冷遇され、虐げられた王女は化け物と呼ばれた王子に恋をする

林檎

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第四章 覚醒編

ルーファスの剣術

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―ルーファス様は部屋にいるかな?

そう思って、部屋に向かうが、廊下の窓から庭を見下ろすと、そこにはロイドとルカ、ルーファスがいた。
ルーファス様。庭にいたのね。何をしているのだろう?
リスティーナは窓からルーファス達を見下ろした。
ロイドとルカが剣の手合わせをしているようだ。
二人から少し離れた所でルーファスが見学している。
勝負はすぐについた。ロイドが斬りかかると、ルカは防戦一方で反撃に出ることなく、剣を弾き飛ばされてしまった。
ルカは魔術は得意だが、体術や剣術は苦手だと言っていた。
護衛騎士のロイドと運動神経が苦手なルカで力の差があるのは当然かもしれない。

勝負が終わると、ルーファスが二人の元に近付いた。
ロイドに何かを言っている。そして、ルカが落とした木剣を拾うと、ロイドに向かって剣を構えた。
今度はロイドとルーファス様が?
あれ?でも、ルーファス様って、確か呪いにかかってから剣術の授業は受けていないから、剣の腕は素人同然だと言っていたような…。

リスティーナは急ぎ足で庭に向かった。
ルーファスが怪我をし
ないか心配だったからだ。
カン!カン!と剣がぶつかり合う音が聞こえた。
リスティーナが庭に行くと、ロイドとルーファスが剣を打ち込んでいた。

―ルーファス様…!

リスティーナは最初はハラハラした気持ちでルーファスを見つめていたが…、
ルーファスの動きは素人とは思えない程に俊敏で隙の無い動きだった。
速い…!リスティーナは思わずルーファスの剣技に見惚れた。
かっこいい…。リスティーナはルーファスの勇姿に目を奪われた。
リスティーナは剣の才能はないが、アリアがよく裏庭で剣の訓練をしてそれを間近で見ていたから、素人と騎士の剣の腕前の違い位は分かる。
だから、すぐに分かった。あの動きや剣技は素人ではないと…。
ルーファス様があんなにも剣の腕が立つだなんて想像もしなかった。

ルーファスはロイドに斬りかかりながら、どんどん距離を詰めていく。
反撃をする余地も与えない程の素早い攻撃だ。
カンッ!と音を立てて、木剣が宙に浮く。
カラン、と木剣が地面に転がる。ロイドの剣が落ちたのだ。
一瞬の間の後、ロイドが頭を下げた。

「わたしの負けです。殿下。」

「う、嘘でしょ?あの、ロイドに勝った…?で、殿下!あなた、いつの間にそんな剣の腕上げてたんですか!?つい最近まで、剣の素振りどころか、剣を握る事すらできていなかったのに…!」

ルカが驚いたようにルーファスに駆け寄った。
ロイドは木剣を拾うと、

「元々、殿下は剣術の天才と呼ばれた御方だ。剣術を初めて、数回の手合わせで剣術の指導係を負かし、ダグラス殿下にも圧勝したこともある位だからな。」

「ええ!そうだったんですか!?」

「そんな事もあったな。」

ダグラス殿下にも!?
ダグラス殿下は軍に所属しているだけあって、実戦経験があり、剣の腕が強いと国内でも名が知られている。
そんなダグラス殿下にルーファス様は勝ったことがあっただなんて…。知らなかった…。

「リスティーナ様。」

ロイドがリスティーナに気付いた。

「リスティーナ。」

ルーファスは木剣を手にしたまま、リスティーナに近付いた。

「ごめんなさい。ルーファス様。剣の稽古中にお邪魔をしてしまって…、」

「気にするな。軽く運動をしていただけだ。」

剣を振るっていたせいか汗を流したルーファスはいつもと雰囲気が違い、ドキドキする。
何だか、今のルーファス様はいつも以上に色気が漂い、男の魅力に溢れていて、直視できない。
さっきの勇ましい姿を思い出してしまい、頬が熱くなる。
でも、これだけは伝えないと…!

