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新たな波乱の幕開け
直美と空の計画
隼人のバイト先のコンビニ。
今日は空とシフトが一緒だった。
自動ドアが開く。
隼人・空
「いらっしゃいませ~」
隼人の表情が、一瞬だけ曇る。
直美
「隼人……ここでバイトしてたんだ」
空は、棚を整えるふりをしながら視線を落とす。
隼人
「あ、あぁ」
直美
「まだ別れてないの? あの子と」
隼人
「今バイト中だし、そういう話は……」
直美は小さく笑う。
直美
「……別れてない感じね」
そう言って買い物を始める。
空は、ゆっくりバックヤードへ向かう。
空
「隼人くん、ちょっとバックヤード整理してきますね」
隼人
「あ、うん」
数分後――
レジが落ち着いたタイミングで、空はそっと売り場に戻る。
直美の近くに立ち、小声で言う。
空
「隼人くんの元カノさん、ですよね」
直美
「……なによ、あなた」
空はにこりと笑う。
空
「さっきの、少し聞こえちゃって」
直美
「聞いてたの?」
空
「隼人くんのこと、まだ好きなんですか?」
直美は一瞬、言葉を失う。
直美
「……関係ないでしょ」
空は淡々と続ける。
空
「私、もうすぐバイト上がりなんです」
「少しだけ、話しません?」
直美
「……なんのために?」
空は少しだけ目を細める。
空
「隼人くんの“未来”の話、です」
直美の目が揺れる。
空
「あそこのファミレスで待っててもらえます?」
直美は迷ってから頷く。
直美
「……わかったわ」
直美は買い物を済ませ、店を出ていく。
少しして、代わりのバイトが入る。
空
「お疲れ様でした~」
隼人
「佐々木さん、お疲れ」
空は振り返らず、店を出る。
その横顔は、もう笑っていなかった。
空
(これでいい)
そして、ファミレスへ向かった
ファミレスに着いた空は、店内を見渡し、直美の姿を見つけた。
空
「お待たせしました」
直美は腕を組んだまま、じっと空を見る。
直美
「早速だけど……隼人の未来って?」
空はすぐには答えない。
ゆっくりと椅子に座り、直美の目を見る。
空
「その前に……隼人くんのこと、まだ好きですか?」
直美の表情が一瞬だけ揺れる。
直美
「……好きよ」
「嫌いで別れたわけじゃないんだから」
空
「じゃあ、なんで別れたんですか?」
直美は小さく笑う。
直美
「お互い、受験があるからって」
「夢のためにって、きれいに別れたの」
「なのに……幼なじみの“男”と付き合うなんて」
その言葉に、空が静かに反応する。
空
「……知ってるんですね」
「彼女が、男だって」
直美
「あなたも知ってるの?」
空は、ほんの少しだけ視線を落とす。
空
「実は……私も、男なんです」
直美の目が大きくなる。
直美
「え?」
「まさか……隼人、あなたとも?」
空は首を横に振る。
空
「違います」
「私が好きなのは……隼人くんの“彼女”です」
直美
「……そうなの?」
空は真っ直ぐに言う。
空
「だから、協力しませんか?」
直美
「協力?」
空はテーブルの上で指を組む。
空
「隼人くんは優しい」
「だから、自分の気持ちより、相手を優先する人です」
「揺らせば……迷います」
直美
「揺らす?」
空
「あなたは隼人くんを」
「私はヒカルちゃんを」
直美はしばらく黙り込む。
直美
「……そんなの、うまくいくかしら」
空は、にこっと笑う。
空
「でも、今のまま待ってても、何も変わりませんよ」
沈黙。
やがて直美は、深く息を吐いた。
直美
「……そうね」
二人は視線を交わす。
それは、恋のための同盟。
けれど――
