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22:顔合わせ
しおりを挟む「今日から君たちと共に働く、翻訳師のセラだ。セラ、みんなに挨拶を。」
ハリスに促され、セラは一歩前に出る
「はい。セラと申します!本日からよろしくお願いします。」
セラはハリスの隣で深々と頭を下げる
王宮から支給された黒を基調とした制服は、金のラインが入ったジャケットと
動きやすい膝丈のスカート。中に着るベストも着心地が良い。
セラはなんとなく、偉くなった気持ちになった
第一印象が大切だと言われていたので笑顔で顔を上げると、
10名程の図書室勤務の職員が、控えめではあるがセラに拍手を送る
普段活気ある商店の中で過ごしていた為、歓迎されているのかわからない、このなんとも言えない空気に不安になった
そんなセラの空気を察したハリスはこそっと話しかける
「彼らはとても歓迎しているようですよ。」
本当に?と思ったが、ここで挫けていてはダメだと思い直す
ハリスは並んでいる職員達に声をかける
「セラは翻訳がメインですが、君たち同様の仕事もこなします。セラ、マギーから一通りの業務を教わってください。では、他は業務に戻って」
そう言うと皆バラバラに動き出す
マギーと言われた女性を除いて、
「あれ?あなたは試験の時の」
「はい、試験官を務めました。セラさん。本日からよろしく。」
赤毛で大きな眼鏡をかけたマギーは、にこりと微笑む。
「よろしくお願いします!」
セラは深くお辞儀をする
「では、業務内容をご説明しますね。意外と多いので本日は覚えてくださるだけで大丈夫です。」
「以上が基本業務です。他に質問はありますか?」
「いえ・・・ちょっとまだ全部覚えられるか不安なくらいで・・・」
セラは手にメモとペンをもって答える
その姿にマギーはクスリと笑う
「大丈夫ですよ。すぐ出来るようになります。しばらくは私と一緒にやりますので、何かあれば都度質問してください。」
優しく教えてくれるマギーに、セラはホッとする。
「マギー様はこのお仕事は長いのですか?失礼ながら落ち着いていらっしゃるし、同じくらいの年齢な気がしたのですが」
「様は要りませんよ。貴族といえども末端男爵家の末娘ですし。歳は19歳です」
「では、マギーさんと呼ばせてください。 私は23歳なので私の方が上ですね。失礼しました。」
頭を下げるとマギーは頭を上げるように言う
「頭を上げてください。ここでは年齢など関係なく能力が大切なのです。それに、図書室には歳の近い女性が少ないですから、セラさんが来てくれて私は嬉しいですよ、仲良くしてください」
マギーのその言葉にセラは嬉しくなる。
慣れない場所で緊張していた中、そんな風に言ってくれる人がいる。
それだけで今日一日が幸せな気分だった。
「ありがとうございます。改めてよろしくお願いします!マギーさん」
「セラ嬢、この本をお願い出来ますか?」
「はい」
午前中はマギーに一通りの業務を教わり、午後からはハリスと2人で研究室で古書の翻訳の業務を始める
大きな机にあらゆる国の文字が書かれた書物が重なって置かれており、ハリスの勤勉さが窺える
「ハリス伯爵様、私の事は紹介の時のようにセラと呼んでください。もともと私は令嬢でもありませんし。」
「そうですか?ではセラも私の事は伯爵様と付けなくて良いですよ?ここは貴族家系が働いているので、名前だけの方が楽ですし。 仕事の時だけ司書長と呼ぶ方も多いですが。」
そう言われてセラはギョッとする
「え、でも・・・では、お仕事中は司書長と呼ばせてください・・・ハリス様」
「はい、それで良いですよ。」
ハリスはにこりと微笑むとまた本の翻訳に没頭し始める
穏やかで真面目なハリスを見て、セラはこの方は私がどの立場にいても変わらないのだろうと感じた。
「セラ、ここはどのように読むのが良いのでしょう?」
「あ、ここは・・・」
穏やかに午後が過ぎていく
初日にも拘わらず、向けられた視線に悪いものがない
以前ハリスが言っていた言葉
『私の部下として配属される貴女への嫌がらせは私が断じて許しません。』
あの言葉は本当だったんだと感じた
カリカリとペンを走らせる音が響く
「マルコ」
「ダメです」
マルコは名前を呼ばれてすかさず返事をする
ダリルはマルコの顔を見る
「な!!!まだ何も言ってないだろう!」
「どうせ、セラの仕事ぶりを~と仰るつもりでしょう?」
「ぐっ・・・」
ダリルはマルコを睨むが全く効いておらず、マルコは自分の仕事を淡々とこなしている
悔しそうに睨みながらもダリルも仕事の手を止めない
その時、ジャンがダリルの前までくる
「ジャン、どうした?」
「ダリル様。早く仕事を終わらせて、セラを家まで送れば良いのでは?馬車ならば人の目もありません。」
だから早く仕事を・・・と言うジャンの名案に、ダリルは喜ぶ
「それだ!!ジャン!なんて名案なんだ!」
そうと決まれば早く仕事をしよう!と言って先程までと違い集中しだす
そんなダリルにマルコとジャンはコソコソと話す
「ジャン・・・ダリル様があんなにセラにご執心なのはどのような意図があると思う?」
そう聞くと、ジャンは腕を組み少し考えてから口を開く
「・・・私はその手の話は得意ではありませんが、あれが世に言う『恋』と言うものでは?」
我々は生まれた時から婚約者と言うものがいますからねぇ~。と、なんでもないように話すが、マルコはジャンの言葉に固まる
「・・・え?」
「え?」
マルコの声にジャンは反応する
「恋・・・?」
「わかりませんが・・・」
顔を見合わせ時間が止まる
そしてマルコは目を見開きジャンとさらに小声で話す
「そそそそそそ、それは絶対ならん!」
「あー・・・」
「セラは平民だぞ?男爵令嬢ならばまだ・・・」
そこまで行って口を噤む
「良いかジャン・・・ダリル様はまだセラへの想いに気付いていない。」
「そのようですね」
「ゆえに、このまま恋と気付かぬようにしよう」
「どうやってですか?」
「それは・・・どうしたものか・・・」
マルコは頭を悩ませる
「ひとまず・・・我々は何も知らぬふりをすれば良いのでは?」
変な動きをする方がダリル様は気付きますよ?とジャン
それを聞いて確かに。とマルコは納得してしまった
こういうところは長い付き合いだからかわかってしまう
「では・・・我々はひとまず何も知らぬふりをしよう」
二人は無言のまま、深くうなずき合った
その決意が、どれほど無意味なものになるか
二人はまだ、知る由もなかった。
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