32 / 44
32:静かな時間
しおりを挟むあの後マルコ様とジャンさんが慌てた顔で駆け寄って来て、一緒に花火を楽しんで解散した
それから数日が過ぎた
「セシル様・・・」
本の整理のためにカウンターで作業をしているセラの向かいにセシルが座ってジッ見つめ続ける。
その視線が気になって本の整理が思うように進まない。
「なに?セラ」
「あの、作業しにくいんですが・・・」
「ふーん。俺は気にしてないけど。」
「いや、私が気になるんですって!」
少し声を荒げてしまい、手で口元を押さえ、
必死にあっちのテーブルで本を読んでほしいと目配せするが、セシルは素知さらぬ顔をして持ってきていた本に視線を落とす
先程とは逆にセラがセシルをじっと見る
長い金色のまつ毛が琥珀色の瞳を隠し、スッと高い鼻は造形が美しくまるで彫刻のよう
薄い唇は綺麗なピンクで・・・と考えていくうちに先日の夜市で髪にキスを落とされたことを思い出し恥ずかしくなり、その記憶を追い出すように頭を振った
「先日・・・夜市の・・・」
セラはドキリと跳ねる
丁度その日の事を思い出していたから
「は、はい?」
返事をすると、セシルは視線を本から外す事なく話しだした
「夜市で人とはぐれたと言ってたな」
「はい。言いましたね。」
「女友達と来たのか?」
セシルはダリルといたことは知っているはずなのに、そんな事を聞く
自分でもこんなことを聞いてどうするんだと思いつつ、あの日からモヤモヤが消えないセシルはこんな感情が初めてのことで、モヤモヤを解消するために聴くつもりじゃなかったことを口に出した
「いえ、お世話になっている方をお誘いして四人で回っていましたよ」
その言葉にセシルはセラの顔を見る
すると、首をコテンと傾げてなんでもないような顔をして答えている
その姿に、本当になんでもない関係なのだと感じてホッとした
そのホッとした気持ちにセシルは何故ホッとしたのかと一瞬考えたが、それよりセラに聞きたいことがあり、頭の隅に追いやった
「お世話に?」
「はい、ここの司書長も誘ったのですが、予定があって無理だったので、スミス伯爵様とその従者の方々と周りました。」
「・・・スミス伯爵」
セシルが見たのはダリルだったはずなのに、知らない貴族の名を言うセラ
「ご存知ですか?」
セラはセシルが知っているのだと勘違いして、知り合いなのかと尋ねてくる
「スミスと言ってもそのファミリーネームはよくある名だしな。」
うーんと考えるような仕草をするセシル
セラはその言葉に確かにと納得した
「あ、ですよね。ダリル・スミス伯爵様です」
ダリル
その名を聞いて、ドキッと心臓が跳ねた。
それと同時にやはりと思った
兄上はセラに身分を明かさずに会っているのだ・・・と。
そうじゃなければ王太子にあんな風に笑いかけるなんて無理だ。
セシルの考えこむ姿に、セラは顔を覗き込む
「ご存知じゃない方でしたか?」
「っ!!」
覗き込まれ、セラの顔が近くに来たことに驚き少し後ろに引く
俺が近づくと嫌がるくせに・・・などと思った
「いや・・・知っている。」
「そうなんですね!貴族の世界は狭いんですね~」
呑気に話すセラに、俺の兄だよ!とは言えず黙る
「そういえば、セシル様の瞳の色とダリル様の瞳の色はよく似ていますね。
実は同じ血筋だったりするのかもしれませんね。」
などと核心につくような事を言ってきてギョッとする
言って驚かせてやりたいと思う反面、この気軽な雰囲気を壊したくなくて話せない
兄のダリルも同じことを考えて言えないんだろうとセシルは思った
「・・・いい加減他の男の話はやめてくれ。まだ話すようならその口、俺の唇で塞ぐぞ」
ニヤッと笑うとセラはカァッと顔を赤くして怒る
