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第二章 相思相愛編
巫女の末裔
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古代ルーミティナ国の滅亡がそこまで悲惨な末路であったなんて…。
古代ルーミティナ国が滅びた原因は巫女を国外追放してしまったからだったなんて…。
巫女の力がどれだけ偉大で重要な物だったかがよく分かる。
「これが古代ルーミティナ国の歴史だ。」
「そんな歴史があったなんて知りませんでした。追放された巫女様は…、どうなってしまったのでしょうか?」
「国は滅びたが巫女は追放後、人知れずひっそりと生き延びたといわれている。」
「え…。巫女様は生きていたんですか?」
「ああ。例の魔術師一族と巫女の一族が迎えに上がり、巫女は無事に保護された。その後、巫女は遠い異国の地に住まいを移し、平民として暮らしたそうだ。」
「そうだったんですか。」
良かった。巫女様は助かったんだ。
その後、幸せに暮らせたのだろうか?そうだったらいいな。何も悪くないのに罰せられ、不幸な目に遭うだなんてあまりにも悲しすぎる。
「じゃあ、巫女の子孫は今でも存在しているんですか?」
「昔は巫女の末裔もそれなりにいたらしいが、今はもうほとんどいない。…リスティーナ。君は巫女狩りという言葉を聞いたことがあるか?」
「巫女狩り?」
聞いたことない。リスティーナは首を横に振った。
巫女狩りとは何だろう?
「巫女には特別な力がある。その為、一部の国や地域では、巫女の身体の一部を持っていれば、幸福になるという迷信が広まった。その迷信が原因で巫女の子孫は無惨に殺され、身体売買の為に狩られるようになった。それが巫女狩りだ。」
「…!」
リスティーナは息を呑んだ。
何て、残酷な…。
そんな根拠のない迷信を信じて、人を殺すだなんて‥。狂っている。
「では…、巫女の子孫はその巫女狩りで全滅してしまったんですか?」
「いや。全滅はしていない。巫女の生き残りは少ないが存在する。」
「そうなのですか?よくご存じですね。」
「巫女の一族の末裔が俺の婚約者だったからな。俺の元婚約者、ローザの話は覚えているか?彼女が巫女の末裔なんだ。」
「ええ!?」
まさか、本当に巫女の末裔がいたなんて…。
しかも、それがルーファス様の元婚約者、ローザ様だったなんて‥‥、
ルーファス様の婚約者であったにも関わらず、好きな人ができたという理由で婚約破棄をしたというこの国の公爵令嬢。
まさか、ローザ様が巫女の末裔だったなんて…。
「ローザ様は巫女の末裔だったんですか?ということは、ローザ様の生家の公爵家は巫女の子孫なのでしょうか?」
「ローザは公爵家の娘だが、正妻の子ではなく、愛人の子だった。公爵家は巫女の末裔とは何の関係もない。公爵の愛人だったというローザの母親が巫女の子孫だったんだ。」
「そうなんですね…。」
ローザ様も私と同じ正妻の子ではなく、愛人の子供だったんだ。
「巫女が持つ神聖力は実際にこの目で見たことはないのではっきりとは分かりませんが…、書物によれば、巫女の力には呪いを解く力もあったと書き記されています。」
「そうなんですか!?」
ロジャーの言葉にリスティーナは強く反応した。
巫女の力なら、ルーファス様の呪いは解けるかもしれないということだろうか。
「ペネロペ女王は、死ぬまで目が覚めない呪いをかけられた青年の呪縛を解いたという逸話が残されています。巫女の力は諸説ありますが、そうした過去の実例を見る限り、可能性はあるかと。巫女の力を持ってすれば、殿下の呪いも解けるかもしれません。」
「本当ですか!?じゃあ、ローザ様だったら、ルーファス様の呪いを解けるかもしれないということでしょうか?」
「はい。可能性は十分にあります。」
巫女の力でルーファス様の呪いが解けるかもしれない。リスティーナは希望を抱いた。
しかし、問題が一つ。
「あの…、ローザ様はルーファス様の呪いを解くのに協力してくれるでしょうか?」
「無理だ。ローザには既にその話は断られた。」
リスティーナの質問にルーファスは無表情で淡々とそう言い切った。
「え…、」
リスティーナは絶句した。
「夫が許してくれないから駄目なのだそうだ。…まあ、本音は俺と関わり合いたくないのだろうな。呪いが移りでもしたらと怯えているのだろう。」
「そんな…!ルーファス様の呪いは他人に移るものではないのに…!それに、ローザ様はルーファス様の婚約者だったのでしょう?元とはいえ、婚約者だった方が呪いで苦しんでいるのに…!」
信じられなかった。例え、政略結婚だったとしてもルーファス様とローザ様は四歳の時から婚約したと聞いている。つまり、幼い頃から交流があり、二人は婚約者であると同時に幼馴染でもある。
長年時を過ごしたというのに、情はないのだろうか。
ローザ様はルーファス様に対して、罪悪感はないのだろうか。婚約者であるルーファス様を裏切って別の男性を選んで、婚約破棄をしたというのに…。
ルーファス様に少しでも申し訳ないという気持ちがあるのなら、呪いを解くために協力してくれてもいいのに…!
