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40:気付き始めた気持ち
しおりを挟む庭園から廊下に入ったセシルは早歩きで自室へと急いだ
バタンと締めた扉にもたれ掛かりずるずると床に座り込む
「・・・俺は、何故あんなことを・・・」
思い出しただけで、胸の奥がきゅっと締め付けられる。
両手で頭を抱えて下を向く
顔が熱くてたまらない。
なのにセシルは、胸のつかえが取れたようにスッキリしていた。
セシルは空がオレンジになってきた頃、庭園に入りゆっくりと歩きながら深呼吸をしていた。
「では残りは私がやっておきますね!」
「頼むよ」
庭園の奥からそんな声が聞こえてきて立ち止まる。
誰かいる・・・そう思い場所を移動しようとした時、大柄の男が両手に荷物を抱えながら頭を下げてすれ違った
「あいつは・・・図書室でみたことが・・・」
そう思いふと気付く。
「じゃあ、さっきの声はもしかして・・・セラ?」
最近会えてなかったセラが近くにいるかもしれないと判り、鼓動が少し早くなる
無意識に上がる口角を押さえつつ、どこにいるのかと奥へ進むが、声のした方にはおらず庭園を少し周る。
頭の上に夜の青が少しずつ見えてきた頃、東屋の近くまで来てセシルは足を止め、木の影に隠れた。
そして、そっと覗くと目の前の光景に息が詰まった。
ダリルが小さなブーケを持ったセラの髪に触れ見つめ合っている
何を話しているのかわからないが、その光景を見て胸がギュッと苦しくなった。
早くセラを見つけていれば、もしかしたらダリルが立っている場所は自分だったかもしれないという悔しさと、セラとダリルの関係が自分が思っているよりもずっと深いものかもしれないと、焦燥感に襲われた。
木の影でうずくまったセシル。
その時、庭園入り口の方からセラを呼ぶ声が聞こえてきた。
そしてセシルが座り込んでいる場所すぐ側を赤い顔したセラがパタパタと音を立てて走って行ってしまった。
セラの後ろ姿も見えなくなり、先ほどまで二人がいた場所をそっと見ると、ダリルが東屋のテーブルに顔を突っ伏していた。
その姿を見て、セシルはダリルの方へ足を進めた。
セシルは、先ほど庭園で交わしたダリルとのやり取りを、ずっと頭の中で反芻していた。
「兄上・・・俺はあなたに負けない」
暗い部屋で一人声に出した。
夜も更けた頃。
セラは自室で今日の出来事を頭で反芻していた。
机の上にある花瓶に入っているブーケを見てはベッドの上で転がっていた。
世界がオレンジに染まっている中で、セラの髪を指に絡めたダリル。
「綺麗だ」
その言葉を思い出して、セラは頬をつねった。
「きっと夕焼けとかブーケのことよ・・・」
そう自分に言い聞かせるが顔が熱い。
枕に顔をうずめていると、コンコンと軽いノック音が扉から聞こえてきた。
「はい?」
セラが返事をすると、カチャリと音を立ててドアが開いた。
「セラ・・・晩酌に付き合ってくれ。」
父マートがお酒の入ったボトルとグラスを見せながら入ってくる。
「父さんから誘ってくるなんて久しぶりね!良いよ良いよ!」
セラはにこりと笑い父を迎え入れた。
「ぷはー!!久しぶりのお酒美味しい!」
「おいおい、明日も仕事があるんだからあまり飲みすぎるなよ。」
マートは机の椅子、セラはベッドに座り酒を飲む。
嬉しそうにグラスをすぐ空けるセラに、ため息混じりに明日の心配をするマート。
「わかってるわよ。もう!父さんは心配性ね。」
「ははは、セラは飲むと止まらないからな。」
マートは微笑みながらセラのグラスにまた酒を注ぐ。
薄い黄色の液体がグラスに注がれるのをジッと観察するセラはマートを見て口を開いた。
