オタク姫 ~100年の恋~

菱沼あゆ

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夢の中で乙女ゲームの世界っぽいところに迷い込みました

なんだかんだで苦労してるんです

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「よお、朝霞姫。
 今日、お前んちに行くからな」

 朝霞が教室移動の最中、階段を上がっていたら、後ろからそう言ってきた男がいた。

 朝霞姫、やめて……と思いながら、振り返ると、同じ中学から来たもうひとり、佐野村一太さのむら いちたが立っていた。

 髪が突き立つくらい短い体育会系のこの男が、実はイケメンであるということを朝霞は高校に入って初めて知った。

 幼なじみでずっと見ていた顔なので、周りがそう言うまで気づかなかったのだ。

「やめてよ、佐野村。
 私はそのようなキャラじゃないのに」

「いや、そのようなキャラだろ」
と斜め下から動かずに佐野村は言う。

 なんだ、それ。
 ここはパラレルワールドかっ!?
と思っていると、佐野村は、

莫迦ばかだな。
 自分が思ってる自分と、人が思ってる自分なんて違うもんだ。

 お前はたまたま、それがいい方向に違ってたってだけだろ」
と言ったあとで、

「ともかく、廣也さんに伝えとけよ。
 今日、大丈夫だからって」
と言ってくる。

 この男は昔から、廣也を兄のように慕い、後をひっついて歩いていた。

 その妹には冷たいのだが……。

 佐野村は立ち止まっていた朝霞を見上げ、強い口調で言ってくる。

「ところで、お前。
 人目のあるところで俺に話しかけてくんなよ。

 そんなことされたら、俺、男友だちがいなくなるから」

 どんな幼なじみだ……と思いながら、朝霞は下の階に戻っていく幼なじみを見送った。

  


 昼休み。
 そうそうに食べ終わった朝霞は、急いで図書室に向かった。

 王子先輩のことを知らなければっ。
 また沈黙で苦痛な乙女ゲームの夢を見てしまうっ、と思っていたからだ。

 だが、図書室に十文字晴じゅうもんじ はるはいなかった。

 まあ、そりゃそうか。
 続けて当番なわけないもんなーと思いながら、とぼとぼ戻ろうとしたとき、女生徒たちの声が聞こえてきた。

「あっ、朝霞様よ」

「今日も素敵な髪型ね。
 朝霞様は、指先も器用なのね」

 そう、器用なんですよ、おにいちゃん。

 このサイドを細かく編み込んだ髪型は、朝霞の持っている雑誌を見ながら、廣也がやってくれたものだ。

 ちなみに母は忙しくてそんな暇はない、と言っているのだが。

 幼稚園の頃の写真を見ると、微妙に斜めに髪が結ばれていたりするので。

 実は母は自分と同じに不器用なのではないかと思っている。

 よし、トイレ行ってから、教室に戻るか、と朝霞が思ったとき、また彼女たちの声が聞こえてきた。

「あら、朝霞様がお手洗いに」

「いやね。
 なに言ってるの。
 朝霞様がトイレになんて行くわけないじゃないの」

 行きますよっ!?
と思ったのだが、なんだかその場では行きづらく、さりげなく、トイレの横の角を曲がった。

 渡り廊下を通って、特別棟に行き、人気のない、そこのトイレに入る。

 ……なにをやってるんだ、私は、と思いながら。

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