「あ、あの…、ルーファス様。さっきの勝負、見ました。凄く…、かっこ良かったです。」

「え…。そ、そうか…。かっこいい、か…。」

ルーファスはリスティーナの言葉に視線を逸らして、口元を手で覆った。
照れている様子のルーファスにリスティーナはキュン、とした。
男のルーファス様にこんな事を言ったら、失礼かもしれないが可愛い、と思ってしまった。

「でも、あの…、ルーファス様はいつの間にあんなに剣術の腕を上げていたのですか?」

「…いや。俺の剣術はまだまだ半人前だ。ロイドとルカの動きを見て、見様見真似でやってみたら、たまたま勝てただけの話だ。それに、子供の頃に剣術の基礎は教わっていたからな。」

見様見真似であれだけの動きを?
剣術を習得するには何年もかけて鍛錬を続けないといけないと聞く。
幾ら、昔に剣術を習っていたとはいえ、それは呪いがかかる前の話。
少なくとも、十年以上のブランクがある筈だ。
けれど、ルーファスは見ただけであれだけの動きをして、剣技を習得した。
剣術の天才…。ロイドがさっき言っていた言葉が脳裏に蘇る。
ルーファス様がそう呼ばれていたのも納得できる。

「そういえば、リスティーナ。俺に何か用事があるんじゃないのか?」

「あ、そうでした!夕食の準備ができたのでルーファス様を呼びに来たのです。」

「もうできたのか。早いな。」

「汗を掻いているようですし、先にシャワーを浴びますか?」

「いや。大丈夫だ。それに、シャワーを使わなくても…、」

そう言って、ルーファスは胸に手を置くと、無詠唱で洗浄魔法を使い、汗を流すと、最後に乾燥魔法で濡れた身体を乾かした。
目の前の出来事にリスティーナは唖然とした。
今…、詠唱を使わずに魔法を…?

「で、殿下!何ですか!?今の!」

「洗浄魔法と乾燥魔法だが?」

「それは分かります!僕が言ってるのは無詠唱で魔法を発動したことです!」

「そんなに驚くことじゃないだろう。どちらも初歩的な生活魔法で魔力がある人間なら使えるものだ。」

「そうだとしても、普通は無詠唱で魔法は使えませんよ!一体、いつの間にそんな高度な魔法を習得していたんです!?」

「…本で読んだ。」

ルーファスはフイッと視線を逸らして、そう答えた。

「本?え、それだけですか?読んだだけで魔法を習得したってことですか?」

「陰でこっそりと練習していたからな。」

洗浄魔法と乾燥魔法は生活魔法に分類される魔法だ。
基本的に生活魔法は魔力があれば使える魔法だ。
例え、簡単な初級魔法でも詠唱なしに魔法を発動できる人間は稀だ。
熟練した術師でないと無詠唱で魔法は発動できないといわれている。

生活魔法とはいえ、詠唱なしで魔法を使えるなんて…。
さっきから、驚きの連続だ。
そういえば、ルーファス様は呪いにかかる前は魔法の才能に恵まれていたと聞いたことがある。
でも、ほぼ独学であんなにも魔法を使いこなせるなんて…。
エルザは小さい頃から、努力をして魔法の訓練を重ねた結果、あそこまで魔法を巧みに扱えるようになった。
でも、ルーファスはエルザのように長い年月をかけて、魔法の訓練をしていない。
それでも、まるで息をするように魔法を使っていた。
ルーファス様は剣術だけでなく、魔法の天才でもあるのかもしれない。

「ほ、本を読んだけで無詠唱の魔法を使えるようになるもんなんですか?いやいや!だって、無詠唱の魔法って異名持ちの魔術師や勇者クラスの人じゃないと使えないっていわれているのに…。」