ロジャーは苦しそうに顔を歪め、吐き捨てるように言った。
「…殿下の仰る通り、ローザ様は何かと理由をつけてはこちらの頼みを断っています。昔から、あの方はそうなのです。我儘で自己中心的な性格で…、坊ちゃん…、殿下が呪いにかかる前は毎日のように会いに来ては、親しくしていたというのに、呪いがかかった途端、あからさまに殿下を避けるようになって…。
おまけに殿下が寝込んでいるというのに、見舞いにも来ずに他の男と浮気をする始末…!」
「爺。…もう、終わったことだ。」
ルーファスは怒りに震えるロジャーにそれ以上は言うなと制止した。ロジャーは口を噤んだが、悔しそうに尚も言った。
「どうして、よりによってローザ様が巫女なんかに…、あれが巫女の子孫だとは嘆かわしい。」
「爺。」
ルーファスは爺を睨んで、先程よりも強く名を呼んだ。
「ロジャーさん、そのローザ様っていう殿下の元婚約者の事、すごい嫌ってますもんね。僕は会ったことないですけど、リリアナもロイドもローザ様は底意地の悪い女だって言ってましたし。」
どうやら、ローザ様はルーファス様の使用人達から嫌われていたらしい。
意地の悪い人…。リスティーナの知る意地悪な女性とは王妃やレノア王女のような人達のことだ。ローザ様もそうなのだろうか?
「ローザ様は…、意地悪な方だったの?」
リスティーナの質問にルカは頷いた。
「リリアナから聞いた話だと、ローザ様って見た目は可愛らしいけど、顔がいい男や地位の高い男には態度を変えたりして、あざといタイプの女だって言ってましたよ。婚約者がいる男にも平気で近づくし、殿下の婚約者という立場を利用して、同情を引いたりしてたみたいですし。」
「そ、そうなの…。」
ローザ様はお世辞にも性格がいい令嬢ではなかったようだ。巫女は神に愛され、祝福された存在なのに…。巫女だからといって、善良な性格とは限らないのね…。何というか、残念でならない。
「ルカ。口を慎め。今のローザはパレフィエ国の王太子の妃だ。」
「す、すみません!気を付けます!」
ルーファスの忠告にルカは顔が真っ青になった。
パレフィエ国…!?ローザ様が?
リスティーナは思わずルーファスに訊ねた。
「ローザ様はパレフィエ国の王太子と結婚したのですか!?」
「そうだ。」
まさか、ローザ様の相手が大国のパレフィエ国の王太子だったなんて‥‥。
パレフィエ国の王太子ということは…、アーリヤ様のお兄様?
つまり、アーリヤ様とローザ様は義理の姉妹という事?
