言って近づいて来たのでダリルとマルコはそわそわと慌てだす
「セラ!その、スミス伯爵様と言うのは・・・」
「え・・・あ。すみません。ダメでしたか?」
シュンとした表情になる
「い、いや・・・ダメと言うか・・・」
まさか偽名を教えたことが自分の首を絞める事になるとは・・・と頭を悩ませたが、ここでマルコが上手く取り繕う
「セラ!ダリル様と呼びなさい。伯爵様はな、仲良くなった者には下の名で呼ばせるんだ。ね?ダリル様」
「ああそうだ。セラ、私のことは下の名で呼ぶと良い」
そう言うとセラは驚いた顔をして手を顔の前で振る
「そんなの無理です!!平民の私が!!」
「良いから!!ダリル様の願いを聞いてあげてくれ」
必死の形相で言うマルコと後ろで激しく頭を振るダリルの圧に押されるセラ
「・・・ダリル様」
上目遣い気味にダリルを見るとダリルの顔がみるみる赤くなる
それを見たセラもまた釣られて赤くなる
マルコはそんな二人をジトッとした目で見ているとダリルが咳払いをする
「ゴホンッ・・・セラ、これからはそう呼んでくれ。」
「わ・・・わかりました」
セラは両手で頬を挟んで返事をする
「ダリル様~、セラ嬢」
丁度よくハリスが手を上げながら歩いて来た
「こちらにいましたか、セラ嬢お疲れ様です。」
「あ、ハリス伯爵様ありがとうございます。」
セラはハリスに頭を下げる
「自分の力を出しきれましたか?」
「一応・・・でも、頑張りました!」
「そうですか、それならきっと大丈夫ですね!」
ハリスはにこりと笑い、では合否を聞きに会場まで向かいましょう。と言うとセラがダリルの方を向く
「私はまだ仕事が残っているのでな、ハリス伯爵後は頼む」
「承知しました。」
そう言ってハリスとダリルは目配せする
「セラ嬢、参りましょう」
そう言って二人は歩き出す
その姿を後ろからダリルが見ていると、マルコはコソコソと話しかけてくる
「ダリル様、どうしてセラに自分が王太子と言わないのです?」
「それは・・・あんな風に真っ直ぐ私を見てくれなくなりそうでな」
王太子と知れば、あんなに真っ直ぐ自分を見ないだろう
そう思うとダリルはまだ自分の正体を明かせなかった
「いつかはバレてしまいますよ?」
「その時は仕方ない。だが、今はもう少しだけこのままで・・・」
そんなダリルをマルコは横目で見て、「わかりました」と言うだけに止めた
「それでは結果をお伝えいたします」
「よろしくお願いします」
試験を受けた部屋に戻るとすでに採点が終わったようで試験官の二人が待っていた
男性の試験官が結果の書かれた紙を持ってセラの前に立つ
セラはバクバクと聞こえてくる自分の心臓の音に胸の前で手をギュッと握る
「平民の娘セラ・・・合格!」
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