冷遇され、虐げられた王女は化け物と呼ばれた王子に恋をする

林檎

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第一章 出会い編

ルーファスの正妃と側室

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「はあ…。」

リスティーナは溜息を吐いた。気が重たい。
リスティーナはこれから、正妃、ダニエラ様と側室達とのお茶会が控えているのだ。
これが初めての顔合わせであり、挨拶の場でもある。
リスティーナの脳裏に思い浮かぶのは、今まで故郷で受けた仕打ちの数々…。水をかけられる、虫の入った菓子やお茶を飲食するように強要する、罵倒され、叩く蹴る等の折檻…。
思い出すだけで震えが止まらない。この後宮でもそんな目に遭うのだろうかと思うと、怖くて堪らない。お茶会だって、新参者の妃を虐める為だけのものなのかもしれない。

そう考えると、今すぐ逃げ出したくなってしまう。けれど、そうするわけにもいかずにリスティーナは緊張で震えそうになる自分を叱咤し、お茶会の場に向かった。
お茶会は中庭で開かれることになっている。リスティーナは侍女に案内され、中庭へと足を進める。お茶会には既に正妃と二人の側室が座っていた。あの方達がルーファス殿下の…、リスティーナは気を引き締めて彼女達に向かい合った。初めの挨拶が肝心だ。失態のないようにしないと。
リスティーナはスカートの裾を摘んで深々とお辞儀をした。

「お初にお目にかかります。リスティーナと申します。」

「そう…。あなたが…、顔を上げなさい。」

リスティーナは顔を上げる。豪華な金髪の巻き毛に目元の黒子が特徴的の色気溢れる美女。
豊満な肉体を強調するかのように胸の開いたドレスを着ている。薔薇のように真っ赤なドレスがとても艶やかで色っぽい。

「私は、ダニエラ。ルーファス殿下の正妃よ。」

このお方が正妃、ダニエラ様…。確か、ローゼンハイム国の公爵令嬢であるとお聞きしている。
成程。大国の王女ではなく、自国の高位令嬢がご正妃様…。確かに諸外国の関係も大事だけど、国の貴族と王家の繋がりを強くするためには自国の令嬢を妻に迎えた方がいい。それに、自国の令嬢なら国の文化や慣習にも通じている。ダニエラ様が正妃に選ばれたのも当然だ。
気が強い美女に見えるが表面上は友好的な態度だ。他の側室達もそれに倣っている。意外は反応にリスティーナは驚いた。

「お掛けなさい。」

「ありがとうございます。」

正妃に促され、リスティーナは末席に腰掛けた。ダニエラから他の側室達も紹介される。
正妃の右隣にいるのがアーリヤ様。赤髪に褐色の肌が特徴的だ。彼女もまたダニエラ様とは違った魅力のあるエキゾチックな美女だ。
アーリヤ様は確か、砂漠の国、パレフィエ王国の第二王女。
砂漠の国はローゼンハイム神聖皇国と同盟関係にある。
同盟といえば聞こえはいいが実際はローゼンハイム神聖皇国の方が力関係は上である。
アーリヤ様も同盟の証として、この国に嫁がされたのだろう。状況は自分と同じだが立場は異なる。確かにローゼンハイム神聖皇国と比べると格下の国だがそれでもパレフィエ王国は大国。同盟国の中では一、二位を争う位に力がある。弱小国家のメイネシア国とは比べ物にならない。

ダニエラ様の左隣に座っているのがミレーヌ様。黒髪黒目で色白の肌が美しい可憐で儚げな美少女だ。他の妻達と比べると幼く見える。ミレーヌ様はエミべス王国の第一王女。
パレフィエ王国程の大国ではないが魔法に通じた国である。昔はローゼンハイム神聖皇国と同等の国力を持っていたが時代と共にその力は衰退していった。
エミべス王国は元は魔法で発展していた国。しかし、魔法が重宝されていたのは昔の話だ。
歴史を重ねると共に魔法は廃れていき、それと同時にこの国も弱体化していった。その為、今ではエミべス国は神聖皇国と同盟関係にあるがこちらも格下の扱いに近い。メイネシア国より力は強いが大国と呼べるほどの国力はない。
この世界には、確かに魔法があるがその力は薄れつつある。昔はもっと強力な魔術を使えた術師も多かったのだが時代が経つと同時に魔法の力が弱まり、魔力の量も少ない人間が多くなってしまった。なので、今では魔法を扱える人間は数少ない。エミべス王国の王女なら、魔法に詳しいのかもしれない。もしかしたら、魔術も扱えるのかも…、リスティーナは少しだけ興味が沸いた。リスティーナにも魔力はあるが微力な物で大した力ではない。なので、機会があれば見てみたいと思った。

