恋と愛を知ったのは、陰謀だらけの王宮でした。

みるく

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27:セシルと図書室

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図書室の扉を開け、静かに入る
「誰もいない?」
セシルは足音が響くほど静かな空間に、ここで働いている者はいないのか?と錯覚してしまう。


しかし奥にあるカウンターテーブルに座っている人がいるのを見かけ、少しホッとする
一人になりたいのに孤独になりたくない
そんな矛盾を感じながら、コツコツと音を立てて本棚を見て回る

古い紙の匂いと静かな空間がセシルを包み、さきほどまでの苛立ちが少しずつ穏やかになる
背表紙のタイトルを見ながら、どんな物が置かれているのか見る

幼少期の頃は母が図書室から持ってきた難しい書物をひたすら教育係にさせられていたから、この王宮内の書物は全てそういったものばかりだと思っていた

「案外ロマンスやミステリーなんかも置いてあるのか・・・」
そう口に出しながら1冊手にとろうと手を伸ばす
その時、横から細い手が伸びてきた
その手の持ち主の顔を見る

「「・・・あ。」」
セラとセシルは目が合うとしばしの沈黙の後、同時に声を出した



「お前は・・・」
「な、なぜ・・・ここに」
ようやく落ち着いてきた心は、目の前の女への好奇心でまた疼き出す

「俺がどこに行こうとお前に関係のないことだろ?」
自然と口角が上がり、不敵な笑みを浮かべるセシルは、セラにずいっと吐息がかかるほど近づいた

「ひっ!」
近寄られて思わず小さく悲鳴を上げてしまい、慌てて手で口を塞いでいるセラに、またおかしくて噴き出してしまいそうになる


「お前、本当に面白いな」
小さな声で話すセシルはセラが手に持っている本をチラリと見る

「ふーん。お前、なかなか官能的なタイトルの本を読むんだな。なになに?『公爵夫人の愛人』
『夜伽の後で』か」
「!!!ち、ちがっ!!これは本の掃除をしようとしてっ!!」
タイトルを読んでやると顔を真っ赤にして否定するセラに、セシルは感じたことのない気持ちになる


「シッ・・・ここは図書室だぞ?静かに」
セシルはセラの口元に人差し指を近づける
セラはその行動に驚き一度黙ったあと、セシルに質問する

「・・・あなた様は、一体何をしにこちらへ?」
そう問うセラをみて、セシルは答える
「お前を揶揄いに来たんだ」
色気のある顔でにこりと微笑むその姿は、普段どんな女でも簡単に落ちたのに、目の前のセラには全く効果がない
それどころか少し嫌そうな顔すらしている
その顔すらセシルには面白く、今までの女子とは違うと感じた

「あの・・・私はセラと言います。お前はやめてください。」
そう言ったセラにセシルは目を細める。
「やはりセラと言うんだな。昨日お前がそう呼ばれているのを聞いた。」
「え? あ、あの時ですね。そうです。」
キョトンとした顔でセシルを見る姿に、セシルはきっと彼女が王子だと知らないのだと思った。
「ふぅん。セラ、ここの職員であれば令嬢だろう?その割には話し方が砕けているな」
「あ、すみません。」
頭を下げるセラにセシルは続ける。
「別に俺は気にしてない。ところで、ここに配属された平民が見たいんだがどこにいる?」
兄上が入れた翻訳師。
一体どんな男だろうか。
そんな風に思っていると、セラが口を開く。

「あ、それ多分私です」
小さく手をあげ言う姿に、
セシルは目を見開く。

「お前・・・?」
「はい。」
俺よりずっと背が低く、まるで少女のような女が?
「平民・・・?」
「そうです。言葉遣いがなっていなくて申し訳ございません。」
また頭を下げるセラを見て、あまりにも意外すぎて言葉を失った。
あのお堅い兄が連れてきた平民が、目の前の面白い女とは・・・と。

「えっと・・・貴族様?」
覗き込むようにこちらを見るセラに、我に帰ったセシルはセラの頭をクシャクシャと撫でる。
「わっ!!」
「俺はセシルだ。ここは貴族ばかりなんだから貴族様だとみんな振り返るぞ。」
「たしかに・・・では、セシル様。」
セラは納得したようにセシルの名を呼ぶ。
その言葉に満足したのか、自分でも理由が分からないまま、優しく微笑んだセシルは出口に向かう
「じゃあまたくる。セラ」
その言葉を残して去っていったセシルの後ろ姿をしばらく目で追っていた。








「あ、いたいた。セラさん、司書長が研究室に呼んでいますよ」
マギーが声をかけるとセラはマギーの方に振り返る
「あ、はい!」
手に持っていた本を本棚に戻す

「研究室での作業が終わったら、そのまま帰宅してもらって構いませんよ」
「わかりました!・・・あの。」
マギーがセラに予定を伝え、カウンターテーブルの方へ行こうとした時、セラから声をかけた
「どうしました?」
「あの・・・私を辞めさせられるくらいの爵位ってどれくらいなんですか?」
「え?・・・うーん。そうですね、セラさんは王太子様の許可を持って選出された方なので、もしも辞めさせる、となるのなら公爵位以上ではないでしょうか?」
「こ・・・公爵以上・・・」
「あ、でも公爵であっても進言が通ればの話です。セラさんは司書長も期待していますし、王太子様であっても辞めさせるのならそれなりの手順が必要かと。」
セラはマギーの話を最後まで聞かず、公爵という言葉に心臓が強く鼓動した

少し青ざめたセラにマギーは肩をトントンと叩き、質問する
「セラさん、・・・セラさん?どうしてそんなことを聞いたのですか?」
「え?」
「顔色が悪いですよ? まさか、公爵位の方に何か言われたのですか?」
心配そうに覗き込むマギーに、セラは頭をブンブンと振って否定する
「そんなことないです!ただ、やっぱり平民に良い感情を持っていない方も少なくないと思うので、もし私が辞めさせられるなら、どのくらい爵位の高い方なのかなって思っただけで・・・」
そう言うとマギーは少し納得したように微笑む

「そうですか、ここには侯爵や公爵も来られることがありますが、どちらかと言えばその方の従者が代わりに来て本を借りていかれるので、そんなに接触することはないと思います」
「心配しなくても大丈夫ですよ」とセラの肩をさする

「そうなんですね。やっぱりまだまだ知らないことばかりです。」
「少しずつ慣れていけば良いですよ。図書室の職員は穏やかな方が多いですし。」

そう言われて少しホッとするセラ
「ありがとうございます。私、司書長の所に行ってきます!」
そう言ってマギーに頭を下げた。研究室へ向かっていった
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