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34:届かぬ想い
しおりを挟むセシルはティファの部屋を出て、真っ直ぐ目的の場所へ歩く
「・・・セラ」
思い浮かぶのはセラの屈託のない笑顔
セラと話せばこの気持ちはまた解消される。
そう思いながらセシルは図書室への廊下を急いだ。
歩く速度がどんどん加速して、気がついたら走っていた。
すれ違う人は端に避け、第二王子の行く手を阻むことはない。
この角を曲がればもうすぐ図書室
そう思い曲がった瞬間、図書室から同じ司書仲間と話しながら出てきているセラが見えた。
「セ・・・」
手を伸ばし、声をかけようとしたその瞬間、喉が張り付いたようになり、セシルは名前を呼べなくなった。
この瞬間、頭をよぎったのはティファの言葉だった。
『良いですかセシル様。王子ともなれば側室の一人や二人いても不思議ではございません。しかし、その側室はセシル様をお助け出来る家柄から選ばれてくるのが慣例です。』
『平民に手を出すとしても、側室に上がれるともなれば男児を生む場合のみ。この国では王太子様だけでなく、第二王子様であらせられるセシル様も同様なのです。』
頭で反芻するその言葉に声が出なくなり、セラを呼び止めることも、伸ばした手でセラに触れることも出来ず、空を掴むようにギュッと握られた。
司書仲間と笑い合いながら遠のいていくセラの背中を見て、セシルは苦しそうに顔を歪ませきた道を戻るセシルの足取りは、来る時よりも重かった。
「?」
セラはパッと後ろを振り返り頭を傾げる
その姿にマギーはセラに尋ねる
「どうしました?セラさん」
「・・・今、誰かに呼ばれた気が・・・」
ジーッと廊下を見つめるセラと同じ方向を見るマギー
「・・・誰もいませんよ。気のせいかと。」
「あはは、ですよね!じゃあ、私は研究室へいってきます!」
「はい、お気をつけて。」
マギーに手を振りながら歩いていくセラ
マギーはもう一度セラが見ていた場所を見て、図書室へ戻っていった
「司書長、こちらの翻訳ですが・・・」
「どれかな?・・・あー、また読み間違えてましたか」
「少しわかりにくい書き方なので、私も不安ですが。」
「いや、こちらの方が前後の文章的にも自然だからこちらで間違いないと思う。さすがセラだ」
「そんなこと・・・」
ハリスに褒められ、嬉しそうに照れ笑いするセラ。
そして、どんどん翻訳が進んでいくことに喜びを隠せていないハリス
その二人の姿を見て少し不満気なダリルと、そんなダリルを横目でじっと見るマルコ
「ハリス伯爵とセラは仲が良いですね」
マルコはセラとハリスに話しかける
その言葉にビクッと反応するダリル
初恋と気付いたばかりのダリルを少し揶揄うようにマルコは目配せする
それに気付かずセラはニコニコと返答する
「ハリス伯爵様はお優しいですから、私のような平民にも平等に接してくださいます」
「私は平民や貴族などと言うものより、人を見て判断したいだけですよ。もちろん、社会的地位が大切な場面も沢山ありますが。」
そう言ってニコニコと笑い合う二人の姿に、ダリルは理由の分からない、胸の奥がざわつくような腹立たしさを感じた。
「わ、私もハリス伯爵と同じ考えだ!!」
バッと音がするくらい勢い良く言うダリルにセラが口を開く
「もちろんです!ダリル様のおかげで、毎日のようにこうしてお仕事をさせて頂いております!実家にも決まった金額を持ち帰ることが出来るので、以前よりもずっと暮らしも楽になりました!」
ありがとうございます。と、セラが一歩近づいた瞬間、ダリルは呼吸の仕方を忘れるくらい胸が大きく跳ねた。
そして、遅れて顔が熱くなるのを自覚する。
「?・・・ダリル様、お顔が赤いですが具合が悪いんですか?」
心配そうな顔で見てくるセラがキラキラと眩しく見える
ダリルは口元を手で塞ぎ顔を横に向けた
「・・・いや、大丈夫だ」
「そうですか?具合が悪くなったらすぐ仰ってくださいね」
二人のその姿に、マルコもハリスもニヤニヤとしてしまう。
我が国の王太子のなんて初々しいこと、と。
マルコは一緒になってニヤニヤしているハリスの顔を見て、もしかして王太子の気持ちをご存知ですか?と目配せすると、ハリスはにこりと微笑む
マルコはその顔を見て、「なるほど。ダリル様の気持ちを知っているのか。」と思い、ダリルに聞こえるようにハリスに話しかけた。
「ハリス伯爵様はまだ未婚でいらっしゃるし、セラも未婚。二人での作業も多いですし、何かと噂などされませんか?」
その言葉にダリルは目を見開き、ハリスを凝視した
ハリスはマルコの唐突な話にギョッとして、少し言葉が詰まった
「えっと・・・」
「それはありえませんよ!」
ハリスが困っているとセラが声をあげる
そこにいた全員がセラを見る
「それはありえません。だってハリス様には・・・」
二人はゴクリと喉を鳴らし、セラの言葉の続きを待つ
「幼い頃から結婚を約束している婚約者様がいて、ハリス様はそれはもう婚約者様にメロメロなんですから!」
ね?とハリスに同意を得ようと笑う。
ダリルとマルコはハリスの顔を見ると、ハリスは真っ赤な顔をしてコクコク頷いている
「「えー!!!!」」
ダリルとマルコが同時に叫び、研究室の外を歩いていた人がビクッと驚きながら通り過ぎていった
「ハリス伯爵、それは本当なのか?!」
ダリルが食い気味にハリスに尋ねるとハリスは頭をポリポリと掻き、照れながら話す
「ええ、セラの言った通りです。」
「近々ご結婚されるのですよね!婚約者様、とってもお美しいからきっとドレスもお似合いでしょうね~」
うっとりとした顔で話すセラとうんうんと激しく頷くハリス
「私の婚約者は長く病で苦しんでいたのですが、私の友人のおかげでとても良くなったのです。まだ抵抗力もあまりないので近親者のみの小さな式なのですが。やっと彼女を妻に迎えられると思うと幸せで・・・」
蕩けそうなほどの顔で話すハリスはそこにいた三人の顔も赤くしてしまうくらい美しく、ドキッとさせた
そんなハリスを見て、セラとは本当に何もないのだとわかり、ホッとするダリルは晴々とした笑顔でハリスを見る
「そうだったのか。知らなかったとは言えマルコが失礼なことを言った。主人として謝ろう」
「いえ!お気になさらず。知っているのは図書室で働いている者くらいなので。」
「そうか、では日取りだけあとでマルコに言っておいてくれ。個人的に私から贈り物を贈らせてくれ」
「え!?そそそそそんな!!お気になさらず!」
「いいからいいから!」
ダリルとハリスはしばらくそのやりとりをして結局ハリスが折れることになった。
「お義母様、お元気ですか?」
「まぁ、ティファ王子妃!来てくれて嬉しいわ。さぁ、中にお入りになって」
「失礼いたします」
王妃の部屋の扉がパタンと静かに閉まった
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