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黒い雨合羽
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「なっ、なんじゃあ、こりゃあ~!!!」
あまりの突然のことに俺は、思わず叫んだ。
もし、さっきオリビアが俺を押し倒さずにベンチに座ったままであったなら、恐ろしいことに間違いなくこの十字架に押し潰されていたことだろう。
気付くと、瞬間的にかばってくれたそのオリビアは、もう俺から離れ立ち上がっていた。
「すまない。
どうやら、私のお客らしい」
そう言ったオリビアは、俺を見ることなく、対面する大きな中央噴水の向こう側を苦い表情で睨んでいる。
もうすでに、腰に帯刀していた鉄製の西洋剣は抜刀して臨戦態勢だ。
俺の視線もオリビアのそれに習い、そちらに向ける。そこにいた者とは……。
一見すると全身、黒ずくめの長身の男。
その顔は、黒いレンズのゴーグルと顔にグルグルに巻いた黒いビニールテープで表情は見えない。
足首まである長いゴム製の黒マントにその身を包み、不気味な異端者という印象を持たざるおえなかった。
まるで、全身を完全に絶縁体で包んだ人間。それは、かつて『雷撃の魔剣姫』と呼ばれたオリビアと何か関係があるのだろうか?
また俺は、この男の黒ずくめではないありえない異常な部分があることに気付いてしまったのだが……。
と、そんなことを考えていると、すぐ横にある元ベンチに突き刺さっていた重厚な十字架が、まるで反重力エンジンでも積んでいるようにふわりと宙に浮かんだ。そして、ゆっくりと地上2mほどの高度に達すると、今度は急加速して黒ずくめの男に向かいその頭上で移動を止め、まるで八の字を描き踊るように浮遊してみせたのだ。
あんなにも重そうな物体が軽々しく宙を舞う姿に、いったいどんな魔法なのかと驚いた俺。
だが、そんなことはお構いなしに動いたのはオリビアだった。
剣を下段に構えると瞬発に黒い男に向けて駆け出し、こちらもいったいどんな技なのか噴水の水面を沈むことなくまるで滑るように走る。
黒い男は、これを撃退するべくオリビアを指差すと、頭上で浮遊していた十字架がそれに応え、猛スピードでオリビアに向かい襲いかかった。オリビアは、その十字架の動きに気付いたが走るのを止めるどころかさらに加速して身体を前傾させる。
ついに衝突すると見えた刹那、オリビアはギリギリのところで飛来する十字架の下を何とかくぐり抜けた。揺れた白金色の髪が数本だけ十字架と接触し、千切れ、宙を舞い、それが地面に落ちない間に一気に黒い男との距離を詰める。そして、剣を下段から黒い男に向けて振るいあげようとした瞬間。
バウンッ!!!
轟音がひとつ鳴った。
見ると、黒い男のコートの隙間から銃口が現れて、硝煙の匂いと共に火薬の煙が上がっていた。
つづく
あまりの突然のことに俺は、思わず叫んだ。
もし、さっきオリビアが俺を押し倒さずにベンチに座ったままであったなら、恐ろしいことに間違いなくこの十字架に押し潰されていたことだろう。
気付くと、瞬間的にかばってくれたそのオリビアは、もう俺から離れ立ち上がっていた。
「すまない。
どうやら、私のお客らしい」
そう言ったオリビアは、俺を見ることなく、対面する大きな中央噴水の向こう側を苦い表情で睨んでいる。
もうすでに、腰に帯刀していた鉄製の西洋剣は抜刀して臨戦態勢だ。
俺の視線もオリビアのそれに習い、そちらに向ける。そこにいた者とは……。
一見すると全身、黒ずくめの長身の男。
その顔は、黒いレンズのゴーグルと顔にグルグルに巻いた黒いビニールテープで表情は見えない。
足首まである長いゴム製の黒マントにその身を包み、不気味な異端者という印象を持たざるおえなかった。
まるで、全身を完全に絶縁体で包んだ人間。それは、かつて『雷撃の魔剣姫』と呼ばれたオリビアと何か関係があるのだろうか?
また俺は、この男の黒ずくめではないありえない異常な部分があることに気付いてしまったのだが……。
と、そんなことを考えていると、すぐ横にある元ベンチに突き刺さっていた重厚な十字架が、まるで反重力エンジンでも積んでいるようにふわりと宙に浮かんだ。そして、ゆっくりと地上2mほどの高度に達すると、今度は急加速して黒ずくめの男に向かいその頭上で移動を止め、まるで八の字を描き踊るように浮遊してみせたのだ。
あんなにも重そうな物体が軽々しく宙を舞う姿に、いったいどんな魔法なのかと驚いた俺。
だが、そんなことはお構いなしに動いたのはオリビアだった。
剣を下段に構えると瞬発に黒い男に向けて駆け出し、こちらもいったいどんな技なのか噴水の水面を沈むことなくまるで滑るように走る。
黒い男は、これを撃退するべくオリビアを指差すと、頭上で浮遊していた十字架がそれに応え、猛スピードでオリビアに向かい襲いかかった。オリビアは、その十字架の動きに気付いたが走るのを止めるどころかさらに加速して身体を前傾させる。
ついに衝突すると見えた刹那、オリビアはギリギリのところで飛来する十字架の下を何とかくぐり抜けた。揺れた白金色の髪が数本だけ十字架と接触し、千切れ、宙を舞い、それが地面に落ちない間に一気に黒い男との距離を詰める。そして、剣を下段から黒い男に向けて振るいあげようとした瞬間。
バウンッ!!!
轟音がひとつ鳴った。
見ると、黒い男のコートの隙間から銃口が現れて、硝煙の匂いと共に火薬の煙が上がっていた。
つづく
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