「でも珍しいね。父さんが飲もうなんて言ってくるなんて、お祝いの時くらいしか飲まないのに。」
と言うと、マートは穏やかな顔をして自分のグラスにも酒を注ぐ
「ん?まぁ、たまには、な。」
「ふーん。まぁ、父さんも母さんが具合悪くしてから飲むなんてほとんどなかったからたまには良いよね」
ほんのり頬を赤くほてらせにこりと笑うセラに、「ああ。」と言って、マートは笑った。
「ところでセラ、仕事はどうだ?だいぶ慣れたか?」
「うん!だいぶ慣れたよ!みなさん平民だからって差別しないし、とても優しい人たちに囲まれていて、毎日楽しく働けてる。」
しかもお給金も多いしね!とニコニコ笑うセラ。
「普段多く関わるのはハリス伯爵様だったな。」
「うん。ハリス様とマギーさん。あと・・・ダリル様もちょくちょく様子を見に来てくださる、かな。」
ダリルの顔を思い出し、今日の出来事がまた頭に浮かぶ。
それを父に悟られまいとセラは口を開いた。
「なんか、珍しいね!!父さんがそんなこと聞くなんて!」
誤魔化すように笑いながら聞くと、マートはゆっくり口を開いた。
「セラが、何か悩んでるように見えたんだ。」
穏やかな顔でセラを見る。
まるで幼い子を心配するような瞳、それと同時に、忙しい中でも自分のことをよく見てくれているマートの愛情を感じた。
「・・・あのね、これは王宮で仲良くなった友達の話なんだけどね・・・」
そう言ってセラは、ダリルとの今日の出来事を友人と貴族男性、と言う架空の人物を使って話した。
「・・・ってことがあったらしくて、その貴族男性は何に対して綺麗って言ったのかな。あと、どうして髪を触るって行動とったのかなって。・・・私にはそんな経験ないからわからなくて」
「えへへ」と頭を掻きながら、マートの顔を見た。
マートは顎に手を添えて考える素振りを見せた。
「ふむ・・・父さんの解釈だが・・・」
「なになに?!」
マートの顔を食い入るように見ると、マートはピッと人差し指を立てセラを見る。
「きっとその貴族男性は、セラの友達が好きなんだろう!」
「・・・え!?えぇーー!!!」
セラは両手で頬を包み顔を赤くして叫ぶ。
魚のように口をぱくぱくとさせるセラを見て、マートは首を傾げる。
「どうしてセラがそんなに驚くんだ?」
「え?!えーいやー。・・・びっくりしただけよ!そう!びっくりしただけ!」
あはは、と笑って見せた後、マートに質問する。
「父さんは、どうしてそう思ったの?」
「ん?そりゃあ・・・母さんにそんな感じのことをしたから、かな。」
マートは頬を染めて当時のことを思い出しているような瞳をしている。
そんな姿に、セラは心が暖かくなった。
「もー!このこの!ご馳走様です!」
肘でマートをつつくような仕草をすると、マートは照れたように笑った。
「でもまぁ、その友達もきっとまんざらでもないんだろうな。」
「え?」
「だって、本当に嫌ならそんな風に悩まないだろ? 本人は気付いてないだけで、実はお互い想いあっているのかもしれないな。」
そう言ってマートはグラスに入っていた酒をグッと飲み干した。
「ん?・・・セラ、どうした?」
「え!?な、なに?」
「なんだか顔が赤いぞ?」
「そ、そうかな?多分酔いが回ったのよ!ほら!父さん、私明日も早いからそろそろ寝るね!!」
急に立ち上がったセラは、父の手を引っ張り、ぐいぐいと部屋の外へ押し出した。
その勢いに圧倒されながら、マートは追い出される形になった。
バタンと閉められたドアの前で、マートはくすりと笑った。
「友達・・・ね。」
そう言ってセラの部屋の前からキッチンへ歩いて行った。
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