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41:紹介
しおりを挟むあの日から三週間ほど経った。
ダリルに会う時どんな顔をすれば良いのかと、ずっと考えていたセラだが、あの日からマルコにすら一度も顔を合わせることなく日々が過ぎて行ってしまった。
「なんだか少し拍子抜けしちゃった。」
そんなことを研究室の机に頬杖をついて独り言を呟いていると
「何が拍子抜けしたんだい?」
後ろから声が聞こえてきて、胸が跳ね、息を呑んだ。
「司書長!?」
バッと音が聞こえそうな勢いで振り返ると、妙に肌艶の良いハリスが立っていた。
「やぁ、セラ。久しぶり。」
「お久しぶりです。楽しい休暇を過ごせたみたいで何よりです!」
最愛の女性との素晴らしい休暇だったのだろうと一目でわかるハリスの幸せそうな姿に、セラまで嬉しくなった。
「ありがとう。とても良い休暇だったよ。」
ニコリと微笑むハリスは少し前に見た時と違う余裕を感じる気がした。
「これが既婚の余裕なのかしら・・・」とセラは考えていた。
「あ!そういえば、司書長が休暇の間に少しずつですがあの本の翻訳を進めていました。」
「本当かい!?」
セラは机の上に広げた本の隣に置いていた翻訳後の紙をハリスに手渡すと、ハリスは目を通していく。
「はい。ただ、医学書なので専門的な言葉が合っているのかを近代医術の本と照らし合わせながらなのでなかなか進まなくて。
それにその言葉も合っているのか不安な部分がありまして・・・」
「君の翻訳ならばきっと大丈夫だよ。
この調子で進めれば、理論上は母君の治療法に辿り着けるはずだ。」
「司書長・・・ありがとうございます」
ハリスの言葉に鼻の奥がツンとなる。
一人での作業はなかなかに孤独で、不安が付き纏っていたからだ。
「あ、そうだ。」
ハリスはふと思い出したように言った。
「セラ、君に紹介したい人がいるんだ。」
「紹介・・・ですか?」
セラは首を傾げハリスの方を見る。
「そう。もうそろそろ来ると思うんだけど・・・」
ハリスが扉の方を見た瞬間
コンコンッ
軽いノック音が聞こえてきた。
「ちょうどいい時に来たみたいだ。」
そう言ってハリスは扉まで行き、ドアを開けた。
「セラ、紹介するよ。こちらはその翻訳を依頼した僕の友人の」
「まて、それは俺がやる。」
ハリスが名前を言いかけた時、グイッとハリスを押し退けて中に入ってきた男性。
濃いブラウンのショートヘアを右側だけ後ろに流した背の高い男が中まで入ってきてセラの間近まで来た。
細身で小柄なセラから見れば男性は大きいが、ダリルやハリスよりももう少しだけ背の高いその人は、まるで深い夜のような蒼い瞳でセラをジッと見つめた。
まるで観察されているかのような視線に、セラは戸惑う。
その瞬間、目の前の男は、まるで太陽のようにニカッと笑った。
「ハリスからずっと聞いてて早く会いたいと思っていたんだ。」
そう言ってセラに握手を求めてきた。
その行動に少し戸惑い男の方を見ると変わらずに笑っている。
「初めまして、セラ。
俺はアルフレッド・エドガー。
男爵なんて立派な爵位はあるが、平民上がりだから仲良くしてくれ。」
「平民!?」
親しげな雰囲気の男、アルフレッドの出自を知って、セラは目を見開いた。
「あぁ、だから気を遣ったりせずに、気軽にアルとでも呼んでくれ。」
差し出された手を更にセラの方へ近づけた。
セラは控えめにその手を握り返すと、アルフレッドはセラの指先へキスを落とす。
「わっ!!」
その行動に驚き手を戻そうとしたが、アルフレッドがそれを許さなかった。
「セラのおかげで難しいと言われていた古文書の解読が出来ると聞いて嬉しかったんだ、貴族らしい挨拶をさせてくれ。」
そう言うとニヤリと不敵な笑みを浮かべ、セラはなんだか気恥ずかしくなる。
セラの姿に満足したアルフレッドは手を離しまたセラを見た。
「で、呼んでくれるよな?」
「え?」
「名前だよ。アルでいいぜ?」
「えぇ・・・そんな、いくら平民だったとはいえ、今は貴族のお方にそのように呼ぶのは・・・」
「お堅いこと言わずにアルで良いって!」
な?と首を傾げながらセラを見るアルフレッドに押される形でセラは口を開いた。
「うっ・・・アル様」
「様はいらねぇ。」
「ア・・・アル」
モジモジとしながら呼ぶと、アルフレッドは嬉しそうにセラの頭をくしゃくしゃと撫でた。
「わっ!」
「よし、お前と俺は同じ立場みたいなもんなんだから、気にせず仲良くしようぜ?去年までは平民だったんだ。貴族様と仲良くってのは妙にむずむずしてさ。」
そう言うアルフレッドは嬉しそうにセラを見た。
セラはそんなアルフレッドを見ながらくしゃくしゃにされた髪を直した。
「・・・わかった。・・・アル」
「おう!よろしくな!」
アルフレッドのペースにのまれていると、横からハリスが声をかけてきた。
「アル、私は貴族ですが仲良くしてくれますよね?」
「わっ!?びっくりした・・・当たり前だろ!ヴィクトル、お前が居てくれたからセラにも出会えたしな!」
「うわっ!アル、危ないっ!」
アルフレッドはハリスの肩に腕を回した。突然のことでハリスは驚き少しよろける。
そんな仲の良さそうな二人を見てセラが声をかけた。
「・・・お二人はとても仲が良いのですね。」
見た感じ正反対そうな二人なのに、思った以上に仲良くしていて驚くセラに、ハリスが答えた。
「あぁ、アルと知り合ったのは、ミラの主治医としてミラの実家に来た事がきっかけなんだ。」
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