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第二章 相思相愛編
アーリヤの兄
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「あら、来たわね。」
アーリヤはふと、顔を上げて、呟いた。
すると、部屋の隅の方に赤い魔法陣が現れる。赤い炎が上がり、中から一人の男が現れた。
深紅色の髪にハシバミ色の瞳。そして、褐色の肌に異国風の雰囲気を漂わせる美丈夫な男…。
逞しい体つきをした男は王都育ちの貴族達とは違い、野性的な魅力に溢れている。
刺激を求める貴婦人達には堪らないだろう。
アーリヤと同じ髪と目の色を持つ男はどこか彼女と似通っている。
転移魔術で突然、現れた男を前にしても、アーリヤは悠然と構えていた。
「久しぶりね。お兄様。」
男は口角を吊り上げ、笑った。
「よお。アーリヤ。」
アーリヤの部屋に突然現れた男の名は、パレフィエ国の王太子、ラシード・ド・パレフィエ。
不敵な笑みを浮かべた彼は、アーリヤの実の兄だった。
「警備が厳重なこの後宮にすんなり侵入できるのはお兄様位よ。ここには、結構な強い結界魔法が敷かれているんだけど?」
後宮は内部から出るのは簡単だが外部から侵入するのは難しい。
「こんな子供騙しみたいな結界魔法なんざ、俺の手にかかれば侵入する位、訳もない。」
そう言って、ラシードは長椅子に座った。
「相変わらず、お兄様は自信家ね。」
「そういうお前は元気そうだな。てっきり、泣き暮らしていると思ってたんだが…。」
「あら、私がそんな女々しい女に見えるのかしら?心外だわ。」
「冗談だ。仮にも俺の妹がそこら辺の柔な女と一緒な訳がないからな。」
ラシードはそう言って、笑い、
「それで?お前のお気に入りの女はいつ会わせてくれるんだ?」
「そうしたいのは山々なんだけど…、ちょっと面倒な事になってしまったのよ。」
「面倒?お前がそんな事を言うだなんて珍しいな。リスティーナ王女だったか?その女は落としやすいって話じゃなかったのか?」
「彼女は問題ないわ。問題はルーファスよ。あいつ、どうも、その子にご執心らしくてね…。
きつく忠告されたのよ。思わず鳥肌が立ってしまったわ。そのせいで、無闇にリスティーナに近付けなくなったのよ。まあ、ルーファスが死ぬまで待てばいいだけの話だけど。」
「ふうん。なら、俺が協力してやろうか?」
「お兄様が?大丈夫なの?彼女に近付いたら、ルーファスが黙ってないわよ。お兄様だって言っていたじゃない。あの男には気を付けろって。」
「それはお前だったらの話しだ。俺なら、問題ない。あいつの呪いの力は確かに強力だが、手の内は読めている。俺の魔力を使えばあいつの呪いなど簡単に跳ね返せるさ。」
「でも、そう上手くいくかしら?あの子、かなり奥手よ。それに、彼女はルーファス王子に惚れているわ。」
「問題ないさ。そういう女に限ってあっさりと男を捨てて、別の男に乗り換えるんだよ。女ってのは、本能的に強い雄を求める生き物なんだ。俺の周りの女を見てみろ。そういう女ばかりだろ。」
自信に満ちた笑みを浮かべるラシードにアーリヤは確かに、と頷いた。
「確かにそうだけど…。でも、あの子は何か他の子と違う気がするのよねえ。」
「それはそれでいいじゃねえか。落とす楽しみが増える。」
「お兄様が本気を出せば落とせるかもね。あの子、初心そうだし。それに、ルーファスしか男を知らないみたいだから百戦錬磨のお兄様が少し相手をすればすぐにメロメロになるかも。」
「いいのか?俺が先に手を出しても。」
「フフッ…、お兄様になら譲ってあげるわ。でも、ちゃんと私も混ぜてね。あの子の蕩ける顔わたしも見たいもの。」
アーリヤはそう言って、うっとりと笑った。