「ローザ様はパレフィエ国の王太子妃なのですか?」
「いや。王太子妃ではない。ローザは王太子の妃の一人に過ぎない。
パレフィエ国の王太子は妃は大勢いるが王太子妃の座は空白のままだ。」
「え、そうなのですか?大勢ってどれくらい…?」
そういえば、イグアス殿下も側室がいるが正妃を決めていないと聞いたことがある。パレフィエ国の王太子もそれと同じなのだろうか?
確かイグアス殿下は十人以上の側室がいるらしいけど…、
「あの国の王太子はローザを含めて五十人の妃がいるらしい。」
「ごっ…!?」
五十人!?リスティーナは絶句した。
そんなに!?イグアス殿下よりも断然多い。
そういえば、パレフィエ国にはハーレムがあるのだった。メイネシア国にパレフィエ国の王太子が来た時、エルザがパレフィエ国の王太子は女好きだから姫様は近づいちゃ駄目ですよと言っていた。
結局、レノアの妨害でリスティーナは夜会に出られなかったし、王宮にも行けなかったから、ずっと離宮に籠ってて、拝見する事すらできなかったけど。
「あの…、パレフィエ国の王太子殿下はローザ様を王太子妃に選ばなかったのですか?」
リスティーナは疑問に思った。
ローザ様は真実の愛に出会ったからという理由で、ルーファス様の婚約を破棄したと聞いている。
真実の愛と言い切る位だから、相手も同じ気持ちなのかと思っていた。
だから、当然、ローザ様を正妃に迎えそうなものなのに…。
愛人の子とはいえ、この国の公爵令嬢で巫女の末裔ならば王太子妃に選ばれてもおかしくはない。
身分や血筋からすれば、十分にその資格はあるのにどうしてローザ様は王太子妃に選ばれなかったのだろう。
「俺もローザが王太子妃に選ばれると思っていた。あの男は昔から、巫女を妻にすることに執着していたからな。俺からローザを寝取ったのもローザが巫女の血を引く女だったからだろう。」
「え、そうなのですか?でも、ローザ様は…、」
ローザ様は真実の愛だと言っていたのに相手の王太子は違うのだろうか?
もしかして、ローザ様が巫女だったから妻にしただけ?相手の王太子様はローザ様を本気で愛していた訳ではない?
「他人の婚約者を寝取る位だ。それなりの愛情と覚悟がないとできないだろう。実際、あの男はローザの事が気に入ったと言っていたからな。…まあ、どちらかというと、ローザの方が熱を上げている様子だったが。だが、あの男は未だに王太子妃を選ばない。一体、何を考えているのだか…。」
ルーファスははあ、と呆れたように溜息を吐いた。
「ざまあないですね。殿下と婚約破棄してまで一緒になったのに旦那は自分以外にも女がいて、正妃にもなれないだなんて。殿下を裏切ったから、罰が当たったんじゃないですか?」
ルカはそう言って、おかしそうに笑った。
「…まあ、ラシード殿下は生粋の女好きとして有名ですから。一人の女に縛られるようなタイプではないのでしょう。」
ロジャーも溜息を吐きつつ、そう口にした。
「いくらパレフィエ国の王太子だからといって、そのような横暴が許されるのですか?
同盟国とはいえ、パレフィエ国よりもローゼンハイムの方が格上ですのに‥‥、」
普通なら、国際問題になるし、下手すれば戦争の火種になる可能性もある。
王族の婚約者と不貞を犯したのだから、当然だ。
それなのに、どうして皇帝は二人の結婚を認めたのだろうか。理解できない。
「それは‥、」
ロジャーとルカが言いにくそうに口ごもった。
「パレフィエ国の王太子は火の大精霊の加護を受けた勇者の一人だ。だから、ローザとの婚姻も認められた。」
「え、そうなのですか?」
パレフィエ国の王太子が炎の勇者?
そういえば、母国にパレフィエ国の王太子が来られて、帰国した後、レノア王女がそんなことを話してたような‥。
聞いてもないのに、パレフィエ国の王太子とダンスをしただの、美しいと褒められただの、自慢話をたくさん聞かされた。
その後にそういえば、あなたはいなかったのだっけ?
