【R18】巫女と荒神 ~いまだ神話の続く町~

ゴリエ

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第三章 蔑むべきもの

美しい人※

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 どうあっても忍に生きてほしい。この苦しみを乗り越えてほしい。
 そのためには、彼の荒魂あらみたまを鎮めなければならない。その上で、荒神を受け入れてもらうしか道はなかった。

 桃子は無意識に、春彦が自分にどのように口づけていたのかを想起し、その記憶を手繰り寄せながら必死で手技を真似た。口づけはあれしか知らなかった。
 唇の吸い方や舌の絡ませ方、息継ぎのタイミングなど、覚えている限りのことを羞恥も何もかなぐり捨てて尽くした。
 忍が首を振って逃れたがっても、それを許すことはなかった。

 初めのうちは抵抗を見せた忍だったが、桃子の唾液を大量に受けたことにより、もはや抗う力のほとんどを失くしてしまったようだった。

 頬を上気させながら瞳を潤ませ、息が上がった忍を見ていると、桃子は不謹慎ながらも、なんて煽情的なのだろうと感動すら覚えた。

 今の忍は紛うことなき男性の肉体を持っているが、その肌はどこまでも白く滑らかだった。線は細いが決してひ弱ではなく、しなやかな若木のように、瑞々しい生命力をみなぎらせていた。

 桃子はこの感動を、口に上らせずにはいられなかった。

「忍ちゃんは、男の人になっても綺麗だね。お腹の傷も、治って本当に良かった……」

 先ほど傷を受けたばかりの引き締まった腹部を、桃子はいとおしげに撫でながら、頬を寄せ、白い肌に唇を落とした。か細い悲鳴とこらえきれない吐息が、忍の口から漏れる。

「桃子、やめろ……お前がこんなことをしなくて済むようにと、私は……」
「忍ちゃん、あなたがどうしてあんなにも巫女姫になりたがっていたのか、ずっと不思議だった。でも、その理由を知れて本当に嬉しかったの。嬉しくて、私、あなたに会いたくてたまらなくなって――」
「やめてくれ。私は結局、お前を守るという約束も果たせなかった。巫女姫になって荒神の寝首をかくことだけを夢見てきたのに。お前が巫女姫になるとうらに示されたときからずっと、その未来を覆すためだけに生きてきたのに。何一つ成しえなかった。私には、お前に救われる資格なんてない」

 静かに涙を流す忍に、桃子は言った。

「私が、それを望んでいたとしても……?」

 桃子は少し困ったように微笑む。

「ごめんね、忍ちゃん。あなたが嫌がっても、あなたが生きてくれるのなら、私はどんなことでもするよ。たとえ蔑まれても、嫌われてしまっても」

 そう言って、桃子は再び忍の唇にキスを落とした。
 忍がうわ言のように、「やめてくれ」と何度も懇願するのをことごとく無視した。

 桃子は今やっと、春彦の気持ちが本当の意味でわかった気がした。彼もきっと、今の桃子と同じ思いで桃子を抱いたのだ。

 春彦があのとき涙を流していたことが、今でもずっと忘れられない。だからこそ自分はこの場で絶対に泣くまいと決意した。あくまで自分は、自ら望んで忍を穢すのだ。
 誰のためでもない、もちろん忍のためでもない、これはあくまで自分のために行う行為だ。

 桃子は自分を捨て去るように、妖艶に微笑んでみせる。

「この首の布も、取るね。忍ちゃんのすべてを私に見せて」

 留め紐を解いて、首の巻き布を取り去る。忍がずっと、頑なに人目に触れさせることのなかった部位だ。
 しかし、布の下には透けるような白い首筋しかありはしなかった。男性特有の突き出た喉ぼとけが、陰影を作ってとても美しい。

「傷が、ない……」

 ただ純粋に驚いて桃子はつぶやいた。忍はずっと、手術跡を隠すために首布を巻いていたはずだった。

「……傷なんて、最初からなかったんだ」

 観念したように忍が答えた。

「これは、喉ぼとけを隠すためにつけていた。万一、気を抜いて術が解けてしまったとき、首がもっとも人目にさらされる部位だから。病気のせいで傷があると言っておけば、他人は気遣って詮索してこなくなる」
「女の子を演じるのも、大変なんだね」

 もし自分が男にならなければいけないとしたら、と考えるだけで、忍の努力と苦労が察せられるというものだった。

「でも、そういう理由ならよかった。本当に……」

 桃子はあらためて、忍の肢体にうっとりしながらつぶやいた。

「私ね、忍ちゃんがいつか巫女姫に選ばれて、憑坐の誰かのものになっちゃうの、本当は嫌だなってずっと思ってた。誰にも取られたくなかったの。だから、今こうなれてとても嬉しい。綺麗で清らかなあなたの魂を救えるのは私だけだって、心から実感できるもの」
「……桃子、お前はとんでもない思い違いをしている」

