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35:義母の思惑
しおりを挟む「本日はどうなさったの?私の可愛い孫娘は一緒じゃないの?」
扇子を広げ優雅に椅子に座るサリアナはティファにも座るように手で促す
「後ほど参ります。その前にお義母様にお話ししたいことがございます。」
「まぁ、一体何かしら。」
サリアナの侍女マーヤが二人の前に湯気のたったティーカップを置き、一礼して部屋から下がった。
ティファはそのティーカップの中の紅茶の波紋をじっと見たあと、サリアナの方を向いた
「セシル殿下の素行について、お義母様からもセシル殿下に、一言ご忠告していただきたく今日は参りました。」
サリアナはテーブルからカップをとり、口を付ける瞬間に、ティファの言葉に止まった
「・・・セシルの素行ですか?」
にこりと微笑むサリアナに、ティファは背筋が強張った
微笑んでいるのに、全く笑っていない。そう感じたからだ。
「はい・・・」
「妻であるティファ妃から見て、セシルの素行に何か問題があると?」
サリアナはカップの紅茶を少し口に含みソーサーに置くと、ティファをじっと見つめる
「・・・はい。」
背中にじっとりと汗をかいているような気がする。
そのくらいこの空間は緊張で張り詰めていると感じた。
何か一言でも間違えてしまえば、冷遇されてしまうかもしれない。
セシルがあの状態ならば、自分が頼れるのはセシルの実母であるサリアナのみ。
そう思いながらも、この夫婦関係をどうにかしたくてここまで来たティファは、サリアナからは見えない手をギュッと握った。
「まぁ、産後にそのような悩みを持っていたなんて・・・それは困ったことですね。母である私がセシルに言っておきましょう。」
心配だと言いたそうな顔でティファを見る。
その姿にティファはホッとした。
やはり同じ女、相談して良かったと心から思った。
「あ、ありがとうございます。お義母様に相談して良かったです。」
そう言ってティファは目の前にある紅茶に口を付けた。
「ところで、セシルの素行とはどういったものですか?」
ティファはカチャリとソーサーにカップを置くと、サリアナの顔を見た。
「はい。・・・女性問題です。」
しばしの沈黙
サリアナは扇子をバッと音を立てて広げ口元を隠す
「女性・・・ですか?」
冷ややかな声にティファはビクリと身体を揺らす
「はい・・・お義母様が私との絆を深めるようにと仰ってくださった後も貴族令嬢と密会や逢瀬を重ねたり・・・」
「はぁ。ティファ妃。」
サリアナのため息にドキドキと心臓がうるさく鳴り響くティファは絞り出すように声をだした。
「はい、お義母様。」
「正妃である貴方がそんな事でどうするのです?セシルは第二王子ですよ?側女の一人や二人いたところで、貴女以外が正妻となる事はないのです。」
「お・・・義母様・・・ですが。」
「ですが、ではありません。」
パチンッと扇子を閉じ、閉じた扇子をティファに向ける
「貴女の実家と私の実家は昔から縁あって共に手を取り合う仲でした。それこそ、王家への忠臣よりも優先した事もあると言うことは幼い頃から教えられてきていたはず。」
「・・・勿論でございます。」
その言葉にサリアナはまた扇子を広げ、口元を隠す。
「今回私が王妃となり、貴女の実家とは貴族としての序列は並ぶどころか逆転しました。」
「はい。」
吐き気を催すほどの緊張がティファを襲う。
サリアナの静かな怒りは部屋の温度を下げている気がした。
「この婚姻はね、私と貴女のお父上との間で、貴女が産まれる前から決まっていた事なのです。」
「え・・・」
ティファは初めて聞く話に驚いた
そんな驚いているティファを見て、サリアナはさらに話を続ける
「・・・貴女はお父上からセシルを王に。という話を聞いたことがあるでしょう?」
その言葉にティファは身体をビクリと揺らす。
そして、しばしの沈黙の後口を開いた。
「・・・はい。」
「貴女はセシルを王にするためにも必要なのです。王太子は文武両道ですが、まだ婚約すら出来ていない。セシルはその点もう貴女がいて、女子ですが既に娘もいます。ダリルよりも先に男子を望むことが出来るでしょう。」
サリアナは優雅な所作で紅茶を飲む。
サリアナのその言葉に、ティファは顔色を悪くする
「で・・・ですが・・・王太子様を王位から降ろすなど、謀反になるのでは・・・?」
「その辺に関しては心配いりません。王位を降りざるおえない手筈になってるので。」
なんの感情もないというような顔でそう話すサリアナにゾクリと寒気がする
「王妃様は、ご自分のお子様である王太子様を、なぜ王位から降ろそうと思っておられるのですか・・・?」
まるで言葉を確かめるように慎重に話すティファにサリアナは微笑む
「セシルの方が可愛いからです。」
その言葉に、ティファは子を生んだ母として全く理解ができなかった。
「それに、貴女が王妃になる事を、貴女のお父上が望んでおられるのです。ですから私は、貴女のお父上と手を組みました。・・・それ以上は貴女が知る必要のないことです。」
ピシャリと言い放たれ、それ以上口答えや質問を許さないといった空気が流れた
「わかりましたね。今貴女の一番の仕事は、王位継承権を持つ男子を生むこと、後の王妃になる者としての責務と思い果たしなさい。」
「はい。」
「セシルには女遊びをほどほどにして、貴女と夜を過ごすようにと伝えておきます。」
「・・・よろしく、お願いいたします。」
その言葉以外は言ってはいけない。
貴族令嬢として生きてきた自分の感がそう言っている気がした。
ティファは平民との密会の話も言いたかったが、これ以上何か言っても怒りを逆に買うだけだ。
また時期を見て言おう。そう思った。
コンコンッ
丁度よくノック音が聞こえ、マーヤが部屋に入ってきた。
「サリアナ様、ティファ様、セレスティア様と乳母が参りました。」
「まぁ!通してちょうだい。」
サリアナがそう言うと、生後間もないセレスティアを抱いた乳母が頭を下げて入ってきた。
「まぁ!まぁ!セレスティア。私の可愛い孫娘!」
座っていたサリアナは立ち上がりセレスティアの方へ行くと乳母からセレスティアを受け取り抱き上げた
「私は男児しか産んだことがないゆえ、女児がこのように繊細で可愛いと知りませんでした。女子でかように可愛らしいのだから、セシルとティファ妃から生まれた男児はそれはもう素晴らしいでしょうね。」
「勿体ないお言葉です」
ティファは立ち上がり深々と頭を下げた
「良いですか、次こそは男児を・・・ね?」
「はい・・・」
ティファは悔しさなのか悲しさなのかわからない手の震えを隠すようにギュッと握りしめた。
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