とわざとらしく言い、取り巻きの貴族令嬢達と笑っていた。
その時に、パレフィエ国の王太子は炎の勇者であるということを言っていたような‥。
古代ルーミティナ国が滅びた原因は巫女を国外追放してしまったからだったなんて…。
巫女の力がどれだけ偉大で重要な物だったかがよく分かる。
「これが古代ルーミティナ国の歴史だ。」
「そんな歴史があったなんて知りませんでした。追放された巫女様は…、どうなってしまったのでしょうか?」
「国は滅びたが巫女は追放後、人知れずひっそりと生き延びたといわれている。」
「え…。巫女様は生きていたんですか?」
「ああ。例の魔術師一族と巫女の一族が迎えに上がり、巫女は無事に保護された。その後、巫女は遠い異国の地に住まいを移し、平民として暮らしたそうだ。」
「そうだったんですか。」
良かった。巫女様は助かったんだ。
その後、幸せに暮らせたのだろうか?そうだったらいいな。何も悪くないのに罰せられ、不幸な目に遭うだなんてあまりにも悲しすぎる。
「じゃあ、巫女の子孫は今でも存在しているんですか?」
「昔は巫女の末裔もそれなりにいたらしいが、今はもうほとんどいない。…リスティーナ。君は巫女狩りという言葉を聞いたことがあるか?」
「巫女狩り?」
聞いたことない。リスティーナは首を横に振った。
巫女狩りとは何だろう?
「巫女には特別な力がある。その為、一部の国や地域では、巫女の身体の一部を持っていれば、幸福になるという迷信が広まった。その迷信が原因で巫女の子孫は無惨に殺され、身体売買の為に狩られるようになった。それが巫女狩りだ。」
「…!」
リスティーナは息を呑んだ。
何て、残酷な…。
そんな根拠のない迷信を信じて、人を殺すだなんて‥。狂っている。
「では…、巫女の子孫はその巫女狩りで全滅してしまったんですか?」
「いや。全滅はしていない。巫女の生き残りは少ないが存在する。」
「そうなのですか?よくご存じですね。」
「巫女の一族の末裔が俺の婚約者だったからな。俺の元婚約者、ローザの話は覚えているか?彼女が巫女の末裔なんだ。」
「ええ!?」
まさか、本当に巫女の末裔がいたなんて…。
しかも、それがルーファス様の元婚約者、ローザ様だったなんて‥‥、
ルーファス様の婚約者であったにも関わらず、好きな人ができたという理由で婚約破棄をしたというこの国の公爵令嬢。
まさか、ローザ様が巫女の末裔だったなんて…。
「ローザ様は巫女の末裔だったんですか?ということは、ローザ様の生家の公爵家は巫女の子孫なのでしょうか?」
「ローザは公爵家の娘だが、正妻の子ではなく、愛人の子だった。公爵家は巫女の末裔とは何の関係もない。公爵の愛人だったというローザの母親が巫女の子孫だったんだ。」
「そうなんですね…。」
ローザ様も私と同じ正妻の子ではなく、愛人の子供だったんだ。
「巫女が持つ神聖力は実際にこの目で見たことはないのではっきりとは分かりませんが…、書物によれば、巫女の力には呪いを解く力もあったと書き記されています。」
「そうなんですか!?」
ロジャーの言葉にリスティーナは強く反応した。
巫女の力なら、ルーファス様の呪いは解けるかもしれないということだろうか。
「ペネロペ女王は、死ぬまで目が覚めない呪いをかけられた青年の呪縛を解いたという逸話が残されています。巫女の力は諸説ありますが、そうした過去の実例を見る限り、可能性はあるかと。巫女の力を持ってすれば、殿下の呪いも解けるかもしれません。」
「本当ですか!?じゃあ、ローザ様だったら、ルーファス様の呪いを解けるかもしれないということでしょうか?」
「はい。可能性は十分にあります。」
巫女の力でルーファス様の呪いが解けるかもしれない。リスティーナは希望を抱いた。
