冷遇され、虐げられた王女は化け物と呼ばれた王子に恋をする

林檎

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第二章 相思相愛編

ルーファスの初めて

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※軽い性描写あり ご注意下さい




ルーファスはリスティーナを見て、微笑んだ。

「そんな顔をするな。俺は大丈夫だ。爺やルカ達も今、必死に俺の呪いを解く方法を探してくれているんだ。」

「え、そうなのですか?」

そうか。私以外にも殿下の呪いを解くために頑張っている人達がいるんだ。リスティーナは嬉しくなった。

「君の事を話したら、すごく喜んでいた。」

「本当ですか?」

リスティーナはパッと顔を輝かせた。

「殿下、あの…、でしたら、今度、是非ロジャー様達と話し合いをする機会を与えて貰ってもいいでしょうか?色々と聞きたいことや教えて欲しい事があるんです。」

「いいのか?」

「勿論です!是非、お願いします!」

リスティーナが笑顔で頷き、懇願すると、ルーファスはリスティーナをフッ、と目を細めて、優しく見つめた。

「君の都合さえ良ければ、いつでも俺の部屋に来るといい。使いを寄越してくれたら、迎えをやる。」

「ありがとうございます!あの…、じゃあ、早速で悪いのですが…、明日でもいいでしょうか?」

「構わない。」

リスティーナはぱあ、と顔を輝かせた。良かった!これでロジャー様達と情報共有ができる。

「そうだ!殿下。私、エルザにも殿下の事を話してみます。エルザは呪いや毒物に詳しいんです。もしかしたら、何か手がかりを掴めるかもしれませ、」

リスティーナが最後まで言葉を言う間もなく、フッと影が差した。え…、と思う間もなく、ルーファスに抱き締められる。

「で、殿下…?」

「…君には感謝してもしきれない。」

彼はそっと腕を解いて、リスティーナを見つめる。頬に彼の手が触れる。壊れ物を触るように優しい手つきでそっと頬が撫でられた。

「俺には何もない。地位も権力も財産も領地も城も…、何も持っていない。俺は君にあげられる物は何一つないんだ。」

ルーファスはリスティーナの頬に触れていた手を移動し、髪に触れた。
そっと髪の一房を手に取って、口づける。

「俺は…、君に何もしてあげられない。すまない…。」

「そんな事ありません。私は…、もう十分すぎる位、良くして頂いています。」

リスティーナは彼の手をギュッと握りしめた。

「殿下には何度も助けられました。助けられているのは私の方です。それに…、私はただ殿下の傍にいるだけで幸せなんです。他には何もいりません。」

リスティーナは彼の手に唇を寄せた。愛おしい。彼がこんなにも…。

「リスティーナ…。」

ルーファスがじっとこちらを見つめる。その闇色の目に見つめられると、胸がじんわりと熱くなる。
ルーファスの手がリスティーナの頤に触れる。そっと顔が近付く。リスティーナはそのまま目を閉じて、彼を受け入れた。

「ん…。」

触れるだけの口づけ。それだけでリスティーナの心は歓喜に震えた。
チュッ、チュッ、と何度か触れるだけの口づけが繰り返される。最初は触れるだけだった口づけは段々と激しいものに変わっていく。

「ん…、っ、んう…!」

彼の舌が入ってくる。お互い荒い息遣いを吐きながら、熱い口づけを交わす。
はあ…、と息苦しさを感じながら、潤んだ目で彼を見つめる。
ルーファスが一旦、唇を離す。

「すまない。息苦しかったか?」

リスティーナは大丈夫だと答えようとしたが、呼吸を整えるのに必死で上手く答えられなかった。
ギュッと彼の腕にしがみつき、縋るような視線で見上げた。

「朝も君に確認したが…、もう一度聞きたい。本当に君は…、俺に抱かれてもいいと思ってくれているのか?」

ルーファスはリスティーナの頬に触れて、そう訊ねてきた。
ああ。彼は本当に…、どこまでも優しい人だ。いつだって、私の意思を尊重してくれる。
リスティーナはコクン、と小さく頷いた。

