冷遇され、虐げられた王女は化け物と呼ばれた王子に恋をする

林檎

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第一章 出会い編

アーリヤの忠告

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「そういえば、リスティーナ様はさっきイグアス様を見ていたけど、あなたもイグアス殿下狙いなの?」

「え!?」

アーリヤの言葉にリスティーナは驚いて声を上げた。どういう意味?

「イグアス様は競争率高いから止めた方がいいわよ。正妃はいないけど、側室が十人以上いるらしいから。何より…、ダニエラ様に殺されるわよ。」

「え、あの…?それはどういう…?それに、どうして、ダニエラ様の名前が出てくるのですか?」

アーリヤの意味ありげな言葉にリスティーナは首を傾げた。
アーリヤはクスッと笑い、リスティーナに顔を近づけた。いきなり、間近に迫られてリスティーナはたじろいだ。そんなリスティーナに構わず、アーリヤは扇を広げて声を潜めながら話した。

「ここだけの話。ダニエラ様はイグアス様の愛人なの。ルーファス殿下が死んだら、イグアス様に乗り換えるつもりかもね。だから、イグアス様には手を出さない方がいいって事。」

「な…!?」

リスティーナは驚いて固まってしまう。
同時にハッと思い出した。そうだ。イグアス様はあの時、ダニエラ様と一緒にいた密会の相手だ!
だから、見覚えがあったんだ。どうして、すぐに気付かなかったんだろう。

まさかダニエラ様のお相手がルーファス殿下の弟だったなんて…!
兄の妻に手を出すなんてイグアス様も何を考えているのだろうか。
ダニエラ様もダニエラ様だ。
ルーファス殿下がいながら、別の男…、それも夫の弟と浮気をするなんて…!
ん?そういえば、アーリヤ様は最後に変な事を言っていたような…。

「あの…、アーリヤ様。最後のイグアス様に手を出すなとは一体…?私はルーファス殿下の側室ですわ。殿下以外の異性に近付くなど許されません。」

アーリヤはきょとん、と目を丸くしてリスティーナを凝視する。が、すぐにアーリヤはフッと馬鹿にしたように笑った。

「リスティーナ様。本気で言っているの?」

「え…?」

「ルーファス殿下はもって後一年か二年の命…。
もうすぐ死ぬ運命にあるの。そうなったら、私達はどうなると思う?国に帰るか、ここに残る。そのどちらかを迫られる。負け犬みたいに国に帰るのもいいけど、国に残って自分と国の利になる相手をモノにする方が賢い選択じゃない?でも、その為には、色々と下準備が必要でしょう?だから、今の内に落とす相手を見つけて行動しないと。ルーファス殿下が亡くなったら、すぐにその人の所に行けるようにね。」

「なっ…、そ、そんな…!そ、そんな事…!」

「リスティーナ様だけよ。ダニエラもミレーヌもルーファス殿下を見限って愛人を作ってる。リスティーナ様もここで生き残りたいなら、もっと賢く生きなきゃ。」

アーリヤの言葉にリスティーナは言葉を失った。
そのまま呆然と立ち尽くすリスティーナにアーリヤは怪しげに微笑み、耳元に囁いた。

「まあ…、よく考えておくことね。困ったことがあったら、私に言いなさいな。…条件次第では私があなたの味方になってあげてもいいわよ?」

アーリヤは意味深な言葉を言い残すと、愉し気に笑い、軽やかな足取りでその場を立ち去った。
リスティーナは暫くその場から動くことができなかった。

ふと、イグアスを取り囲む女性の集団にダニエラの姿がある事に気が付いた。
ダニエラは集団の中央にいて、一際目立ったオーラを放っていた。イグアスに色を含んだ目で話しかけ、イグアスもそれに笑って受け答えしている。ふと、イグアスがこちらに視線を向ける。

リスティーナはギクッと顔を強張らせた。イグアスはリスティーナに口角を上げて、笑った。
その笑みにリスティーナはゾクッとした。
視線が交わったのは一瞬ですぐにイグアスはダニエラ達に視線を向けた。
何?今の‥。笑顔なのに…、何だか怖い。
どうして、こんな事を思ってしまうのだろう。

「見て!ダグラス様だわ!」

「まあ…。相変わらず野性的で素敵だわ…。」

「イグアス様とは違った魅力がありますわね…。」

一部の令嬢達がイグアスではない別の所にうっとりとした視線を向けている。
あの方がダグラス様…?
リスティーナは軍服に身を包んだ筋骨隆々の男に目を向けた。

あの方が先程、アーリヤが話していた第一王子、ダグラス…。
黒髪に同色の瞳に浅黒い肌、逞しい体つきをしたまさに軍人といった風貌だ。
上品で甘い容姿に線の細い身体のイグアスと違い、ダグラスは野性的で精悍な印象を与える。
同じ美形でもタイプの違った美男子である。

そして、壇上を見ればそこにはつまらなそうに頬杖をついて座ったまま動こうとしない第四王子、アンリの姿があった。王子の中で一番下のアンリは背丈もまだ低く、あどけない顔立ちで少年とよんでもいい見た目をしている。
銀髪に灰色の瞳をしたアンリもまた美少年には変わりない。

さすが、王族。
王子は皆、美形だし、人を惹きつけるオーラがある。
そういえば、ルーファス殿下はどちらにいらっしゃるのだろうか?
リスティーナはキョロキョロと見回した。
どこにも見当たらない。もしかして、まだこちらに来ていらっしゃらないのだろうか?

不意にリスティーナは視線を感じた。

「あの女性がルーファス殿下の新しい側室か?」

「そうらしいな。メイネシア国の王女らしいぞ。最も、王女といっても母親が平民で下賤な血を引いた王女なのだそうだ。」

「平民だと?…フン。まあ、あの化け物王子には丁度いいかもしれんな。」

リスティーナを見て、蔑む貴族達に思わず身体が強張った。
やっぱり、ここでも私は蔑みの対象になるんだ。
当たり前か。小国の王女でしかも、平民の血を引く王女なんて、それだけでも異質なのだから。
…ルーファス殿下のような人が珍しいのだ。

「あの王女はいつまでもつだろうな?
そういえば、あの敗戦国の王女は嫁いでから一か月足らずで死んだそうだな。」

「あの王女が生き残れるかどうか賭けるのはどうだ?」

「それはいい。」

そう言って、下品に笑い合う貴族達にリスティーナはギュッとドレスの裾を握り締め、急いでスカートを翻して、その場を立ち去った。
これ以上、この場にいたくなかった。リスティーナはその場から逃げる様にして会場の外に向かった。
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