しかし、問題が一つ。
「あの…、ローザ様はルーファス様の呪いを解くのに協力してくれるでしょうか?」
「無理だ。ローザには既にその話は断られた。」
リスティーナの質問にルーファスは無表情で淡々とそう言い切った。
「え…、」
リスティーナは絶句した。
「夫が許してくれないから駄目なのだそうだ。…まあ、本音は俺と関わり合いたくないのだろうな。呪いが移りでもしたらと怯えているのだろう。」
「そんな…!ルーファス様の呪いは他人に移るものではないのに…!それに、ローザ様はルーファス様の婚約者だったのでしょう?元とはいえ、婚約者だった方が呪いで苦しんでいるのに…!」
信じられなかった。例え、政略結婚だったとしてもルーファス様とローザ様は四歳の時から婚約したと聞いている。つまり、幼い頃から交流があり、二人は婚約者であると同時に幼馴染でもある。
長年時を過ごしたというのに、情はないのだろうか。
ローザ様はルーファス様に対して、罪悪感はないのだろうか。婚約者であるルーファス様を裏切って別の男性を選んで、婚約破棄をしたというのに…。
ルーファス様に少しでも申し訳ないという気持ちがあるのなら、呪いを解くために協力してくれてもいいのに…!
ロジャーは苦しそうに顔を歪め、吐き捨てるように言った。
「…殿下の仰る通り、ローザ様は何かと理由をつけてはこちらの頼みを断っています。昔から、あの方はそうなのです。我儘で自己中心的な性格で…、坊ちゃん…、殿下が呪いにかかる前は毎日のように会いに来ては、親しくしていたというのに、呪いがかかった途端、あからさまに殿下を避けるようになって…。
おまけに殿下が寝込んでいるというのに、見舞いにも来ずに他の男と浮気をする始末…!」
「爺。…もう、終わったことだ。」
ルーファスは怒りに震えるロジャーにそれ以上は言うなと制止した。ロジャーは口を噤んだが、悔しそうに尚も言った。
「どうして、よりによってローザ様が巫女なんかに…、あれが巫女の子孫だとは嘆かわしい。」
「爺。」
ルーファスは爺を睨んで、先程よりも強く名を呼んだ。
「ロジャーさん、そのローザ様っていう殿下の元婚約者の事、すごい嫌ってますもんね。僕は会ったことないですけど、リリアナもロイドもローザ様は底意地の悪い女だって言ってましたし。」
どうやら、ローザ様はルーファス様の使用人達から嫌われていたらしい。
意地の悪い人…。リスティーナの知る意地悪な女性とは王妃やレノア王女のような人達のことだ。ローザ様もそうなのだろうか?
「ローザ様は…、意地悪な方だったの?」
リスティーナの質問にルカは頷いた。
「リリアナから聞いた話だと、ローザ様って見た目は可愛らしいけど、顔がいい男や地位の高い男には態度を変えたりして、あざといタイプの女だって言ってましたよ。婚約者がいる男にも平気で近づくし、殿下の婚約者という立場を利用して、同情を引いたりしてたみたいですし。」
「そ、そうなの…。」
ローザ様はお世辞にも性格がいい令嬢ではなかったようだ。巫女は神に愛され、祝福された存在なのに…。巫女だからといって、善良な性格とは限らないのね…。何というか、残念でならない。
「ルカ。口を慎め。今のローザはパレフィエ国の王太子の妃だ。」
「す、すみません!気を付けます!」
ルーファスの忠告にルカは顔が真っ青になった。
パレフィエ国…!?ローザ様が?
リスティーナは思わずルーファスに訊ねた。
「ローザ様はパレフィエ国の王太子と結婚したのですか!?」
「そうだ。」
まさか、ローザ様の相手が大国のパレフィエ国の王太子だったなんて‥‥。
パレフィエ国の王太子ということは…、アーリヤ様のお兄様?
つまり、アーリヤ様とローザ様は義理の姉妹という事?