どちらも、本心をすべては見せていなかった。
そして、二人の計画が実行される時が来た。
隼人がベッドに横たわり、スマホを眺めていると――
ピンポーン。
隼人
「誰だ……?こんな時間に。ヒカちゃんだったら合鍵渡してるし……」
玄関を開けると、そこに立っていたのは――
直美
「……隼人」
隼人
「なんだよ、こんな時間に」
直美
「急に……寂しくなって」
隼人は、少しだけ視線を逸らす。
隼人
「困るよ……」
直美
「お願い……少しだけでいいの。一緒にいさせて」
一瞬、迷ってから。
隼人
「……わかったよ。少しだけだぞ」
隼人が背を向けた、その瞬間。
直美は素早くスマホを取り出し、
**「OK」**のスタンプを送信した。
近くで待機していた空は、それを確認する。
空
「……まずは、第1段階突破」
小さく呟き、静かに動き出す。
⸻
部屋では、隼人がベッドに腰掛け、
直美もその横に座る。
隼人
「……近いよ」
直美
「ねぇ……一回だけでいいの」
「キスして」
隼人
「ダメだって……」
直美
「それで、ちゃんと諦めるから……」
⸻
その頃、空はスマホを見ながら、時間を計る。
空
「……計画通りなら、そろそろ」
そう呟き、ヒカルに電話をかけた。
⸻
「電話だよ」「電話だよ」
ヒカル
「空ちゃんだ」
(ピッ)
「もしもし?」
空
「あのね、隼人くんにバイトのことで聞きたいんだけど」
「電話つながらなくて……」
「見に行ってもらってもいい?」
ヒカル
「うん、わかった~」
通話が切れる。
ヒカル
「充電し忘れてるのかな……」
そう呟き、ヒカルは部屋を出た。
直美
「ねぇ……お願い……」
直美が、隼人の腕を掴んだ、その時――
ガチャ。
ドアが開く。
ヒカル
「あのね~、空ちゃんが――……」
視界に飛び込んできたのは、
ベッドの上で並ぶ、二人の姿。
ヒカル
「……ふーん」
「そういうこと、なんだ」
隼人
「ヒカル、違う――」
ヒカル
「……何も違わないっ」
そう言い残し、ヒカルは部屋を飛び出した。
隼人
「待って、ヒカル!」
追いかけようとした隼人の腕を、直美が掴む。
隼人
「離せよ!」
直美
「……離さない」
その頃、空は再び電話をかける。
「電話だよ」「電話だよ」
ヒカル
「……空ちゃん」
(ピッ)
空
「ヒカルちゃん?どうだった?」
「……え、泣いてる?」
ヒカル
「空ちゃーん……」
「は、はやちゃんが……」
空
「……そっか」
「今、近くにいるから。すぐ行くね」
通話を切り、空は静かに微笑む。
空(心の中)
「……計画、成功」
⸻
ヒカルの部屋。
ヒカル
「……はやちゃんの、バカ……」
ピンポーン。
空
「ヒカルちゃん、来たよ。開けて」
ふらふらと立ち上がり、
ヒカルがドアを開ける。
空の姿を見た瞬間――
ヒカル
「……空ちゃーん!」
抱きつくヒカルを、空はそっと受け止める。
空
「今は……隼人くん、会いたくないでしょ?」
「鍵、閉めよう」
ヒカル
「……うん」
⸻
一方、隼人。
隼人
「離してくれよ……!」
直美の手が、ふっと緩む。
直美(心の中)
「……そろそろ、かしら」
直美
「……だって、好きだったんだもん」
「隼人のために……別れたのに……」
顔を伏せ、泣いた“フリ”をする。
隼人
「……今、それどころじゃない」
「待ってて」
そう言って、隼人は部屋を飛び出した。
ヒカルの部屋の前。
ガチャ――開かない。
隼人
「ヒカル……ヒカル、開けてくれ」
中から、空の声がする。
空
「……ヒカルちゃん、今は会いたくないって」
「今日は、私が泊まるから」
隼人
「佐々木さん……ヒカルは……」
空
「大丈夫。でも、かなり傷ついてる」
