16 / 66
第一章 契約の側室編
小さな守護者たち
しおりを挟む
「ふう……。」
リリアーヌは汗を拭いながら、庭を見渡した。
「やっと小道の草抜きが終わった……。」
しかし、石畳の隙間や花壇にはまだまだ雑草がこんもりと生えている。さすがにこの量を一人でやるのは時間がかかりそうだ。
「これ……草刈りだけで何日かかるかなあ。一週間くらいで終わるかな?」
荒れ果てた庭を見回しながら、リリアーヌは小さくため息をついた。
まあ、これだけ伸び放題になっているのだから、時間がかかるのは仕方がない。
男爵邸にいた頃は、庭の手入れは全てリリアーヌ一人の仕事だった。男爵夫人に炎天下での草抜きを命じられることもあったので、庭仕事には慣れている。
庭仕事の後は肌が真っ赤になってしまうのに、次の日には元の白い肌に戻っていた。どうやら自分は日焼けしない体質らしい。
『あれだけ外にいたのに、どうして焼けていないの!』
ちゃんと言いつけ通りに仕事をしたのに、なぜか男爵夫人とカリーナには怒られたものだが……。
でも、今は自分の好きな時に好きなようにできる。最初は手間と時間がかかるが、これだけ広い庭なら、ハーブや薬草もよく育つだろう。
リリアーヌは早く庭を整理して、植物を植えたいと思っていた。
「さて、今日はこのくらいにして、残りは明日にしよう。」
刈り取った草を集め、後片付けをする彼女を、木陰から小さな妖精たちが見守っていた。
ふと視線を感じて振り向くが、そこには誰もいない。
風が葉を揺らしたのかな?リリアーヌはそう思い、特に気に留めずに後片付けを終えると、部屋に戻った。
リリアーヌがいなくなると木陰から、透き通る羽根を持つ妖精たちが姿を現した。
「ねえねえ!リリアーヌ、今日もすごく頑張ってたね。」
エメラルドグリーンの瞳を持つ妖精が言った。
「うん。あの子、いつも一生懸命だよね。」
薄桃色の羽根を持つ妖精が頷く。
「一人であんなに草を抜いて……。でも、楽しそうだった。」
金色の羽根を持つ妖精も小さく微笑んだ。
妖精たちは、あの日からずっとリリアーヌを見守り続けていた。毎朝ハーブを届け、彼女の喜ぶ姿を見るのが彼らの日課になっていた。
最初は、クッキーの恩を返すためだった。
けれど、リリアーヌは次第に、妖精たちにとって特別な存在になっていった。
「リリアーヌ。あの庭にハーブを植えたいんだって。」
「僕たちがあげたハーブを大事に育てたいって言ってたね。」
妖精たちは顔を見合わせた。
「ねえ、僕たちが手伝ってあげようよ!」
一番小さな妖精が目を輝かせた。
「うん!そうだね!今度は僕たちが恩返しする番だ。」
「あの子が喜ぶ顔、また見たいな。」
妖精たちは嬉しそうにくるくると宙を舞った。
「じゃあ、決まりだね。」
「うん!今夜、みんなで庭を綺麗にしちゃおう!」
「リリアーヌ、きっと驚くよ!」
妖精たちはきらきらと光を放ちながら、夜の訪れを待った。
翌朝、リリアーヌは張り切って庭に足を運んだ。
「さて、今日はどこから始めようかな。やっぱり石畳のところから……、」
そこで目にしたのは、驚くべき光景だった。
あんなにぼうぼうに生えていた雑草が綺麗さっぱりなくなり、庭が見事に整えられている。花壇の土は丁寧に耕され、石畳の隙間の雑草も一本残らず取り除かれていた。
「え、ええ!?」
リリアーヌは目を見開いた。
「一体、誰がこんなこと……?」
キョロキョロと辺りを見回すが、人影は見当たらない。
昨日、あれほど手強そうに見えた庭が、まるで魔法にかかったように美しく整備されている。
「もしかして、庭師の方が……?」
首を傾げながら、リリアーヌはここの庭師の青年、ダリオのことを思い出した。
ここの庭を好きにしていいと親切に言ってくれたあのダリオがこの庭を手入れしてくれたとか……?
