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箱から覗いてみました……
ゴルゴンじゃないのに固まっています
しおりを挟むケチをつけてしまったが。
服部半蔵のお陰で助かったな、と海里は思っていた。
こんなことは初めてなのだが、あまりの部屋を訪ねるのに、らしくもなく緊張していたのだ。
あまりはニコニコと食器の用意をしてくれている。
……可愛いな。
あまりも緊張して、ぎこちなくなるのではと危惧していたのだが。
ありがとう。
服部半蔵。
あんなこと言ったが、事件には協力してやろう、と思う。
「和食だから、日本酒の方がよかったか?
ちょうど、いいワインを見つけたから買ってしまったんだが」
と言うと、
「いえー。
ワインでいいですー」
と言いながら、あまりはご機嫌なようだった。
しかし、こいつ、こんな簡単に食べ物で釣られて大丈夫なんだろうか、といささか不安になる。
成田という、美味しいものを携えたイケメンがすぐ近くに居るからだ。
いや、最高だ。
あまりたちはソファの前、ラグの上に腰を下ろし、ローテーブルで食事をしていた。
気のきくことに、海里は、小洒落たテイクアウトのデザートも百貨店で買ってきてくれていて。
なかなかいい夕食となった。
家で、くつろいで美味しいものが食べられるというのが、またいい。
酔っても家だし、そのまま寝ちゃえば……と思ったとき、
はっ。
海里さんが居ましたね、とあまりは、ようやく警戒することを思い出す。
「おい。
何故、急に防犯ブザーをつかむ」
目敏くこちらの動きを見て言ってくる海里に、
「いえ……そこにあったので」
と言うと、
「貸せ」
と取り上げられた。
海里は、
「電池抜いといてやる……」
と言いかけ、
「いや、やっぱり、鞄には入れておけ。
俺以外の奴に襲われそうになったら、すぐに鳴らせよ」
と言ってきた。
いや、まず、『俺』のところで鳴らしたいのですが。
これ以上の不祥事はご遠慮したい、と願いながらも、またワインを口にする。
口当たりが良く、美味しかったからだ。
「美味しいですね。
幸せです。
人類は美味しいものを食べながら語るために産まれてきたんじゃないかと思います」
「まあ、あながち間違ってはいないかな」
と海里は莫迦にせずに言ってくる。
「もうひとつ付け加えるべきだが。
人類は美味しいものを食べながら、最愛の人と語るために産まれてきたんだ」
誰が最愛の人なんですか、と思いながらも呟いた。
「最愛の人か。
あんなに好きでも別れちゃうってことあるんですね……」
とあまりは大崎を思う。
「大崎さん、ほんとにお姉さんがお好きなんでしょうに」
おかしな方向に突っ走ってしまうほど。
「あんな風に愛されてみたい気もします」
「……本気か?」
いや、方向性は間違っているかもしれないが、大崎の麻里子に対する深い愛情は伝わってくる。
「あいつ、麻里子にベッタリだったからな。
飽きられたんじゃないか?
まあ、俺は今は、……飽きられるほど側に居てみたいかな」
と言って、こちらを見る。
な、何故、今、見るのですか。
そ、そらしてください……っ。
そらせませんっ。
私からは、目をそらせませんっ。
そのとき、美味しさで固まるカフェ ゴルゴン、というフレーズが頭に浮かんだ。
今、視線だけで私は固まっています。
男の人のこんな真剣な顔は初めて見た気がします。
っていうか、その視線が私一人を向いているというのがもう……
もう……どうしたらいいのか。
明らかに酒のせいではなく、クラクラしてきた。
た、助けて、誰か……。
えーと。
おにいちゃんっ。
ははははは、と船の上で、小莫迦にして笑う兄の顔が見えた。
いや、駄目だ。
ご隠居っ。
静かにお茶を啜ってそうだ……。
大崎さんっ。
あんた、風呂入って、下着かえたの?
と妄想の中で、大崎が説教してくる。
はっ。
入ってませんっ。
いや、そんなつもりも暇もありませんでしたけどっ、と何故か大崎に言い訳してしまう。
そのとき、
「……あまり」
と海里が呼びかけてきた。
「Mi amas vin.」
しゃ、しゃべれたのか、エスペラント語。
そういえば、あのとき訳してはいたけど。
挨拶程度だからかと思ってた、とあまりは赤くなり、俯く。
「大丈夫か?」
と海里が訊いてきた。
「お前のことだから、旅に出たときの日常会話くらいしか、実は知らないんじゃないのか?
領収書くださいとか」
と言って笑う。
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