「今日は、そっとしてあげて」
隼人
「……わかりました」
「お願いします」
そう言って、隼人はその場を離れた。
⸻
部屋に戻ると、直美はまだそこにいた。
直美
「……暗い顔してるけど、何かあった?」
隼人
「……」
直美(心の中)
「……今なら、いける」
直美は、そっと隼人を抱きしめ、顔を近づける。
隼人は、避けなかった。
一瞬、唇が触れる。
隼人は、はっとして身を離す。
隼人
「……これで、いいだろ」
直美
「……隼人」
直美(心の中)
「第1段階、突破ね」
直美
「……わかった。帰る」
そう言って部屋を出る。
廊下で、隣の部屋を一瞥し、呟いた。
直美
「……あっちは、うまくいってるのかしら」
そうして、夜に消えていった。
一方、ヒカルの部屋。
カーテンは閉めたまま。
部屋の中は静かで、ヒカルのすすり泣く声だけが響いている。
ヒカルはベッドの上で膝を抱え、ずっと泣いている。
肩が小刻みに震えている。
その背中を、空は後ろから優しく抱きしめる。
包み込むように、静かに。
空
「つらいよね、わかるよ、私も同じような事あったもん」
ヒカルは涙で濡れた目を上げる。
ヒカル
「空ちゃんも?」涙声でいう
空は、ヒカルの頬を伝う涙を指先でそっと拭う。
優しく、何度も。
空
「普通の男って、やっぱり女性が好きなんだよ」
その言葉に、ヒカルの唇が震える。
ヒカル
「やっぱり……そうかなぁ」
堪えていたものが溢れ、再び泣き出すヒカル。
声が少し大きくなる。
空は困ったように微笑む。
空
「泣かないの~可愛い顔が台無しだよ~」
ヒカルは子どもみたいに首を振る。
ヒカル
「だってだって~」
空は少し顔を近づける。
ヒカルの目を、まっすぐに見る。
空
「泣き虫がなおる、おまじない」
そう言って空はヒカルに顔を近づけ、キスをした。
ほんの一瞬。
触れるだけのキス。
ヒカルは驚きで泣くのがとまる。
ヒカル
「空ちゃん……」
空は、少し照れたように笑う。
空
「ほら……止まった」
ヒカルは、まだ戸惑いながらも、少し微笑む。
ヒカル
「でも、びっくりした」
空はヒカルの髪を撫でる。
空
「ごめんね、大丈夫?落ち着いた?」
ヒカルは小さく頷く。
ヒカル
「うん……空ちゃんの、おかげで落ち着いた」
空は、そのままヒカルを抱きしめ続ける。
ヒカルは抵抗せず、静かにその腕の中に身を預けた。
部屋の中には、さっきまでの激しい泣き声はもうない。
ただ、二人分の静かな呼吸だけが重なっていた。
そして、一緒のベッドで寝る事になったヒカルと空。
ヒカル
「狭くてごめんね、おやすみ」
空
「いいよ、おやすみ」
電気を消すと、部屋は一気に静かになる。
しばらくして、ヒカルは泣き疲れたのか、すぐに寝息をたて始めた。
規則的な呼吸。
無防備な横顔。
空は、そっと視線を落とす。
空
「やっぱり可愛いな……」
心の中でそうつぶやき、
ためらいながら、かるく唇を重ねた。
ヒカル
「んっ……」
その小さな反応に、空の胸が跳ねる。
そーっと首筋に唇を近づける。
ヒカル
「ダ……ダメ……」
空は、起きた?と思い、ヒカルの顔を見る。
だが、ヒカルはまた静かな寝息をたてていた。
安心して、そっと胸元に顔をちかづける。
すると――
ヒカル
「ダ、ダメ……はやちゃん」
寝言と一緒に、ヒカルが空をギュッと抱きしめる。
その腕の力は弱いのに、
名前だけが、はっきり胸に刺さる。
空は、動きを止める。
空
「……まだダメか」
小さくつぶやき、
ヒカルの腕をほどかないまま、そっと目を閉じた。
それ以上、何もしない。
その夜、空は一線を越えなかった。
ヒカルの寝息と、
自分の高鳴る鼓動を聞きながら、