「俺も…、ずっと君を抱きたいと思っていた。」

ルーファスに引き寄せられ、コツン、と額をくっつけられる。間近にルーファスの顔が迫り、リスティーナはかああ、と顔を赤くした。殿下の顔がこんなに近くに…。

「今から…、君を抱いてもいいか?」

「…はい。わ、私も…、ずっと…。殿下に…、触れて欲しかったです…。」

リスティーナは恥ずかしくて、彼の目が見れなかったが小さな声で返事をした。
そんなリスティーナにフッとルーファスは優しく笑うと、リスティーナを抱き上げ、寝室まで連れて行ってくれた。
殿下は細く見えるのにやっぱり、男の人なんだ…。
そんな風にリスティーナがドキドキしていると、いつの間にかベッドに辿り着き、優しくそっとベッドに下ろされた。

ギシッと音を立てながら、ルーファスはリスティーナに覆いかぶさるようにベッドの上に乗った。
ルーファスがこちらに手を伸ばす。が、自分が黒い手袋をしたままだったのに気付き、手袋の指先を口で噛むと、グイッと手袋を外した。その仕草にリスティーナはドキッとした。
ルーファスの手袋が取り去られ、彼の手が露になった。黒い紋様が刻まれた手…。
前よりもその傷痕が濃くなっている気がする。

「あ、あの…、殿下。仮面を…、外してくれませんか?私、殿下の顔を見ながら…、その、したいのです…。」

リスティーナはドキドキしながら、彼にそうお願いした。
ルーファスはいつも仮面をしている。それはあの黒い傷痕を隠す為だという事は知っている。
彼はその仮面を滅多に外すことはしない。
リスティーナが彼の素顔を見たのは、初めて彼に抱かれた時とあの雨が降った夜のたった二回だけ。

ルーファスの仮面は顔の半分を隠しているが口元までは隠していない。
彼の黒い傷痕は口元までは刻まれていないからだ。
だから、彼と口づけをする時に仮面をつけていても支障はない。
だけど…、リスティーナは彼が仮面をつけたままでいることが少し寂しく感じた。
できれば、仮面を取った彼の素顔を見ながら、口づけしたい。

リスティーナのお願いにルーファスは一瞬、躊躇したような反応をした。

「いや。それは…、」

「だ、駄目でしょうか…?」

シュン、と落ち込んだような表情を浮かべるリスティーナにルーファスは数秒黙り込んだ。

「…分かった。」

ルーファスはそう言って、仮面に手をかけた。仮面を外すと、あの顔半分に刻まれた黒い紋様が露になった。
彼はリスティーナに傷痕を少しでも見せないようにするかのように目を伏せた。

「痛くないですか…?」

リスティーナはルーファスの傷痕にそっと手を当てた。リスティーナに触れられて、ルーファスが目を瞠った。

「…ああ。痛くない。」

「そうですか。良かったです。」

リスティーナはホッとした。良かった。痛くないんだ。ルーファスは頬に触れているリスティーナの手に自分の手を重ねた。

「君に一つ言っていないことがある。」

「…?」

何だろう?リスティーナは深刻な顔をしたルーファスを見上げた。

「君も薄々気付いているかもしれないが…。俺は君が初めての相手だったんだ。」

ルーファスは少しだけ気まずそうにそう口にした。

「え?でも、あの…、王族の方は婚姻前に閨教育を受けるのでは…?」

そういえば、彼に抱かれた時、初めて女性を抱いたかのような発言をしていたような…?
でも、まさか、彼が初めてだなんて思わなかった。だって、王族は大体、結婚前にそういう閨の手ほどきを受けると聞くし…、