「リスティーナ様はメイネシア国の姫君なのですって?」

「はい。第四王女でございます。」

「そう…。それはお気の毒に。メイネシアの国力ではとてもこの国相手に断れませんものね。
私もそう。王命で無理矢理あの殿下と結婚させられましたの。」

「王命で…。」

「こんな事なら、早く結婚しておけば良かったと後悔したわ。私と結婚したいと仰る殿方は多かったのに…。」

確かにダニエラ様程、美しくて色気のある美女なら引く手あまただろう。
しかも、公爵令嬢という立場だ。地位も美貌もあるのだから申し分ない。

「おまけにあんな悲惨な事件が起こった後でしょう?私もあの王子に殺されるのではないかと怖くて怖くて…、」

「事件…?」

「王子にはダニエラ様の前に別の女性を正妃にしていましたの。その方はこの国の侯爵令嬢だったわ。でも…、彼女は嫁いで一年もしない内に亡くなりましたの。」

その噂は聞いたことがある。ルーファス殿下の前の正妃である侯爵令嬢は表向きは事故死とされているが、本当はルーファス殿下の呪いが移って死んでしまったのだとか。でも、それはただの噂だったんじゃ…、

「あの…、その前のご正妃様が亡くなったのは…、何が原因だったのですか?」

「呪いよ。」

ダニエラが扇で口元を覆いながら、低く呟いた。

「あの侯爵令嬢は…、美しいと評判の令嬢だったのに…、殿下に嫁いでから数か月で身体に異変が起きたの。体調を崩すようになり、痩せ衰えて寝たきりの生活になったわ。そして、そのまま…、亡くなったわ。彼女、最後は骨と皮だけのような姿になってしまったそうよ。」

悲惨な末路にリスティーナは息を呑んだ。

「一体、何が原因でそんな目に…?もしかして、病気に罹って…?」

「いいえ!あれは、呪いよ。だって、医師は結局、死因が分からなかったって話だもの!」

ダニエラはきっぱりと告げた。その目には恐怖の色があった。

「リスティーナ様は外国から来た姫君だから、ルーファス王子のことを知らないのでしょう?でしたら、私が教えてあげますわ。」

アーリヤがリスティーナに説明した。

「ルーファス殿下の呪いは本物よ。聞いたことがありません?あの王子の周囲にいた人間は次々と突然死を遂げるって。」

「それは…、でも、あれはただの噂で…、」

「あの噂は全て事実よ。実際に王子の周りでは不審な死を遂げる人間が多いのだから。」

火が燃え移ってそのまま焼け死んだ者、謎の皮膚病に侵されて見るも無残な姿に変わって病死した者、階段から落ちて複雑骨折した者、毒を飲んで自殺した者、池で溺れ死んだ者、行方不明になったまま消息を絶ち後日に遺体となって見つかった者…。
過去に起こった事件を挙げられ、リスティーナは愕然とした。
しかも、どれも原因は分からないのだ。まさか、本当に呪いのせいで…?
いや。そんな馬鹿な事が…、でも、そんな怪事件が立て続けに起こってしまったら確かに怖い。

「あれは、絶対に呪いのせいだわ!ルーファス殿下と関わると、次々と不幸な目に遭うのだもの…。最悪、命だって落とすのよ!」

アーリヤが震える声で叫んだ。

「忠告するわ。リスティーナ様。あなたも行動にはお気を付けなさい。でないと、今までの人達と同じように呪い殺されるわよ。」

アーリヤの忠告にリスティーナは何と答えればいいのか分からなかった。

「私もいつ…、あの侯爵令嬢と同じように殺されるのかと思うと…、恐ろしくて恐ろしくて…、」

ダニエラ様も恐怖に引き攣った表情を浮かべる。

「ダニエラ様…。」

「皇帝陛下もどうして、ルーファス様を野放しにしているのかしら?」

「ルーファス殿下がやったという決定的な証拠がないからだわ。それに…、陛下は恐れているのよ。以前、陛下は王子に手を上げたことがあったみたいなの。その時に…、何故か窓ガラスが割れて、硝子の破片で陛下は大怪我を負ったらしいの。なのに、王子は無傷だったんですって。
それ以来、陛下はルーファス殿下を恐れて近寄ろうともしないの。下手に危害を加えたら自分が殺されるのではないかと考えているのよ。」

「何てことなの…。」

そんな事が…、今まで知らなかったルーファス殿下の噂の真相が次々と明かされていく。
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