「へえ。よっぽどお気に召したみたいだな。俺も興味が沸いたぞ。正直、あのレノア王女の妹だって聞いたからあんまり気乗りはしなかっただがな。」
「あんな派手好きで男漁りをするような女とは違うわよ。何て言うか…、虐め甲斐があるっていうか、泣かせたいって思わせる子よ。それに、ただの弱々しい女かと思えば結構、いい目をするのよ。
あの子を快楽に堕としたらどんな声で啼いてくれるのかと想像するだけでゾクゾクしちゃう。」
「ふうん。」
アーリヤがここまで言うだなんて珍しい。ラシードはそんなアーリヤを見ながら、出されたお茶を飲んだ。
「そこまで気に入ってんのに俺の妻にしてもいいのかよ。お前のお気に入りの女なんだろう?」
アーリヤの手紙ではお気に入りの女ができたこと、その女がルーファスの新しい側室でメイネシアの王女であること、その側室を国に連れ帰りたいので入国許可が欲しいと書かれていた。更には、例の側室をラシードの妻の一人に迎えてやってくれと。
アーリヤの言動を見ると、かなりその女を気に入っている様だが、そんなお気に入りの女を兄である自分に譲るような真似をする妹の考えが理解できなかった。
「構わないわ。さすがに他国の王女をずっとパレフィエ国に住まわしていたら、色々と口煩い人がいるからね。お兄様の妻にしておけば、誰も口出ししないでしょう。
あ、でも、お兄様のハーレムには入れないでね。あんな肉食動物の群れに放り込んだら、どんな目に遭わされるか分からないし。」
「おいおい。仮にも義理の姉達に対して、酷い言い草だな。まあ、否定はしないけどな。それより、俺のハーレムに入れないっていうならその女はどこに住まわせる気だ?」
「決まっているじゃない。私の屋敷で面倒を見るわ。あの子には形だけの結婚だと誤魔化しておけばいいし、名目上はお兄様の妻ということにして、私は彼女との甘い時間を堪能するわ。」
アーリヤは頬を紅潮させ、興奮した表情でそう言った。
きっと、その頭の中にはリスティーナとの官能的な快楽が繰り広げられている事だろう。
こいつの性癖にも困ったもんだな。自分の女好きは棚に上げて、ラシードはそう思った。
ラシード程ではないが、アーリヤもかなりの好きものだ。
しかも、ラシードと違って、アーリヤは両刀使い。つまり、男も女もいけるという両性愛者なのだ。
ちなみに、ラシードは生粋の女好きなので男は論外だ。
色事が好きなのは兄妹揃って同じだが、性癖の違いが明確に別れていた。
「珍しいな。お前がそこまで執着するだなんて。」
欲しい物は全て手に入れるを有言実行する妹だが、その反面、飽きっぽい性格でもある。
例の側室もすぐに飽きるのではないか?とも思ったが、今までアーリヤはこんなに用意周到に手を打ったことはない。今までとは違い、かなりその女に執着しているみたいだ。
一度、ラシードの妻になってしまえば、特例と余程の問題を起こさない限りは離縁はできない。
形ばかりの婚姻だったとしても、一度、婚姻してしまえばパレフィエ国の人間となる。
そこまでしてまで、例の側室を繋ぎとめようとするなんてな…。ラシードは益々、興味を引かれた。
まあ、ラシードが今、一番興味があるのはあの北の森で会った金髪の女だが、その女が見つかるまで暇つぶしとして相手をしてやるのも悪くない。
「そうだわ。最初はお兄様の部屋に彼女を住まわせてもいい?リスティーナの部屋を用意する間だけでいいから。」
「おいおい。王宮なら、他にも部屋があるだろうが。何で俺の部屋を指名するんだ?…さては、何か企んでいるな?」
「何の事かしら?」
とぼけるアーリヤにラシードは苦笑した。
「ローザへの意趣返しか?」
「あら、バレちゃったの?さすが、お兄様。よく分かったわね。」
「お前とローザが犬猿の仲なのは知っているからな。で?俺に何をさせるつもりだ?」
「そうねえ…。じゃ、ローザの前でリスティーナを思いっきり可愛がってあげて頂戴。ウフフ…。ローザの悔しがる顔が目に浮かぶわあ。」