「俺に閨教育をしたがる女がいる訳ないだろう。候補者は皆、相次いで辞退したから、俺は閨教育を受けたことはない。」

「じゃ、じゃあ、前の正妃様や側室の方とは…?」

「俺を殺そうとする女が俺と寝たいと思うか?」

「あ…。」

確かに…。言われてみれば、そうだ。

「それに、ダニエラ達とも関係を持ったことはない。いつも理由をつけられて断られているからな。」

「じゃ、じゃあ…、殿下は本当に私が初めてだったんですか…?」

「そうだ。…引いただろう。」

目を逸らすルーファスにリスティーナは首を横に振った。

「そんな事ないです。私…、嬉しいです。私が殿下の初めての相手で…。」

嬉しい。リスティーナは素直にそう思った。そっか。殿下も初めてだったんだ。私と一緒…。

「私も初めてだったので同じですね。」

リスティーナはキュッとルーファスの手を握って笑顔でそう言った。
殿下も初めて。私も初めて。嬉しいな。嬉しくて、自然とニコニコしてしまう。

「っ、リスティーナ…!」

「んっ…!」

名前を呼ばれたかと思ったら、急に唇を塞がれた。
あ…。今、呼び捨てで呼んでくれた。嬉しい…。ぼんやりと頭の隅でそんな事を思った。
さっきの優しい口づけとは違い、荒々しくて、少し乱暴な口づけ…。
ルーファスの熱い舌がリスティーナの唇をこじ開けて、口内に侵入する。
舌を絡め、吸って、歯列や歯茎の裏側も舐められる。
まるで理性が切れたかのようにリスティーナの唇を貪る彼の姿にリスティーナはキュン、としてしまう。
それだけ自分を求めてくれるのだと思うと、嬉しくて堪らなかった。
リスティーナも彼を求めて、その腕に縋り、彼の口づけに応えるように舌を絡ませた。

「ん…、っ、あ…!」

くちゅ、くちゅと室内に卑猥な音が響いた。
互いの唾液が混ざり合い、貪り合うような口づけ…。
ルーファスが唇をゆっくりと離すと、銀色の糸が二人の唇を繋いだ。

「俺も…、君が初めてで良かった…。心から、そう思う。」

「っ、殿、下…、」

ハア…、と荒い呼吸をしたリスティーナは唇の隙間から唾液が零れているのにも気付かず、蕩けた表情で彼を見つめた。

「可愛い…。君のそんな表情…、初めて見るな。」

可愛い。彼の言葉にリスティーナはトクン、と心臓が跳ねた。
ルーファスはリスティーナの唇の端についた唾液をグイッと指で拭い、リスティーナの白い喉元に零れ落ちた唾液を舌で舐めとった。
あ…、とリスティーナは声を上げ、ビクッと身体が小さく跳ねた。

「ん…。甘い…。初めて君を抱いた時もそうだった。女の身体はこんなにも甘いものなのか?それとも…、君だから甘いのか…?」

「っ、そ、そんな事…、ない、です。きっと…、お風呂に入ったばかりだから…、」

彼は私を初めて抱いた時も私の指や胸を舐めて、甘いと呟いていた。
でも、別に私の体は甘くない。きっと、お風呂に入ったからだろう。
入浴後はスザンヌ達が全身にクリームを塗ってくれたりもしていたし…。

「それに…、」

ルーファスはリスティーナの髪の一房を手に取り、そっと匂いを嗅いだ。
髪から手を離すと、今度はリスティーナの頭を片手で引き寄せ、首筋に顔を埋めた。
スウ、と息を吸い込むルーファスの息遣いが間近で聞こえる。彼と密着し、彼の息遣いを肌で感じ、リスティーナは胸がドキドキした。

「君はすごくいい匂いがする…。」

「そ、そうでしょうか?」

あ。そういえば、今日、薔薇の花を浮かべたお風呂に入ったんだ。
その香りが移ったのかな?…薔薇風呂にしといてよかった。
彼にいい匂いだと言われ、嬉しくて、頬が緩んだ。

「君は匂いまでも甘いのだな。君の匂いを嗅いでいると、何だか…、」
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