でも、たった一晩で、しかも一人であれだけ荒れ果てた庭を整えるなんてできる筈がない。
不思議で堪らないが、理由は分からない。
「まさか、本当に魔法とか?」
いやいや。そんなまさか。
でも、この世界には魔法があるし、妖精や精霊も存在する。もしかしたら、誰かが手伝ってくれたのかもしれない。何にせよ、庭が綺麗になったことに変わりはない。
リリアーヌの顔には嬉しそうな笑みが浮かんでいた。
「これで、ハーブが植えられる!」
リリアーヌはそれから、花壇にハーブを植え、世話をするようになる。
そんなリリアーヌを木陰から小さな妖精たちが微笑んで見守っていた。
「リリアーヌ、喜んでくれてるね!」
「よかったよかった!」
妖精たちは幸せそうに羽根を震わせた。
「これからも、リリアーヌを守ってあげようよ。」
「うん。あの子は誰にも傷つけさせない。」
妖精たちはそう誓い合った。
その日の夕刻。
侍女長は厨房で、湯気の立つシチューを見下ろし、口元を吊り上げた。
「フフッ……、あの女がどんな顔をするか、楽しみだわ……。」
皿の中には、こっそりと忍ばせた黒光りする虫の死骸。
侍女長は満足げに蓋を閉めると、侍女たちに目配せをした。
「お前たち、よく見ておきなさい。リリアーヌの反応を。」
「はい、侍女長。」
「お任せください。」
三人の侍女が心得たように頷く。
廊下の隅で、妖精たちがその一部始終を見ていた。
「ひどい!あの女、リリアーヌのご飯に虫を入れた!」
紅い羽根を持った妖精が怒りに震えた。
「許せない!リリアーヌはあんなに優しいのに……!」
青い羽根を持つ妖精が涙目になる。
「何とかしないと!リリアーヌを守らなきゃ!」
黒い羽根の妖精が拳を握り締めた。
「でも、どうやって……?」
妖精たちが頭を悩ませていると、一匹の茶色いネズミが通りかかった。
エメラルドグリーンの瞳の妖精がきらりと目を輝かせて、声を上げた。
「僕にいい考えがある。」
悪戯を思いついた子どものような表情で、コソコソと仲間に内緒話をした。
侍女たちが皿に盛ったシチューを運び出そうとすると、チュウ、という鳴き声が聴こえた。足元を見下ろすと、茶色の小さなネズミが一匹いた。
「きゃああああ!ネズミ!」
「いやああああ!」
「は、早く追い出して!」
足元を茶色いネズミが横切り、侍女たちは慌てて悲鳴を上げた。
必死に皿を落とさないよう騒ぎながら、なんとか追い払う。
「全く……!まさかネズミがいるなんて……!ネズミ捕りを用意しないと……。」
ぶつぶつ言いながら、侍女長は自分の分の食事を手に部屋へ戻っていく。
その後ろ姿を、廊下の隅から無数の小さな光が見つめていた。
「行った?」
「うん、行った行った!」
「やった!成功!」
きらきらと舞い上がる妖精たち。
「リリアーヌを守れたね!」
「うん!あの子には絶対、悪いことさせない!」
妖精たちはネズミと協力して騒ぎを起こし、侍女が持っていた皿を入れ替えていたのだ。
「ありがとう!」
「ほら、チーズだよ!」
妖精がチーズを差し出すと、ネズミは「チュッ!」と鳴いて齧りついた。
「リリアーヌ様。夕食をお持ちしました。」
「ありがとう。わあ……!今日はご馳走ですね!」
目の前に置かれた仔羊のシチューに、リリアーヌの瞳が輝く。
侍女たちはクスッと嫌らしい笑みを浮かべて、リリアーヌの反応を窺っていた。
リリアーヌは侍女の視線の意味に気付かず、両手を組み、食前の祈りを捧げてから、スプーンを口に運んだ。
「っ……お、美味しい……!お肉が柔らかくて、舌が蕩けそう……。野菜もよく煮込まれてて……。」
満面の笑みで頬張る彼女を見て、侍女たちは顔を引きつらせた。
(お、おかしいわ……。)
(虫が入ってるはずなのに……?)