「お前って、本当にローザが嫌いなんだな。けど、あいつって見かけによらず、嫉妬深いぞ。そのリスティーナって女に何するか分からないぞ。」
「その時は、私が颯爽と助けるから大丈夫。きっと、怯えるリスティーナも最高に可愛いのでしょうね…。」
アーリヤはうっとりと目を細めた。
「やれやれ…。お前に目を付けられたその側室には同情するぞ。」
「まあ、酷い。」
そう言いながらもアーリヤは笑っていた。
「そういえば、聞いたわよ。お兄様ったら、また新しい側室を迎えたんですって?」
「ああ。まあな。」
「お兄様ったら、相変わらずね。その女癖何とかならないの?」
「おいおい。今回の話は向こうが半ば強引に持ってきただけだぜ?」
「あら、じゃあ、その側室はお気に召さなかったの?」
「いや。そうでもない。今度の女も中々の巨乳だったからな。色々と楽しめた。」
「何だ。ちゃっかりやることはやっているのね。」
「仕方ねえだろう。ずっとお慕いしてました、って言われて抱いて下さいって懇願されたんだぜ?女にあそこまで言わせて、手を出さないなんてあまりにも可哀想だろうが。男なら、そんな決死の覚悟で告白した女の思いを受け止めるべきだろうが。」
「よく言うわ。単にお兄様が欲望に忠実なだけでしょう。」
アーリヤは呆れたように言い、
「で、その新しい側室とローザが衝突したそうじゃない。すごい修羅場だったって聞いているわよ。大丈夫なの?」
「ああ。大丈夫。大丈夫。あの二人にはドレスと宝石を買って、適当に甘い言葉を吐いておけば機嫌直るし、相手をすれば一旦は大人しくなるからさ。それに、元凶の俺がいなくなればその内、ほとぼりも冷めるだろう。俺が帰る頃には落ち着いているだろうさ。」
「つまり、相手するのが面倒くさくて逃げてきたのね。」
今頃、兄のハーレムは荒れているだろうな。
兄がいないから、可愛い子ぶる必要もなくなった女達は熾烈な争いを繰り広げている事だろう。
ま、私には関係ないけど。アーリヤはそんな事を考えながら、優雅にお茶を啜った。
「おいおい。そんな言い方はないだろう。俺は可愛い妹の様子を見にわざわざローゼンハイムまで来てやったんだぜ?」
「はいはい。そういう事にしておいてあげるわ。」
「そうだ。アーリヤ。実はお前に頼みがあるんだ。」
「頼み?私に?」
「金髪にエメラルドグリーンの目をした女を探しているんだ。貴族の中にそういった特徴を持った女はいるか?」
「金髪に緑の目なんて貴族の中にはごまんといるわよ。…そういえば、リスティーナも金髪に緑色の目をした容姿だわね。」
「へえ。そうなのか。でも、多分、違うな。その女、後宮の女だろ?」
「そうだけど…。何でそんな女をわざわざお兄様が?」
アーリヤの言葉にラシードはニッと笑った。そして、懐から何かを取り出した。
「アーリヤ。これを見てみろ。」
「ん?何?これは?」
それは紫色の肩掛けだった。普通の花柄のどこにでもある布切れだ。別に珍しくもない。
「よく見ろ。集中して、じっと見るんだ。」
アーリヤは訝しがりながらも、言われた通りじっと布切れを見つめた。すると、段々と何か黄色いものがぼんやりと見えてくる。ずっと見続けていると、太陽の形をした刺繍が浮かび上がった。
「…!え?この模様…!」
「気が付いたか?」
「待って!どういうこと?さっきまでは花柄しかなかったのにどうして、太陽の刺繍が…、!?」
アーリヤはハッとした。この肩掛け…、誤認識魔法がかかっている。魔力が高い者でないと見破ることができない。それ程に強い魔法だった。
「しかも、この刺繍は…、ローザが持っていた物と同じ…!」
この太陽の刺繍は古代ルーミティア国の紋章と全く同じ…。
巫女の継承者であるローザが持っていた太陽のペンダントと酷似している。