もう少しだけー
セシルはそう思いながらセラと小さな声で笑い合った
昼下がりの静かな図書室での出来事
「はぁ・・・・・・」
あの夜市から数日、暇さえあればため息ばかりついている男が一人
「おい・・・ジャン」
「なんですか?」
「ダリル様のあれはどうにかならないのか?」
「あれって、あのため息ですか?」
マルコとジャンはダリルの方をチラリと見る
「・・・はぁ・・・」
どこか憂いを帯びた顔
目はどこを見てるかわからない。
おそらく天井だろうか
時々右手を見ては口角があがる
「あれは、間違いなく恋と気付きましたね」
ジャンがマルコに聞こえる声で言う
「え?!セラに?!ぶっ」
空気が読めないのか、驚いてかマルコは大きな声で聞き返す
その音量にジャンはマルコの口を手で塞ぐ
「セラ?!」
マルコの言葉に、ダリルはガタッと勢いよく椅子から立ち上がり、キョロキョロと見回す
そのダリルの見たことのない姿に、恋はこんなにも人を変えるのだな・・・と二人は感じた
「はぁ・・・ダリル様、セラはおりません」
「え?・・・あぁ、そんなことはわかってる・・・」
少しがっかりした雰囲気を出して椅子に座りなおし書類に目を通し始める
しかし、しばらくするとまた手が止まりボーッとする
その姿に、やはり自覚してしまったのか。
とマルコは小さく息を吐く
この自覚が、ダリルにとって悲しい結末になるかもしれないと思うと、ずっと側で見てきた身として辛くなる
「ダリル様、もしかしてなのですが。」
マルコが話しかけ、ダリルがマルコの方を見る
「なんだ?」
「セラのこと・・・女人として好意があるのでは?」
「?!」
マルコの言葉に頬を染め目を見開く
「なっ!!なぜ・・・」
口をぱくぱくとしながら硬直するダリルにマルコは続ける
「恐れながら申し上げます。お分かりかと思いますが、セラは平民です。ダリル様とは本来関わることすらない者です」
「・・・わかっている」
急に現実を突きつけられ顔が暗くなるダリル
そんな顔をさせて苦しくないわけがないが、これは現実
マルコは従者として言わなければならない
「いつかはあなた様もセラも別の人と生涯を共にするのです。報われない恋とおわかりですか?」
「わかっ・・・わかっている」
20代も半ばになった男の初めての恋
許されない恋
ダリルはマルコの言葉に胸がキュッと締め付けられ苦しい
他の男と手をとり合い子を生み、家庭を築くセラと選出された名家から嫁いできた令嬢と結婚し国を繁栄させる自分。
出来ればセラの隣は自分がいい。
その願いは叶わない
それが頭の中でぐるぐると回る
ダリルの悔しそうな、苦しそうな顔を見てマルコは続ける
「しかし!周りから男が好きなのでは?と疑われておられたダリル様に恋の春が訪れた事は、幼き頃から共にいた私やジャンとしては喜ばしいことです!」
その声に顔をあげマルコを見る
「かなわぬ恋ではありますが、ご婚約者様が決まるその時までは、ダリル様の初恋を応援いたしますよ。」
マルコは優しく笑う
ジャンは後ろで静かに頷く
二人の優しさにダリルは目頭が熱くなった
「二人とも・・・ありがとう」
昼下がりの静かな執務室での出来事
「なんですって?!」
バンッとベッドサイドにある小さなテーブルを叩く
抱いていた赤子がびくりと驚き泣き始める
「セシル様が夜市で女と・・・?」
「ティファ様、どうかお怒りにならず」
侍女がティファを落ち着かせようとするが、ティファの怒りは治らない
「セシル様はどこ?!連れてきて!!!」
0
あなたにおすすめの小説
短編 お前なんか一生結婚できないって笑ってたくせに、私が王太子妃になったら泣き出すのはどういうこと?