「ローザ様はパレフィエ国の王太子妃なのですか?」
「いや。王太子妃ではない。ローザは王太子の妃の一人に過ぎない。
パレフィエ国の王太子は妃は大勢いるが王太子妃の座は空白のままだ。」
「え、そうなのですか?大勢ってどれくらい…?」
そういえば、イグアス殿下も側室がいるが正妃を決めていないと聞いたことがある。パレフィエ国の王太子もそれと同じなのだろうか?
確かイグアス殿下は十人以上の側室がいるらしいけど…、
「あの国の王太子はローザを含めて五十人の妃がいるらしい。」
「ごっ…!?」
五十人!?リスティーナは絶句した。
そんなに!?イグアス殿下よりも断然多い。
そういえば、パレフィエ国にはハーレムがあるのだった。メイネシア国にパレフィエ国の王太子が来た時、エルザがパレフィエ国の王太子は女好きだから姫様は近づいちゃ駄目ですよと言っていた。
結局、レノアの妨害でリスティーナは夜会に出られなかったし、王宮にも行けなかったから、ずっと離宮に籠ってて、拝見する事すらできなかったけど。
「あの…、パレフィエ国の王太子殿下はローザ様を王太子妃に選ばなかったのですか?」
リスティーナは疑問に思った。
ローザ様は真実の愛に出会ったからという理由で、ルーファス様の婚約を破棄したと聞いている。
真実の愛と言い切る位だから、相手も同じ気持ちなのかと思っていた。
だから、当然、ローザ様を正妃に迎えそうなものなのに…。
愛人の子とはいえ、この国の公爵令嬢で巫女の末裔ならば王太子妃に選ばれてもおかしくはない。
身分や血筋からすれば、十分にその資格はあるのにどうしてローザ様は王太子妃に選ばれなかったのだろう。
「俺もローザが王太子妃に選ばれると思っていた。あの男は昔から、巫女を妻にすることに執着していたからな。俺からローザを寝取ったのもローザが巫女の血を引く女だったからだろう。」
「え、そうなのですか?でも、ローザ様は…、」
ローザ様は真実の愛だと言っていたのに相手の王太子は違うのだろうか?
もしかして、ローザ様が巫女だったから妻にしただけ?相手の王太子様はローザ様を本気で愛していた訳ではない?
「他人の婚約者を寝取る位だ。それなりの愛情と覚悟がないとできないだろう。実際、あの男はローザの事が気に入ったと言っていたからな。…まあ、どちらかというと、ローザの方が熱を上げている様子だったが。だが、あの男は未だに王太子妃を選ばない。一体、何を考えているのだか…。」
ルーファスははあ、と呆れたように溜息を吐いた。
「ざまあないですね。殿下と婚約破棄してまで一緒になったのに旦那は自分以外にも女がいて、正妃にもなれないだなんて。殿下を裏切ったから、罰が当たったんじゃないですか?」
ルカはそう言って、おかしそうに笑った。
「…まあ、ラシード殿下は生粋の女好きとして有名ですから。一人の女に縛られるようなタイプではないのでしょう。」
ロジャーも溜息を吐きつつ、そう口にした。
「いくらパレフィエ国の王太子だからといって、そのような横暴が許されるのですか?
同盟国とはいえ、パレフィエ国よりもローゼンハイムの方が格上ですのに‥‥、」
普通なら、国際問題になるし、下手すれば戦争の火種になる可能性もある。
王族の婚約者と不貞を犯したのだから、当然だ。
それなのに、どうして皇帝は二人の結婚を認めたのだろうか。理解できない。
「それは‥、」
ロジャーとルカが言いにくそうに口ごもった。
「パレフィエ国の王太子は火の大精霊の加護を受けた勇者の一人だ。だから、ローザとの婚姻も認められた。」
「え、そうなのですか?」
パレフィエ国の王太子が炎の勇者?
そういえば、母国にパレフィエ国の王太子が来られて、帰国した後、レノア王女がそんなことを話してたような‥。
聞いてもないのに、パレフィエ国の王太子とダンスをしただの、美しいと褒められただの、自慢話をたくさん聞かされた。
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