「ど、どういう事?巫女の子孫はローザだけじゃなかったの?生き残りが他にもいたというの?」
「そういう事だろうな。そこで、だ。アーリヤ。そいつが仮に巫女の末裔だった場合…、俺達が取るべき道が何なのか分かるな?」
兄の真意をすぐに察したアーリヤは、
「その女を手に入れるのね。」
「その通り。もしかしたら、その女、ローザより強い神聖力を持っているかもしれない。」
「巫女であるローザよりも?」
「あくまでも憶測だ。これを持っているということは、そいつは巫女の直系の末裔かもしれない。
何せ、歴代巫女だけに受け継がれる紋章を持っているんだからな。」
「巫女の直系はローザじゃなかったの?それに、何でローザではなく、その女がこれを持っているの?巫女だけにしか受け継がれないというのなら、本来はローザが持っている筈なのに…。」
「さあな。他に生き残りがいたか、分家の人間が代わりに受け継いだのか…。あるいは、一族の継承を途絶える事がないようにわざと分散させたのか…。そこん所は謎だらけだ。
まあ、会えばおのずと分かるだろう。駄目でも巫女の末裔なら何かしら使えるかもな。ローザの補佐役としても使えそうだ。」
「でも、巫女の一族だからって神聖力が使えるとは限らないんでしょう?ローザは桃色の瞳をしているけど、その女は違うんでしょ?」
「その時はその時だ。会ったのは一度だけだが、中々いい女だったからな。抱き心地も悪くなさそうだ。反応も初心で揶揄い甲斐がありそうだしな。それに、ローザ以外の巫女の末裔だなんて滅多にお目にかかれるもんじゃない。」
「お兄様ったら、本当に強欲ね。でも、そんな野心家なお兄様、嫌いじゃないわ。」
アーリヤの言葉にラシードは不敵な笑みを浮かべた。
「そういう事なら、私も協力するわ。リストはこちらで作っておくから。」
「ああ。頼んだぞ。」
ラシードの言葉にアーリヤは微笑んだ。
アーリヤはふと、顔を上げて、呟いた。
すると、部屋の隅の方に赤い魔法陣が現れる。赤い炎が上がり、中から一人の男が現れた。
深紅色の髪にハシバミ色の瞳。そして、褐色の肌に異国風の雰囲気を漂わせる美丈夫な男…。
逞しい体つきをした男は王都育ちの貴族達とは違い、野性的な魅力に溢れている。
刺激を求める貴婦人達には堪らないだろう。
アーリヤと同じ髪と目の色を持つ男はどこか彼女と似通っている。
転移魔術で突然、現れた男を前にしても、アーリヤは悠然と構えていた。
「久しぶりね。お兄様。」
男は口角を吊り上げ、笑った。
「よお。アーリヤ。」
アーリヤの部屋に突然現れた男の名は、パレフィエ国の王太子、ラシード・ド・パレフィエ。
不敵な笑みを浮かべた彼は、アーリヤの実の兄だった。
「警備が厳重なこの後宮にすんなり侵入できるのはお兄様位よ。ここには、結構な強い結界魔法が敷かれているんだけど?」
後宮は内部から出るのは簡単だが外部から侵入するのは難しい。
「こんな子供騙しみたいな結界魔法なんざ、俺の手にかかれば侵入する位、訳もない。」
そう言って、ラシードは長椅子に座った。
「相変わらず、お兄様は自信家ね。」
「そういうお前は元気そうだな。てっきり、泣き暮らしていると思ってたんだが…。」
「あら、私がそんな女々しい女に見えるのかしら?心外だわ。」
「冗談だ。仮にも俺の妹がそこら辺の柔な女と一緒な訳がないからな。」
ラシードはそう言って、笑い、
「それで?お前のお気に入りの女はいつ会わせてくれるんだ?」
「そうしたいのは山々なんだけど…、ちょっと面倒な事になってしまったのよ。」
「面倒?お前がそんな事を言うだなんて珍しいな。リスティーナ王女だったか?その女は落としやすいって話じゃなかったのか?」
「彼女は問題ないわ。問題はルーファスよ。あいつ、どうも、その子にご執心らしくてね…。