ヨルノソラ
恋愛
「お前なんか、一生結婚できない」
そう笑ってた幼馴染、今どんな気持ち?
――私、王太子殿下の婚約者になりましたけど?
地味で冴えない伯爵令嬢エリナは、幼い頃からずっと幼馴染のカイルに「お前に嫁の貰い手なんていない」とからかわれてきた。
けれどある日、王都で開かれた舞踏会で、偶然王太子殿下と出会い――そして、求婚された。
はじめは噂だと笑っていたカイルも、正式な婚約発表を前に動揺を隠せない。
ついには「お前に王太子妃なんて務まるわけがない」と暴言を吐くが、王太子殿下がきっぱりと言い返す。
「見る目がないのは君のほうだ」
「私の婚約者を侮辱するのなら、貴族であろうと容赦はしない」
格の違いを見せつけられ、崩れ落ちるカイル。
そんな姿を、もう私は振り返らない。
――これは、ずっと見下されていた令嬢が、運命の人に見初められる物語。
見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。
阿里
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。
選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。
涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。
彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。
やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。
あなたのためなら
天海月
恋愛
エルランド国の王であるセルヴィスは、禁忌魔術を使って偽の番を騙った女レクシアと婚約したが、嘘は露見し婚約破棄後に彼女は処刑となった。
その後、セルヴィスの真の番だという侯爵令嬢アメリアが現れ、二人は婚姻を結んだ。
アメリアは心からセルヴィスを愛し、彼からの愛を求めた。
しかし、今のセルヴィスは彼女に愛を返すことが出来なくなっていた。
理由も分からないアメリアは、セルヴィスが愛してくれないのは自分の行いが悪いからに違いないと自らを責めはじめ、次第に歯車が狂っていく。
全ては偽の番に過度のショックを受けたセルヴィスが、衝動的に行ってしまった或ることが原因だった・・・。
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
乙女ゲームは見守るだけで良かったのに
冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。
ゲームにはほとんど出ないモブ。
でもモブだから、純粋に楽しめる。
リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。
———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?!
全三話。
「小説家になろう」にも投稿しています。
【完結】花冠をあなたに ―信じ尽くした彼女の、最期の言葉―
桜野なつみ
恋愛
病弱な婚約者を支え続けた令嬢ミリアーナ。
幼いころから彼を想い、薬草を学び、研究し、元気になったら花畑で花冠を編ごう」と約束していた。
けれど、叔母と従妹の影がその誓いをゆがめ、やがて誤解と病に蝕まれていく。
最期に彼女が残したのは――ただ一つの言葉。
全十話 完結予定です。
(最初は全四話と言っていました。どんどん長くなってしまい、申し訳ありません。)
実家に帰ったら平民の子供に家を乗っ取られていた!両親も言いなりで欲しい物を何でも買い与える。
佐藤 美奈
恋愛
リディア・ウィナードは上品で気高い公爵令嬢。現在16歳で学園で寮生活している。
そんな中、学園が夏休みに入り、久しぶりに生まれ育った故郷に帰ることに。リディアは尊敬する大好きな両親に会うのを楽しみにしていた。
しかし実家に帰ると家の様子がおかしい……?いつものように使用人達の出迎えがない。家に入ると正面に飾ってあったはずの大切な家族の肖像画がなくなっている。
不安な顔でリビングに入って行くと、知らない少女が高級なお菓子を行儀悪くガツガツ食べていた。
「私が好んで食べているスイーツをあんなに下品に……」
リディアの大好物でよく召し上がっているケーキにシュークリームにチョコレート。
幼く見えるので、おそらく年齢はリディアよりも少し年下だろう。驚いて思わず目を丸くしているとメイドに名前を呼ばれる。
平民に好き放題に家を引っかき回されて、遂にはリディアが変わり果てた姿で花と散る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる