冷遇され、虐げられた王女は化け物と呼ばれた王子に恋をする

林檎

文字の大きさ
42 / 222
第二章 相思相愛編

リスティーナの占い

しおりを挟む
「あがりました!」

「もう、あがったのか。凄いな。初めてで大したものだ。」

「私も驚きました。まさか、本当に勝てるとは思わなくて‥‥、」

リスティーナはルーファスに誘われ、盤上遊戯をしていた。ローゼンハイムに昔から親しまれている遊戯らしい。
二つのサイコロを振って、出た目に従って升目にある駒を進めていき、上がりに近づけるというルールだ。簡単でとても分かりやすかった。

「君は勝負事に強いんだな。」

「そういえば、エルザ達にも同じことを言われました。エルザ達ともこうやってよく遊んだのですが、いつも私が勝ってしまって…。」

リスティーナは昔から、遊戯や賭け事に強かった。
毎回リスティーナが勝てたのは多分、エルザ達が手を抜いてくれていたからだろう。そう言ったリスティーナにルーファスは、

「…そうか。君さえ良ければまた別の遊戯も試してみないか?勿論、ルールは俺が教えよう。」

「え、いいのですか?是非、お願いします!」

ルーファスに誘われ、リスティーナは色んな遊戯をした。どれも面白くて、楽しかった。
メイネシアにはなかった遊戯もあり、とても新鮮だ。リスティーナは初めてするから、彼はリスティーナにハンデをつけてくれた。
そのお蔭かリスティーナはどの遊戯にも勝つことができた。きっと、初心者の自分の為に彼が手を抜いてくれているのだろう。リスティーナはそう思った。

「君の勝ちだ。」

「ええ!?またですか?凄い!まぐれってこんなに続くものなんですね!」

「…そうかもしれないな。」

ルーファスはそれだけ言うと、黙り込んだ。何だか顔色が悪かった。深刻そうな表情を浮かべるルーファスにリスティーナはハッとした。
も、もしかして、私がずっと勝ったから気を悪くした!?
そういえば、男の人はプライドが高いから、女の人に負けるとすぐに不機嫌になるんですよってエルザが言っていた。だから、男の人と遊ぶ時はわざと負けた方がいいかもしれませんって助言してくれていたのに…。

ルーファス様は同じ男性でもそんな人ではないと思っていたから私も気兼ねなく遊ぶことができた。
でも…、もしかして、違ってた?私、調子に乗り過ぎていたかもしれない。
知らない内に彼を傷つけていたのかも…。よく考えればこんなに立て続けに私ばかりが勝っていては気を悪くするのも当然だ。
幾ら彼が手を抜いてくれているからといって、限度がある。
普通は空気を読んで彼を勝たせるべきだったのに…!
久々に遊んだせいかつい、夢中になってしまい、そんな事を考える余裕もなかった。
リスティーナは自分が犯した失態に顔が真っ青になった。

「あ、あの…、ルーファス様。ごめんなさい。私…、」

「ん?ああ。悪い。何でもないんだ。少し、考え事をしていただけだから。」

「え、そうなのですか…?」

「ああ。別に君に対して怒っている訳じゃないから謝る必要はない。」

そこには、いつもの穏やかな表情を浮かべたルーファスがいた。リスティーナはホッとした。
そうなんだ。良かった…。

「遊戯ばかりしたから、今度は別の遊びもしてみないか?爺から聞いた話だと、今、貴族の令嬢達の間で占いが流行っているらしい。それが中々、面白いと評判なのだそうだ。」

「へえ。そうなんですか。どんな占いをしているのですか?」

「カード占いだ。君も知っているか?」

「あ、はい!母から教えてもらったことがあります。」

「もし、良かったら何か占ってくれないか?確か、カードが部屋にあった筈だ。」

「え、私なんかが占ってもいいのですか?」

「勿論だ。俺は君の占いに興味があるんだ。君の母親は占い師でもあったという話だし、是非、君に占ってもらいたい。」

「私は母みたいに優秀な占い師ではありませんが…、ルーファス様がお望みでしたら、喜んで。」

リスティーナの返事に頷いたルーファスはここで待っている様に言い、机の引き出しから、カードの束を取り出した。それをリスティーナに手渡した。

「ルーファス様も占いがお好きなんですか?」

「まあそうだな。呪いを解く手がかりになるだろうと占い師にも会う事があったからな。魔除けの物や占いの小道具を置いていく者もいたから、そのまま処分せずに取っておいただけだ。」

意外だ。ルーファス様は占いは信じないタイプなのかと思っていた。
カードを受け取ったリスティーナはルーファスに何を占いますか?と訊ねた。

「では、明日の天気について占ってくれないか?」

「天気…、ですか?そんなものでいいのでしょうか?」

「ああ。」

てっきり、未来の事とかもっと別の事を占って欲しいと言われるかと思ったのでリスティーナは少し拍子抜けした。でも、あまり難しいことを要求されてもそれに答えられるか自身はなかったので助かった。
明日の天気位なら、私でもできそう。リスティーナはカードを切り、並べる。
よし。できた。

「では、カードを引いて貰ってもいいでしょうか?」

ルーファスが引いたカードは星のカードだった。

「明日の天気は…、雨ですね。西の方角から雨が降るとでています。」

「雨…?」

「はい。でも、これはあくまでも占いなので当たるかどうかは分かりませんけど。」

リスティーナはそう言って、苦笑した。

「君がそう言うのなら、きっと明日は雨が降るのだろうな。」

何だか確信を持ったような言い方にリスティーナの方が不安になる。

「え、えーと…、それはどうでしょう。」

どちらかというと、外れる可能性が高い気がする。そもそも、リスティーナは占いに関しては、素人だ。そんな自分が占っても当たるとは思えない。これで、明日は晴天だったら恥ずかしすぎる。
リスティーナがそんな風に考えていると、

「リスティーナ。今日はもう遅いから、この部屋に泊まっていくといい。」

「え、ですが…、」

「どちらにしろ、今夜も君の所に行くつもりだったから、丁度いい。君が俺と寝るのが嫌だというのなら、無理強いはしないが…、」

「い、嫌だなんてそんな…!」

リスティーナが必死に首を横に振ると、ルーファスは安堵したように微笑み、

「じゃあ、決まりだな。リリアナに着替えを用意するように言ってくる。君はここで寛いでいてくれ。」

そう言って、ルーファスは部屋から出て行った。
その姿を見送りながら、リスティーナは胸のドキドキがおさまらなかった。
ルーファス様の部屋にお泊まり…!そう意識するだけで心臓の鼓動が早くなっていく。
リスティーナは好きな人の部屋に泊まれることが嬉しくて、内心はしゃいでいた。



「殿下?お呼びですか?お部屋でお待ち下されば私が参りましたのに…。」

呼び鈴の音がしたので行ってみると、ルーファスが部屋の前にいるのを見たリリアナは慌てて駆け寄った。

「リスティーナは今夜、俺の部屋に泊まることになった。入浴の準備と着替えを頼む。」

「まあ!リスティーナ様が?畏まりました!」

リリアナはルーファスの言葉にパッと顔を輝かせた。

「丁度、良かったですわ!今日はたくさんの薔薇を摘んだのでそれをお湯に浮かべて…、」

「いや。花はいらない。浴槽には花は使うな。それから…、香油や香水も使わないでくれ。」

「は、はあ…?」

ルーファスの命令にリリアナは怪訝そうな顔をした。

「今夜はありのままの彼女の香りを堪能したいんだ。」

リリアナはその言葉に納得した。そして、微笑ましい目でルーファスを見つめた。
殿下ったら、本当にリスティーナ様がお好きなのね。ほっこりとした気持ちで承知しましたと言い、急いで準備に取り掛かった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

辺境伯と幼妻の秘め事

睡眠不足
恋愛
 父に虐げられていた23歳下のジュリアを守るため、形だけ娶った辺境伯のニコラス。それから5年近くが経過し、ジュリアは美しい女性に成長した。そんなある日、ニコラスはジュリアから本当の妻にしてほしいと迫られる。  途中まで書いていた話のストックが無くなったので、本来書きたかったヒロインが成長した後の話であるこちらを上げさせてもらいます。 *元の話を読まなくても全く問題ありません。 *15歳で成人となる世界です。 *異世界な上にヒーローは人外の血を引いています。 *なかなか本番にいきません

虐げられた出戻り姫は、こじらせ騎士の執愛に甘く捕らわれる

無憂
恋愛
旧題:水面に映る月影は――出戻り姫と銀の騎士 和平のために、隣国の大公に嫁いでいた末姫が、未亡人になって帰国した。わずか十二歳の妹を四十も年上の大公に嫁がせ、国のために犠牲を強いたことに自責の念を抱く王太子は、今度こそ幸福な結婚をと、信頼する側近の騎士に降嫁させようと考える。だが、騎士にはすでに生涯を誓った相手がいた。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

借金まみれで高級娼館で働くことになった子爵令嬢、密かに好きだった幼馴染に買われる

しおの
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した主人公。しかしゲームにはほぼ登場しないモブだった。 いつの間にか父がこさえた借金を返すため、高級娼館で働くことに…… しかしそこに現れたのは幼馴染で……?

処理中です...