きつく忠告されたのよ。思わず鳥肌が立ってしまったわ。そのせいで、無闇にリスティーナに近付けなくなったのよ。まあ、ルーファスが死ぬまで待てばいいだけの話だけど。」
「ふうん。なら、俺が協力してやろうか?」
「お兄様が?大丈夫なの?彼女に近付いたら、ルーファスが黙ってないわよ。お兄様だって言っていたじゃない。あの男には気を付けろって。」
「それはお前だったらの話しだ。俺なら、問題ない。あいつの呪いの力は確かに強力だが、手の内は読めている。俺の魔力を使えばあいつの呪いなど簡単に跳ね返せるさ。」
「でも、そう上手くいくかしら?あの子、かなり奥手よ。それに、彼女はルーファス王子に惚れているわ。」
「問題ないさ。そういう女に限ってあっさりと男を捨てて、別の男に乗り換えるんだよ。女ってのは、本能的に強い雄を求める生き物なんだ。俺の周りの女を見てみろ。そういう女ばかりだろ。」
自信に満ちた笑みを浮かべるラシードにアーリヤは確かに、と頷いた。
「確かにそうだけど…。でも、あの子は何か他の子と違う気がするのよねえ。」
「それはそれでいいじゃねえか。落とす楽しみが増える。」
「お兄様が本気を出せば落とせるかもね。あの子、初心そうだし。それに、ルーファスしか男を知らないみたいだから百戦錬磨のお兄様が少し相手をすればすぐにメロメロになるかも。」
「いいのか?俺が先に手を出しても。」
「フフッ…、お兄様になら譲ってあげるわ。でも、ちゃんと私も混ぜてね。あの子の蕩ける顔わたしも見たいもの。」
アーリヤはそう言って、うっとりと笑った。
「へえ。よっぽどお気に召したみたいだな。俺も興味が沸いたぞ。正直、あのレノア王女の妹だって聞いたからあんまり気乗りはしなかっただがな。」
「あんな派手好きで男漁りをするような女とは違うわよ。何て言うか…、虐め甲斐があるっていうか、泣かせたいって思わせる子よ。それに、ただの弱々しい女かと思えば結構、いい目をするのよ。
あの子を快楽に堕としたらどんな声で啼いてくれるのかと想像するだけでゾクゾクしちゃう。」
「ふうん。」
アーリヤがここまで言うだなんて珍しい。ラシードはそんなアーリヤを見ながら、出されたお茶を飲んだ。
「そこまで気に入ってんのに俺の妻にしてもいいのかよ。お前のお気に入りの女なんだろう?」
アーリヤの手紙ではお気に入りの女ができたこと、その女がルーファスの新しい側室でメイネシアの王女であること、その側室を国に連れ帰りたいので入国許可が欲しいと書かれていた。更には、例の側室をラシードの妻の一人に迎えてやってくれと。
アーリヤの言動を見ると、かなりその女を気に入っている様だが、そんなお気に入りの女を兄である自分に譲るような真似をする妹の考えが理解できなかった。
「構わないわ。さすがに他国の王女をずっとパレフィエ国に住まわしていたら、色々と口煩い人がいるからね。お兄様の妻にしておけば、誰も口出ししないでしょう。
あ、でも、お兄様のハーレムには入れないでね。あんな肉食動物の群れに放り込んだら、どんな目に遭わされるか分からないし。」
「おいおい。仮にも義理の姉達に対して、酷い言い草だな。まあ、否定はしないけどな。それより、俺のハーレムに入れないっていうならその女はどこに住まわせる気だ?」
「決まっているじゃない。私の屋敷で面倒を見るわ。あの子には形だけの結婚だと誤魔化しておけばいいし、名目上はお兄様の妻ということにして、私は彼女との甘い時間を堪能するわ。」
アーリヤは頬を紅潮させ、興奮した表情でそう言った。
きっと、その頭の中にはリスティーナとの官能的な快楽が繰り広げられている事だろう。
こいつの性癖にも困ったもんだな。自分の女好きは棚に上げて、ラシードはそう思った。
ラシード程ではないが、アーリヤもかなりの好きものだ。
しかも、ラシードと違って、アーリヤは両刀使い。つまり、男も女もいけるという両性愛者なのだ。