しかし、リリアーヌはひたすら幸せそうに食べ続ける。
(ああ……。幸せ……。生きてて良かった!羊肉って、こんなに美味しいんだ……。殿下の側室になってよかった……。)
「……い、一度、侍女長に報告を!」
「そ、そうね!」
メイドたちはこそこそと小声で囁き合い、慌てて退室した。
その様子を見て、リリアーヌは小首を傾げた。
(何をそんなに急いでるんだろう?まあいいや。)
リリアーヌは目の前のシチューに夢中で特に気にしなかった。
その頃──。侍女長は自分の部屋にいた。
「今頃、あの女は悲鳴を上げている頃かしら?」
侍女長はざまあみろ、と顔を歪めて笑った。
(いい気味だわ。男爵の私生児という卑しい血筋の女にはそれがお似合いよ。)
侍女長は自分の分のシチューを口に運ぶ。すると、ガリッとした固い感触がした。
「……何?何か、固いのが……、」
思わず口から出してみると、それは黒光りする虫……。ゴキブリの死骸だった。
「ぎゃあああああああ!」
廊下に侍女長の絶叫が響き渡った。その直後、侍女長は熱々のシチューを頭からかぶってしまう。
妖精たちが風の魔法で皿をぶつけ、中身を直撃させたのだ。
「熱っ……!熱いいいいい!」
「じ、侍女長!?」
「大丈夫ですか!?」
騒ぎを聞きつけた使用人たちが駆けつける。その場は大混乱に包まれた。
一方その頃のリリアーヌは、
「ん?何だろう。今の声……?」
モグモグとシチューを堪能しながら、首を傾げていた。
この後、侍女長は火傷と精神的ショックで一週間寝込み羽目になった。
「あ、あの女……!ゆ、許さない…!」
リリアーヌを逆恨みした侍女長は執念深く嫌がらせを続けた。
その後も復讐といわんばかりにリリアーヌの部屋にゴキブリを大量に放つが……、
「あれ?ゴキブリだ。おかしいなあ。ちゃんと掃除してたのに。」
リリアーヌは男爵邸でもゴキブリが出たことがあり、その退治と対処もさせられていたので特に動じた様子はなかった。
「あ、そういえば、庭にクローブがあったよね。」
リリアーヌは庭のクローブを採取するために外に出た。
リリアーヌは汗を拭いながら、庭を見渡した。
「やっと小道の草抜きが終わった……。」
しかし、石畳の隙間や花壇にはまだまだ雑草がこんもりと生えている。さすがにこの量を一人でやるのは時間がかかりそうだ。
「これ……草刈りだけで何日かかるかなあ。一週間くらいで終わるかな?」
荒れ果てた庭を見回しながら、リリアーヌは小さくため息をついた。
まあ、これだけ伸び放題になっているのだから、時間がかかるのは仕方がない。
男爵邸にいた頃は、庭の手入れは全てリリアーヌ一人の仕事だった。男爵夫人に炎天下での草抜きを命じられることもあったので、庭仕事には慣れている。
庭仕事の後は肌が真っ赤になってしまうのに、次の日には元の白い肌に戻っていた。どうやら自分は日焼けしない体質らしい。
『あれだけ外にいたのに、どうして焼けていないの!』
ちゃんと言いつけ通りに仕事をしたのに、なぜか男爵夫人とカリーナには怒られたものだが……。
でも、今は自分の好きな時に好きなようにできる。最初は手間と時間がかかるが、これだけ広い庭なら、ハーブや薬草もよく育つだろう。
リリアーヌは早く庭を整理して、植物を植えたいと思っていた。
「さて、今日はこのくらいにして、残りは明日にしよう。」
刈り取った草を集め、後片付けをする彼女を、木陰から小さな妖精たちが見守っていた。
ふと視線を感じて振り向くが、そこには誰もいない。
風が葉を揺らしたのかな?リリアーヌはそう思い、特に気に留めずに後片付けを終えると、部屋に戻った。
リリアーヌがいなくなると木陰から、透き通る羽根を持つ妖精たちが姿を現した。
「ねえねえ!リリアーヌ、今日もすごく頑張ってたね。」
エメラルドグリーンの瞳を持つ妖精が言った。
「うん。あの子、いつも一生懸命だよね。」
薄桃色の羽根を持つ妖精が頷く。
「一人であんなに草を抜いて……。でも、楽しそうだった。」
金色の羽根を持つ妖精も小さく微笑んだ。
妖精たちは、あの日からずっとリリアーヌを見守り続けていた。毎朝ハーブを届け、彼女の喜ぶ姿を見るのが彼らの日課になっていた。
最初は、クッキーの恩を返すためだった。
けれど、リリアーヌは次第に、妖精たちにとって特別な存在になっていった。
「リリアーヌ。あの庭にハーブを植えたいんだって。」
「僕たちがあげたハーブを大事に育てたいって言ってたね。」
妖精たちは顔を見合わせた。
「ねえ、僕たちが手伝ってあげようよ!」
一番小さな妖精が目を輝かせた。
「うん!そうだね!今度は僕たちが恩返しする番だ。」
「あの子が喜ぶ顔、また見たいな。」
妖精たちは嬉しそうにくるくると宙を舞った。
「じゃあ、決まりだね。」