ゆっくりと眠りについた。
今日は空とシフトが一緒だった。
自動ドアが開く。
隼人・空
「いらっしゃいませ~」
隼人の表情が、一瞬だけ曇る。
直美
「隼人……ここでバイトしてたんだ」
空は、棚を整えるふりをしながら視線を落とす。
隼人
「あ、あぁ」
直美
「まだ別れてないの? あの子と」
隼人
「今バイト中だし、そういう話は……」
直美は小さく笑う。
直美
「……別れてない感じね」
そう言って買い物を始める。
空は、ゆっくりバックヤードへ向かう。
空
「隼人くん、ちょっとバックヤード整理してきますね」
隼人
「あ、うん」
数分後――
レジが落ち着いたタイミングで、空はそっと売り場に戻る。
直美の近くに立ち、小声で言う。
空
「隼人くんの元カノさん、ですよね」
直美
「……なによ、あなた」
空はにこりと笑う。
空
「さっきの、少し聞こえちゃって」
直美
「聞いてたの?」
空
「隼人くんのこと、まだ好きなんですか?」
直美は一瞬、言葉を失う。
直美
「……関係ないでしょ」
空は淡々と続ける。
空
「私、もうすぐバイト上がりなんです」
「少しだけ、話しません?」
直美
「……なんのために?」
空は少しだけ目を細める。
空
「隼人くんの“未来”の話、です」
直美の目が揺れる。
空
「あそこのファミレスで待っててもらえます?」
直美は迷ってから頷く。
直美
「……わかったわ」
直美は買い物を済ませ、店を出ていく。
少しして、代わりのバイトが入る。
空
「お疲れ様でした~」
隼人
「佐々木さん、お疲れ」
空は振り返らず、店を出る。
その横顔は、もう笑っていなかった。
空
(これでいい)
そして、ファミレスへ向かった
ファミレスに着いた空は、店内を見渡し、直美の姿を見つけた。
空
「お待たせしました」
直美は腕を組んだまま、じっと空を見る。
直美
「早速だけど……隼人の未来って?」
空はすぐには答えない。
ゆっくりと椅子に座り、直美の目を見る。
空
「その前に……隼人くんのこと、まだ好きですか?」
直美の表情が一瞬だけ揺れる。
直美
「……好きよ」
「嫌いで別れたわけじゃないんだから」
空
「じゃあ、なんで別れたんですか?」
直美は小さく笑う。
直美
「お互い、受験があるからって」
「夢のためにって、きれいに別れたの」
「なのに……幼なじみの“男”と付き合うなんて」
その言葉に、空が静かに反応する。
空
「……知ってるんですね」
「彼女が、男だって」
直美
「あなたも知ってるの?」
空は、ほんの少しだけ視線を落とす。
空
「実は……私も、男なんです」
直美の目が大きくなる。
直美
「え?」
「まさか……隼人、あなたとも?」
空は首を横に振る。
空
「違います」
「私が好きなのは……隼人くんの“彼女”です」
直美
「……そうなの?」
空は真っ直ぐに言う。
空
「だから、協力しませんか?」
直美
「協力?」
空はテーブルの上で指を組む。
空
「隼人くんは優しい」
「だから、自分の気持ちより、相手を優先する人です」
「揺らせば……迷います」
直美
「揺らす?」
空
「あなたは隼人くんを」
「私はヒカルちゃんを」
直美はしばらく黙り込む。
直美
「……そんなの、うまくいくかしら」
空は、にこっと笑う。
空
「でも、今のまま待ってても、何も変わりませんよ」
沈黙。
やがて直美は、深く息を吐いた。
直美
「……そうね」
二人は視線を交わす。
それは、恋のための同盟。
けれど――
どちらも、本心をすべては見せていなかった。
そして、二人の計画が実行される時が来た。
隼人がベッドに横たわり、スマホを眺めていると――
ピンポーン。