ちなみに、ラシードは生粋の女好きなので男は論外だ。
色事が好きなのは兄妹揃って同じだが、性癖の違いが明確に別れていた。
「珍しいな。お前がそこまで執着するだなんて。」
欲しい物は全て手に入れるを有言実行する妹だが、その反面、飽きっぽい性格でもある。
例の側室もすぐに飽きるのではないか?とも思ったが、今までアーリヤはこんなに用意周到に手を打ったことはない。今までとは違い、かなりその女に執着しているみたいだ。
一度、ラシードの妻になってしまえば、特例と余程の問題を起こさない限りは離縁はできない。
形ばかりの婚姻だったとしても、一度、婚姻してしまえばパレフィエ国の人間となる。
そこまでしてまで、例の側室を繋ぎとめようとするなんてな…。ラシードは益々、興味を引かれた。
まあ、ラシードが今、一番興味があるのはあの北の森で会った金髪の女だが、その女が見つかるまで暇つぶしとして相手をしてやるのも悪くない。
「そうだわ。最初はお兄様の部屋に彼女を住まわせてもいい?リスティーナの部屋を用意する間だけでいいから。」
「おいおい。王宮なら、他にも部屋があるだろうが。何で俺の部屋を指名するんだ?…さては、何か企んでいるな?」
「何の事かしら?」
とぼけるアーリヤにラシードは苦笑した。
「ローザへの意趣返しか?」
「あら、バレちゃったの?さすが、お兄様。よく分かったわね。」
「お前とローザが犬猿の仲なのは知っているからな。で?俺に何をさせるつもりだ?」
「そうねえ…。じゃ、ローザの前でリスティーナを思いっきり可愛がってあげて頂戴。ウフフ…。ローザの悔しがる顔が目に浮かぶわあ。」
「お前って、本当にローザが嫌いなんだな。けど、あいつって見かけによらず、嫉妬深いぞ。そのリスティーナって女に何するか分からないぞ。」
「その時は、私が颯爽と助けるから大丈夫。きっと、怯えるリスティーナも最高に可愛いのでしょうね…。」
アーリヤはうっとりと目を細めた。
「やれやれ…。お前に目を付けられたその側室には同情するぞ。」
「まあ、酷い。」
そう言いながらもアーリヤは笑っていた。
「そういえば、聞いたわよ。お兄様ったら、また新しい側室を迎えたんですって?」
「ああ。まあな。」
「お兄様ったら、相変わらずね。その女癖何とかならないの?」
「おいおい。今回の話は向こうが半ば強引に持ってきただけだぜ?」
「あら、じゃあ、その側室はお気に召さなかったの?」
「いや。そうでもない。今度の女も中々の巨乳だったからな。色々と楽しめた。」
「何だ。ちゃっかりやることはやっているのね。」
「仕方ねえだろう。ずっとお慕いしてました、って言われて抱いて下さいって懇願されたんだぜ?女にあそこまで言わせて、手を出さないなんてあまりにも可哀想だろうが。男なら、そんな決死の覚悟で告白した女の思いを受け止めるべきだろうが。」
「よく言うわ。単にお兄様が欲望に忠実なだけでしょう。」
アーリヤは呆れたように言い、
「で、その新しい側室とローザが衝突したそうじゃない。すごい修羅場だったって聞いているわよ。大丈夫なの?」
「ああ。大丈夫。大丈夫。あの二人にはドレスと宝石を買って、適当に甘い言葉を吐いておけば機嫌直るし、相手をすれば一旦は大人しくなるからさ。それに、元凶の俺がいなくなればその内、ほとぼりも冷めるだろう。俺が帰る頃には落ち着いているだろうさ。」
「つまり、相手するのが面倒くさくて逃げてきたのね。」
今頃、兄のハーレムは荒れているだろうな。
兄がいないから、可愛い子ぶる必要もなくなった女達は熾烈な争いを繰り広げている事だろう。
ま、私には関係ないけど。アーリヤはそんな事を考えながら、優雅にお茶を啜った。
「おいおい。そんな言い方はないだろう。俺は可愛い妹の様子を見にわざわざローゼンハイムまで来てやったんだぜ?」