ルカは衝撃が強すぎるのか未だに信じられない様子でブツブツと呟いている。

「殿下。わたしからもお聞きしたいことがあるのですが…、」

「何だ。ロイド。」

「あの剣術は…、一体、どこで学んだのでしょうか?あの足捌きと動き、剣技は今まで見たことがない型でした。」

「…そうか?まあ、ただ見様見真似でやっていただけだ。たまたま、そういう風に見えただけだろう。」

「いいえ。あれは、見様見真似でできるものではありません。それに、殿下の剣は昨日今日と握った者の動きではありません。殿下のあの剣捌きは…、戦いを経験した騎士と同じ、」

「ロイド。」

ピリッとした空気を感じた。ルーファスがジッとロイドを見つめた。ロイドは口を噤むと、

「…失礼しました。」

そう言って、一礼すると、それ以上は何も言わなかった。
…?何だろう。ロイドは今、何かを言いかけていたけど…、もしかして、ルーファス様は何かを隠してる?
リスティーナは思わずルーファスを見上げると、

「行こう。リスティーナ。折角だから、君の食事が冷めない内に食べないとな。」

そう言って、その話題には触れずにリスティーナの手を取った。
ルーファスが何も話さないのでリスティーナもそれ以上、追及することはできなかった。
きっと、ルーファス様なりに考えがあるのかもしれない。
そう思い直し、リスティーナはルーファスに微笑んで、頷いた。




夕食の席について、ルーファスはチキンの香草焼きをナイフとフォークで切り分けて、口に運んだ。

「…ッ!これも美味いな。今までのスープや粥も絶品だったがこの肉料理も最高に美味しい。」

「あ、ありがとうございます。」

まさか、そこまで褒めてもらえるなんて…。
頑張って作った甲斐があった。
リスティーナは嬉しくて、思わず笑顔になる。懐かしいな…。この感じ。
エルザ達に作った時もこんな感じだったな。特にエルザとアリアはよく食べてくれるからとても作り甲斐があった。

「リスティーナの作る料理は久しぶりだな。…何だか、とても懐かしく感じる。」

「一時期は食事が食べれなくなってしまいましたからね。ルーファス様。今まで十分に食事が食べれなかった分、たくさん食べて下さいね。実は、かなり作り過ぎてしまったんです。」

「いいのか?…正直、これだけでは足りないと思ってた所だったんだ。お代わりをしても?」

「勿論です!」

ルーファスは運動をしてお腹が空いているのか、たくさんお代わりもしてくれた。
食欲旺盛なルーファスを見ていると、リスティーナもほっこりした気持ちになる。
自分の作った料理を美味しいと言って、たくさん食べてくれるのが嬉しい。見ていて、とても気持ちがいい。

「ルーファス様は好きな料理とかはありますか?」

「好きな料理、か…。あんまり考えたことはなかったな。とりあえず、今の段階で好きなのは、カリフラワーのポタージュスープとパンプキンスープ、ミルク粥と胡桃パンだな。後、チキンの香草焼きはたった今、好きになった。」

「え、それって…、」

全部、リスティーナが作った料理だ。

「俺は君が作った料理を食べて、初めて食事が美味しいと思えるようになったんだ。それまでは正直…、何を食べても味がしなかった。食べても、砂を噛んでいるような感覚だった。」

そうだった。ルーファス様は呪いのせいで食事も満足に楽しめなかったんだ。
料理を美味しいと思えないだなんて…。
リスティーナはグッとナイフとフォークを握り締め、

「ルーファス様。それなら、これから、ルーファス様の好きな料理を見つけて行きましょう。私もお手伝いさせて下さい。私、またルーファス様に料理を作りたいです。たくさん作って、ルーファス様にたくさん食べて欲しいです。その中にルーファス様の好物の料理があるかもしれません。だから、その…、また食べて頂けますか?」

「リスティーナ…。ああ。勿論だ。」

リスティーナの言葉にルーファスは目を瞠り、そして、微笑んだ。
その反応にリスティーナはパッと顔を輝かせた。
良かった!次は何を作ろうかな。ルーファス様は肉料理と魚料理どっちが好きなのだろう。
野菜は苦手みたいだから、野菜が苦手な人でも食べれるように工夫して…。
昼食と同様に和やかな夕食の時間を過ごし、リスティーナはルーファスとの会話を楽しんだ。
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