隼人
「誰だ……?こんな時間に。ヒカちゃんだったら合鍵渡してるし……」
玄関を開けると、そこに立っていたのは――
直美
「……隼人」
隼人
「なんだよ、こんな時間に」
直美
「急に……寂しくなって」
隼人は、少しだけ視線を逸らす。
隼人
「困るよ……」
直美
「お願い……少しだけでいいの。一緒にいさせて」
一瞬、迷ってから。
隼人
「……わかったよ。少しだけだぞ」
隼人が背を向けた、その瞬間。
直美は素早くスマホを取り出し、
**「OK」**のスタンプを送信した。
近くで待機していた空は、それを確認する。
空
「……まずは、第1段階突破」
小さく呟き、静かに動き出す。
⸻
部屋では、隼人がベッドに腰掛け、
直美もその横に座る。
隼人
「……近いよ」
直美
「ねぇ……一回だけでいいの」
「キスして」
隼人
「ダメだって……」
直美
「それで、ちゃんと諦めるから……」
⸻
その頃、空はスマホを見ながら、時間を計る。
空
「……計画通りなら、そろそろ」
そう呟き、ヒカルに電話をかけた。
⸻
「電話だよ」「電話だよ」
ヒカル
「空ちゃんだ」
(ピッ)
「もしもし?」
空
「あのね、隼人くんにバイトのことで聞きたいんだけど」
「電話つながらなくて……」
「見に行ってもらってもいい?」
ヒカル
「うん、わかった~」
通話が切れる。
ヒカル
「充電し忘れてるのかな……」
そう呟き、ヒカルは部屋を出た。
直美
「ねぇ……お願い……」
直美が、隼人の腕を掴んだ、その時――
ガチャ。
ドアが開く。
ヒカル
「あのね~、空ちゃんが――……」
視界に飛び込んできたのは、
ベッドの上で並ぶ、二人の姿。
ヒカル
「……ふーん」
「そういうこと、なんだ」
隼人
「ヒカル、違う――」
ヒカル
「……何も違わないっ」
そう言い残し、ヒカルは部屋を飛び出した。
隼人
「待って、ヒカル!」
追いかけようとした隼人の腕を、直美が掴む。
隼人
「離せよ!」
直美
「……離さない」
その頃、空は再び電話をかける。
「電話だよ」「電話だよ」
ヒカル
「……空ちゃん」
(ピッ)
空
「ヒカルちゃん?どうだった?」
「……え、泣いてる?」
ヒカル
「空ちゃーん……」
「は、はやちゃんが……」
空
「……そっか」
「今、近くにいるから。すぐ行くね」
通話を切り、空は静かに微笑む。
空(心の中)
「……計画、成功」
⸻
ヒカルの部屋。
ヒカル
「……はやちゃんの、バカ……」
ピンポーン。
空
「ヒカルちゃん、来たよ。開けて」
ふらふらと立ち上がり、
ヒカルがドアを開ける。
空の姿を見た瞬間――
ヒカル
「……空ちゃーん!」
抱きつくヒカルを、空はそっと受け止める。
空
「今は……隼人くん、会いたくないでしょ?」
「鍵、閉めよう」
ヒカル
「……うん」
⸻
一方、隼人。
隼人
「離してくれよ……!」
直美の手が、ふっと緩む。
直美(心の中)
「……そろそろ、かしら」
直美
「……だって、好きだったんだもん」
「隼人のために……別れたのに……」
顔を伏せ、泣いた“フリ”をする。
隼人
「……今、それどころじゃない」
「待ってて」
そう言って、隼人は部屋を飛び出した。
ヒカルの部屋の前。
ガチャ――開かない。
隼人
「ヒカル……ヒカル、開けてくれ」
中から、空の声がする。
空
「……ヒカルちゃん、今は会いたくないって」
「今日は、私が泊まるから」
隼人
「佐々木さん……ヒカルは……」
空
「大丈夫。でも、かなり傷ついてる」
「今日は、そっとしてあげて」
隼人
「……わかりました」
「お願いします」
そう言って、隼人はその場を離れた。
⸻
部屋に戻ると、直美はまだそこにいた。