「はいはい。そういう事にしておいてあげるわ。」
「そうだ。アーリヤ。実はお前に頼みがあるんだ。」
「頼み?私に?」
「金髪にエメラルドグリーンの目をした女を探しているんだ。貴族の中にそういった特徴を持った女はいるか?」
「金髪に緑の目なんて貴族の中にはごまんといるわよ。…そういえば、リスティーナも金髪に緑色の目をした容姿だわね。」
「へえ。そうなのか。でも、多分、違うな。その女、後宮の女だろ?」
「そうだけど…。何でそんな女をわざわざお兄様が?」
アーリヤの言葉にラシードはニッと笑った。そして、懐から何かを取り出した。
「アーリヤ。これを見てみろ。」
「ん?何?これは?」
それは紫色の肩掛けだった。普通の花柄のどこにでもある布切れだ。別に珍しくもない。
「よく見ろ。集中して、じっと見るんだ。」
アーリヤは訝しがりながらも、言われた通りじっと布切れを見つめた。すると、段々と何か黄色いものがぼんやりと見えてくる。ずっと見続けていると、太陽の形をした刺繍が浮かび上がった。
「…!え?この模様…!」
「気が付いたか?」
「待って!どういうこと?さっきまでは花柄しかなかったのにどうして、太陽の刺繍が…、!?」
アーリヤはハッとした。この肩掛け…、誤認識魔法がかかっている。魔力が高い者でないと見破ることができない。それ程に強い魔法だった。
「しかも、この刺繍は…、ローザが持っていた物と同じ…!」
この太陽の刺繍は古代ルーミティア国の紋章と全く同じ…。
巫女の継承者であるローザが持っていた太陽のペンダントと酷似している。
「ど、どういう事?巫女の子孫はローザだけじゃなかったの?生き残りが他にもいたというの?」
「そういう事だろうな。そこで、だ。アーリヤ。そいつが仮に巫女の末裔だった場合…、俺達が取るべき道が何なのか分かるな?」
兄の真意をすぐに察したアーリヤは、
「その女を手に入れるのね。」
「その通り。もしかしたら、その女、ローザより強い神聖力を持っているかもしれない。」
「巫女であるローザよりも?」
「あくまでも憶測だ。これを持っているということは、そいつは巫女の直系の末裔かもしれない。
何せ、歴代巫女だけに受け継がれる紋章を持っているんだからな。」
「巫女の直系はローザじゃなかったの?それに、何でローザではなく、その女がこれを持っているの?巫女だけにしか受け継がれないというのなら、本来はローザが持っている筈なのに…。」
「さあな。他に生き残りがいたか、分家の人間が代わりに受け継いだのか…。あるいは、一族の継承を途絶える事がないようにわざと分散させたのか…。そこん所は謎だらけだ。
まあ、会えばおのずと分かるだろう。駄目でも巫女の末裔なら何かしら使えるかもな。ローザの補佐役としても使えそうだ。」
「でも、巫女の一族だからって神聖力が使えるとは限らないんでしょう?ローザは桃色の瞳をしているけど、その女は違うんでしょ?」
「その時はその時だ。会ったのは一度だけだが、中々いい女だったからな。抱き心地も悪くなさそうだ。反応も初心で揶揄い甲斐がありそうだしな。それに、ローザ以外の巫女の末裔だなんて滅多にお目にかかれるもんじゃない。」
「お兄様ったら、本当に強欲ね。でも、そんな野心家なお兄様、嫌いじゃないわ。」
アーリヤの言葉にラシードは不敵な笑みを浮かべた。
「そういう事なら、私も協力するわ。リストはこちらで作っておくから。」
「ああ。頼んだぞ。」
ラシードの言葉にアーリヤは微笑んだ。
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巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
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