「うん!今夜、みんなで庭を綺麗にしちゃおう!」
「リリアーヌ、きっと驚くよ!」
妖精たちはきらきらと光を放ちながら、夜の訪れを待った。
翌朝、リリアーヌは張り切って庭に足を運んだ。
「さて、今日はどこから始めようかな。やっぱり石畳のところから……、」
そこで目にしたのは、驚くべき光景だった。
あんなにぼうぼうに生えていた雑草が綺麗さっぱりなくなり、庭が見事に整えられている。花壇の土は丁寧に耕され、石畳の隙間の雑草も一本残らず取り除かれていた。
「え、ええ!?」
リリアーヌは目を見開いた。
「一体、誰がこんなこと……?」
キョロキョロと辺りを見回すが、人影は見当たらない。
昨日、あれほど手強そうに見えた庭が、まるで魔法にかかったように美しく整備されている。
「もしかして、庭師の方が……?」
首を傾げながら、リリアーヌはここの庭師の青年、ダリオのことを思い出した。
ここの庭を好きにしていいと親切に言ってくれたあのダリオがこの庭を手入れしてくれたとか……?
でも、たった一晩で、しかも一人であれだけ荒れ果てた庭を整えるなんてできる筈がない。
不思議で堪らないが、理由は分からない。
「まさか、本当に魔法とか?」
いやいや。そんなまさか。
でも、この世界には魔法があるし、妖精や精霊も存在する。もしかしたら、誰かが手伝ってくれたのかもしれない。何にせよ、庭が綺麗になったことに変わりはない。
リリアーヌの顔には嬉しそうな笑みが浮かんでいた。
「これで、ハーブが植えられる!」
リリアーヌはそれから、花壇にハーブを植え、世話をするようになる。
そんなリリアーヌを木陰から小さな妖精たちが微笑んで見守っていた。
「リリアーヌ、喜んでくれてるね!」
「よかったよかった!」
妖精たちは幸せそうに羽根を震わせた。
「これからも、リリアーヌを守ってあげようよ。」
「うん。あの子は誰にも傷つけさせない。」
妖精たちはそう誓い合った。
その日の夕刻。
侍女長は厨房で、湯気の立つシチューを見下ろし、口元を吊り上げた。
「フフッ……、あの女がどんな顔をするか、楽しみだわ……。」
皿の中には、こっそりと忍ばせた黒光りする虫の死骸。
侍女長は満足げに蓋を閉めると、侍女たちに目配せをした。
「お前たち、よく見ておきなさい。リリアーヌの反応を。」
「はい、侍女長。」
「お任せください。」
三人の侍女が心得たように頷く。
廊下の隅で、妖精たちがその一部始終を見ていた。
「ひどい!あの女、リリアーヌのご飯に虫を入れた!」
紅い羽根を持った妖精が怒りに震えた。
「許せない!リリアーヌはあんなに優しいのに……!」
青い羽根を持つ妖精が涙目になる。
「何とかしないと!リリアーヌを守らなきゃ!」
黒い羽根の妖精が拳を握り締めた。
「でも、どうやって……?」
妖精たちが頭を悩ませていると、一匹の茶色いネズミが通りかかった。
エメラルドグリーンの瞳の妖精がきらりと目を輝かせて、声を上げた。
「僕にいい考えがある。」
悪戯を思いついた子どものような表情で、コソコソと仲間に内緒話をした。
侍女たちが皿に盛ったシチューを運び出そうとすると、チュウ、という鳴き声が聴こえた。足元を見下ろすと、茶色の小さなネズミが一匹いた。
「きゃああああ!ネズミ!」
「いやああああ!」
「は、早く追い出して!」
足元を茶色いネズミが横切り、侍女たちは慌てて悲鳴を上げた。
必死に皿を落とさないよう騒ぎながら、なんとか追い払う。
「全く……!まさかネズミがいるなんて……!ネズミ捕りを用意しないと……。」
ぶつぶつ言いながら、侍女長は自分の分の食事を手に部屋へ戻っていく。
その後ろ姿を、廊下の隅から無数の小さな光が見つめていた。
「行った?」
「うん、行った行った!」
「やった!成功!」
きらきらと舞い上がる妖精たち。
「リリアーヌを守れたね!」
「うん!あの子には絶対、悪いことさせない!」
妖精たちはネズミと協力して騒ぎを起こし、侍女が持っていた皿を入れ替えていたのだ。
「ありがとう!」
「ほら、チーズだよ!」
妖精がチーズを差し出すと、ネズミは「チュッ!」と鳴いて齧りついた。
「リリアーヌ様。夕食をお持ちしました。」
「ありがとう。わあ……!今日はご馳走ですね!」
目の前に置かれた仔羊のシチューに、リリアーヌの瞳が輝く。
侍女たちはクスッと嫌らしい笑みを浮かべて、リリアーヌの反応を窺っていた。
リリアーヌは侍女の視線の意味に気付かず、両手を組み、食前の祈りを捧げてから、スプーンを口に運んだ。
「っ……お、美味しい……!お肉が柔らかくて、舌が蕩けそう……。野菜もよく煮込まれてて……。」
満面の笑みで頬張る彼女を見て、侍女たちは顔を引きつらせた。
(お、おかしいわ……。)
(虫が入ってるはずなのに……?)