直美
「……暗い顔してるけど、何かあった?」
隼人
「……」
直美(心の中)
「……今なら、いける」
直美は、そっと隼人を抱きしめ、顔を近づける。
隼人は、避けなかった。
一瞬、唇が触れる。
隼人は、はっとして身を離す。
隼人
「……これで、いいだろ」
直美
「……隼人」
直美(心の中)
「第1段階、突破ね」
直美
「……わかった。帰る」
そう言って部屋を出る。
廊下で、隣の部屋を一瞥し、呟いた。
直美
「……あっちは、うまくいってるのかしら」
そうして、夜に消えていった。
一方、ヒカルの部屋。
カーテンは閉めたまま。
部屋の中は静かで、ヒカルのすすり泣く声だけが響いている。
ヒカルはベッドの上で膝を抱え、ずっと泣いている。
肩が小刻みに震えている。
その背中を、空は後ろから優しく抱きしめる。
包み込むように、静かに。
空
「つらいよね、わかるよ、私も同じような事あったもん」
ヒカルは涙で濡れた目を上げる。
ヒカル
「空ちゃんも?」涙声でいう
空は、ヒカルの頬を伝う涙を指先でそっと拭う。
優しく、何度も。
空
「普通の男って、やっぱり女性が好きなんだよ」
その言葉に、ヒカルの唇が震える。
ヒカル
「やっぱり……そうかなぁ」
堪えていたものが溢れ、再び泣き出すヒカル。
声が少し大きくなる。
空は困ったように微笑む。
空
「泣かないの~可愛い顔が台無しだよ~」
ヒカルは子どもみたいに首を振る。
ヒカル
「だってだって~」
空は少し顔を近づける。
ヒカルの目を、まっすぐに見る。
空
「泣き虫がなおる、おまじない」
そう言って空はヒカルに顔を近づけ、キスをした。
ほんの一瞬。
触れるだけのキス。
ヒカルは驚きで泣くのがとまる。
ヒカル
「空ちゃん……」
空は、少し照れたように笑う。
空
「ほら……止まった」
ヒカルは、まだ戸惑いながらも、少し微笑む。
ヒカル
「でも、びっくりした」
空はヒカルの髪を撫でる。
空
「ごめんね、大丈夫?落ち着いた?」
ヒカルは小さく頷く。
ヒカル
「うん……空ちゃんの、おかげで落ち着いた」
空は、そのままヒカルを抱きしめ続ける。
ヒカルは抵抗せず、静かにその腕の中に身を預けた。
部屋の中には、さっきまでの激しい泣き声はもうない。
ただ、二人分の静かな呼吸だけが重なっていた。
そして、一緒のベッドで寝る事になったヒカルと空。
ヒカル
「狭くてごめんね、おやすみ」
空
「いいよ、おやすみ」
電気を消すと、部屋は一気に静かになる。
しばらくして、ヒカルは泣き疲れたのか、すぐに寝息をたて始めた。
規則的な呼吸。
無防備な横顔。
空は、そっと視線を落とす。
空
「やっぱり可愛いな……」
心の中でそうつぶやき、
ためらいながら、かるく唇を重ねた。
ヒカル
「んっ……」
その小さな反応に、空の胸が跳ねる。
そーっと首筋に唇を近づける。
ヒカル
「ダ……ダメ……」
空は、起きた?と思い、ヒカルの顔を見る。
だが、ヒカルはまた静かな寝息をたてていた。
安心して、そっと胸元に顔をちかづける。
すると――
ヒカル
「ダ、ダメ……はやちゃん」
寝言と一緒に、ヒカルが空をギュッと抱きしめる。
その腕の力は弱いのに、
名前だけが、はっきり胸に刺さる。
空は、動きを止める。
空
「……まだダメか」
小さくつぶやき、
ヒカルの腕をほどかないまま、そっと目を閉じた。
それ以上、何もしない。
その夜、空は一線を越えなかった。
ヒカルの寝息と、
自分の高鳴る鼓動を聞きながら、
ゆっくりと眠りについた。
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