 忍の必死で絞り出したような声は、少し震えていた。

「私は、綺麗でも清らかでもない。私が荒神からお前を守りたかったのは、お前を荒神に渡したくなかったからだ。心の底では誰よりもお前を自分のものにしたいと思っていた。
巫女姫の家系に生まれた私が、取れる手段といえばこれしかなかっただけのこと。私の性質は巫女姫どころか、何よりも荒神に近かったのだと、今ならわかる。だから荒神を引き寄せてしまった。お前を穢し傷つける存在を、ずっと憎み軽蔑してきたのに、結局は私も同じ蔑むべきものだったということだ」
「それは違うよ」

 桃子は必死にかぶりを振った。

「そんなふうに自分を否定しないで。私は、忍ちゃんを怖いとか嫌だなんて一言も言ってないのに、どうして私の気持ちを勝手に決めるの。私は忍ちゃんとこうなれて嬉しいって、何度も言ってるのに」

 桃子が忍への想いを伝えようとするたびに、彼の中の大蛇が暴れ出すのがわかった。忍の葛藤がこの目に見えるようだった。

 桃子は忍を安心させるように、慈しむように、何度も何度も彼に口づけた。首筋や胸元までも丹念に優しく吸い上げる。忍は快楽に流されまいと、悲痛に眉根を寄せていた。

 桃子には、次に自分がどうすればいいのか、本当はもうとっくにわかっていた。それでも決意が揺らぎ、なかなか実行できずにいた。

 しかし、大蛇がいよいよ忍のもとから再び這い出てこようとしているのを見て、覚悟を決めた。

 緋袴の下に履いていた下着を、自ら脱ぎ捨てる。そして、同じように忍の袴の中にも手を潜りこませ、嫌がる彼の下履きも、強引に脱がせた。
 忍は緋袴の下には男性用の下着を身につけており、桃子はそれを見た瞬間、顔がこの上なく熱くなるのを感じた。

 しかし、それはまだ序の口で、そそり立つ男根を目にしたとき、今さらながら、頭の中が真っ白になっていた。

 ここで怯むわけにはいかなかった。桃子は大胆にも忍の上に跨ると、彼の雄々しい性器を自らの陰裂にあてがった。

「桃子、やめろ……っ」
「言ったでしょう? 私があなたを穢すって」

 桃子は余裕のない笑みを見せながら、一気に忍の陰茎を根元まで呑み込んでいた。

「ぁ、ぐっ……」

 催淫効果の相互作用により、膣内はある程度濡れていたはずだが、それでも機が熟していないうちからの挿入は、思いのほか体にこたえた。
 自分の持つ頼りない性知識を総動員させて挑んだものの、押し広げられた膣内があまりにきつく焼けるようにひりついて、動ける余裕など少しもない。呼吸をするだけで精一杯だった。

「ば、ばか、桃子……そんな一気にしたら、お前が痛いだろう……」
「い、痛くなんて……」

 強がってみせたところで、欠片もリードできてはいなかった。足で自らの体重を支えているのが辛くなり、次第に桃子の体が沈んでいくと、接合部位がさらに深くなる。
 信じられないところまで忍の屹立が突き刺さっていた。

「桃子、だから、無茶だと……っ」

 襲いくる凄まじい快感に耐え続けた忍だが、それでも、体の反応までは止められない。
 彼の性器は桃子の中でさらに硬度と大きさを増していき、じわじわと桃子を苛んだ。

「ッ……」

 二人のどちらかが少しでも身動きすれば、そのたびに子宮口がぐっと押し上げられ、圧迫される。その苦しさに、桃子はついに耐え切れず涙を流していた。

 絶対に泣くまいと決めていたのに、情けなくて不甲斐なくて、涙は余計にあふれて止まらなくなっていた。

「ごめんなさい……忍ちゃん、ごめんなさい……」
「ばか、泣くぐらいなら、どうしてこんな――」

 忍が起き上がり、桃子の唇に深く吸いついていた。熱い舌が絡み合い、どちらが自分のものなのか、もはやわからなくなりかけたとき、膣内はさらに収縮し、この上なく潤いを帯び始めていた。

 桃子の顔がとろけきったころに、忍が唐突に、自身の性器を桃子の中から引き抜いていた。夢から強制的に覚まされ、桃子が残念そうに呆けていると、忍が自らの衣服を床に敷き、そこに優しく桃子を横たわらせていた。

「悪かったな。私に意気地がないせいで、かえってお前に負担を強いた。目が覚めた、私も腹をくくろう」
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