しかし、リリアーヌはひたすら幸せそうに食べ続ける。
(ああ……。幸せ……。生きてて良かった!羊肉って、こんなに美味しいんだ……。殿下の側室になってよかった……。)
「……い、一度、侍女長に報告を!」
「そ、そうね!」
メイドたちはこそこそと小声で囁き合い、慌てて退室した。
その様子を見て、リリアーヌは小首を傾げた。
(何をそんなに急いでるんだろう?まあいいや。)
リリアーヌは目の前のシチューに夢中で特に気にしなかった。
その頃──。侍女長は自分の部屋にいた。
「今頃、あの女は悲鳴を上げている頃かしら?」
侍女長はざまあみろ、と顔を歪めて笑った。
(いい気味だわ。男爵の私生児という卑しい血筋の女にはそれがお似合いよ。)
侍女長は自分の分のシチューを口に運ぶ。すると、ガリッとした固い感触がした。
「……何?何か、固いのが……、」
思わず口から出してみると、それは黒光りする虫……。ゴキブリの死骸だった。
「ぎゃあああああああ!」
廊下に侍女長の絶叫が響き渡った。その直後、侍女長は熱々のシチューを頭からかぶってしまう。
妖精たちが風の魔法で皿をぶつけ、中身を直撃させたのだ。
「熱っ……!熱いいいいい!」
「じ、侍女長!?」
「大丈夫ですか!?」
騒ぎを聞きつけた使用人たちが駆けつける。その場は大混乱に包まれた。
一方その頃のリリアーヌは、
「ん?何だろう。今の声……?」
モグモグとシチューを堪能しながら、首を傾げていた。
この後、侍女長は火傷と精神的ショックで一週間寝込み羽目になった。
「あ、あの女……!ゆ、許さない…!」
リリアーヌを逆恨みした侍女長は執念深く嫌がらせを続けた。
その後も復讐といわんばかりにリリアーヌの部屋にゴキブリを大量に放つが……、
「あれ?ゴキブリだ。おかしいなあ。ちゃんと掃除してたのに。」
リリアーヌは男爵邸でもゴキブリが出たことがあり、その退治と対処もさせられていたので特に動じた様子はなかった。
「あ、そういえば、庭にクローブがあったよね。」
リリアーヌは庭のクローブを採取するために外に出た。
15
あなたにおすすめの小説
幼馴染の勇者に「魔王を倒して帰ってきたら何でもしてあげる」と言った結果
景華
恋愛
平和な村で毎日を過ごす村娘ステラ。
ある日ステラの長年の想い人である幼馴染であるリードが勇者として選ばれ、聖女、女剣士、女魔術師と共に魔王討伐に向かうことになる。
「俺……ステラと離れたくない」
そんなリードに、ステラは思わずこう告げる。
「そうだ‼ リードが帰ってきたら、私がリードのお願い、一つだけなんでも叶えてあげる‼」
そんなとっさにステラから飛び出た約束を胸に、リードは村を旅立つ。
それから半年、毎日リードの無事を祈り続けるステラのもとに、リードの史上最速での魔王城攻略の知らせが届く。
勇者一行はこれからたくさんの祝勝パーティに参加した後、故郷に凱旋するというが、それと同時に、パーティメンバーである聖女と女剣士、そして女魔術師の話も耳にすることになる。
戦いの昂りを鎮める役割も担うという三人は、戦いの後全員が重婚の認められた勇者の嫁になるということを知ったステラは思いを諦めようとするが、突然現れたリードは彼女に『ステラの身体《約束のお願い》』を迫って来て──?
誰がどう見ても両片思いな二人がお願いをきっかけに結ばれるまで──。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
契約結婚のススメ
文月 蓮
恋愛
研究一筋に生きてきた魔導士のレティシアは、研究を続けるために父に命じられた結婚をしかたなく承諾する。相手は社交界の独身女性憧れの的であるヴィラール侯爵アロイス。だが、アロイスもまた結婚を望んでいなかったことを知り、契約結婚を提案する。互いの思惑が一致して始まった愛のない結婚だったが、王の婚約者の護衛任務を受けることになったレティシアとアロイスの距離は徐々に縮まってきて……。シリアスと見せかけて、コメディです。「ムーンライトノベルズ」にも投稿しています。
敵将を捕虜にしたら夫になって、気づけば家族までできていました
蜂蜜あやね
恋愛
戦場で幾度も刃を交えてきた二人――
“赤い鷲”の女将軍イサナと、
“青狼”と恐れられたザンザの将軍ソウガ。
最後の戦いで、ソウガはイサナの軍に捕らえられる。
死を覚悟したその瞬間――
イサナは思わず、矢面に立っていた。
「その者は殺させない。命は……私が引き受けます」
理由などなかった。
ただ、目の前の男を失いたくなかった。
その報告を受けた皇帝エンジュは、
静かに、しかし飄々とした口調で告げる。
「庇いたいというのなら――夫として下げ渡そう」
「ただし、子を成すこと。それが条件だ」
敵国の将を“夫”として迎えるという前代未聞の処置。
拒否権はない。
こうしてソウガは、捕虜でありながら
《イサナの夫》としてアマツキ邸に下げ渡される。
武でも策でも互角に戦ってきた男が、
今は同じ屋根の下にいる。
捕虜として――そして夫として。
反発から始まった奇妙な同居生活。
だが、戦場では知り得なかった互いの素顔と静かな温度が、
じわじわと二人の距離を変えていく
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
発情王女の夫選び
山田ランチ
恋愛
〈あらすじ〉
王家熱を発症した者が女王になれる国、テーレフルミ王国の第一王女サンドラは、よりにもよってたまたま通りすがった騎士団長ジュール・ベルナールの前で王家熱を発症してしまう。王家熱を発症するとより多くの子孫を残そうと発情してしまうという厄介な体質になってしまったサンドラは、抗えない衝動によってジュールを襲い後悔する。その日は丁度、功績を上げた褒美としてジュールが騎士団長になり、侯爵という高位の爵位を賜った日でもあった。
女王になれば複数の愛妾を持つ定めのサンドラは、ジュールに惹かれていく気持ちになんとか蓋をしようとする。そんな中、二人を引き裂くようにサンドラの夫候補としてグランテーレ王国から第三王子のアレシュがやってくる。そしてサンドラはアレシュの前で発情してしまい……。
〈登場人物〉
テーレフルミ王国
サンドラ・フルミ 第一王女 17歳
ジュール・ベルナール ベルナール侯爵、騎士団長、26歳。
シルヴィオ・フルミ 第一王子 22歳
シルビア・フルミ 第二王女 8歳
レア・フルミ 女王、53歳
シュバリエ 女王の愛妾 55歳
シレンヌ・ベル 宰相、ベル伯爵、53歳
アレッサ・シャスール シャスール子爵家の長男、騎士団副隊長、28歳。
シェイラ・シャスール シャスール子爵家の長女で、アレッサの双子の妹。ジュールの元婚約者。
グランテーレ王国
アレシュ 第三王子 18歳
【完結】体目的でもいいですか?
ユユ
恋愛
王太子殿下の婚約者候補だったルーナは
冤罪をかけられて断罪された。
顔に火傷を負った狂乱の戦士に
嫁がされることになった。
ルーナは内向的な令嬢だった。
冤罪という声も届かず罪人のように嫁ぎ先へ。
だが、護送中に巨大な熊に襲われ 馬車が暴走。
ルーナは瀕死の重症を負った。
というか一度死んだ。
神の悪戯か、日本で死んだ私がルーナとなって蘇った。
* 作り話です
* 完結保証付きです
* R18
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる