あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ

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もう終わりです……

罠にかかってないじゃないかっ

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 考え疲れて、うたた寝してしまった夢の中。

 はははは、と海里の会社のあるビルの上、マントを着た海里が現れた。

 いつもは、かかったな、あまりっ、と叫ぶところだが、その海里は怒ったように、
「かかってないじゃないか、あまりっ」
と言ってきた。

 まったくです。

 私が一目惚れした相手は海里さんではなかったようです。

 うなされていたあまりをチャイムが起こす。

 インターフォンを取り、
「服部さんですか?」
と言うと、

「……なんで服部限定だ」
と海里の声がする。

 貴方でないといいなあ、と思ったからです。

 そして、服部さんなのは、単にお隣りさんなので、現れる確率が高いからです、と口に出さずに思っていると、

「いいから、開けろ」
と海里は怒ったように言う。

 ドアを蹴破られそうな勢いだったので、海岸で十字架にはりつけになって、今、まさに火をかけようとされているような気分で、それを開ける。

 海岸なのは、海水で消せないかなあ、とつい、逃げ道を探してしまったからだろう。

 ドアを開けた海里が、うわっ、と驚く。

 いきなりあまりが土下座していたからだ。

「どうした、あまりっ。
 まさか、服部と浮気したのか?」

 何故、服部さん、と冷たい廊下に額をぶつけたままあまりは思う。

 今、自分が服部さんですか、と言ったこともすっかり忘れていた。

 そのくらい、昼間の衝撃がすごかったのだ。

「……すみません。
 もう合わせる顔がありません。

 別れてください」

 あまりは頭を下げたまま言った。



 一体、なにが……と海里は玄関で固まる。

 まだ食べてないのなら、今日は何処かへ連れていってやろうかと思っていたのに。

 ドアを開けたら、あまりは土下座していて、別れてくれと言い出した。

 っていうか、別れてくれって……。

 お前、付き合ってる自覚はあったのか、とまず、そのことに驚く。

 あまりは土下座し、ぷるぷると震えている。

 一体、なにがあったんだ、ほんとに、と海里は、その場にしゃがむ。

 他の男に襲われたとかだったら、とりあえず、そいつを殺して、あまりは監禁しよう。

 そう思いながら、その場にしゃがみ、あまりに呼びかける。

「どうした?
 なにがあった」

 あまりは頭を上げないまま言ってきた。

「私、海里さんの写真を父に見せられたとき、なんて素敵な人なんだろうと思って。

 きっと捨てられると思いました」

 飛ぶなあ、発想が……。

「私、きっとあのときから貴方のことが好きだったんです。
 そう思っていたのに」

 そうなのか。

 しかし、なにか頭のネジが飛んでいるようだ、と思う。

 らしくもなく、ぺらぺら心のうちをしゃべっているが、大丈夫か――?

「でも、あの写真の人、海里さんじゃなかったんです~」

 私を捨ててください~とあまりは泣き出す。

 まだちゃんと拾ってもないのに捨てられるかと思いながら、

「……写真、見せてみろ」
とそっと呼びかける。

 あまりは、弟に転送してもらったという写真を顔を上げないまま、突き出してくる。

「遥真じゃないか」

「やはり、ご自分ではお分かりになるのですね」

「……わからなかった父親にびっくりだがな」

 違う意味で気になってきたぞ。

 あまりが見間違えるほどとは。

 本当に親子じゃないのか、俺たち。

 大丈夫か? と思う。

「あまり……」

 あまりは土下座したまま、まだプルプル震えている。

 海里は笑って、あまりの身体の下に手を差し込み、抱き上げた。

 あまりが驚いたように自分を見る。

「なんでもいいじゃないか。
 切っ掛けなんて。

 遥真と俺は――」

 この先を言うのは抵抗があったが、

「親子かっていうくらい似てるから。

 お前が今、俺を好きなら、それでいいし。

 そうだ。
 騙されそうだから、逃げたいと思ったの、俺じゃなくて、遥真だったんじゃないか」

 俺、関係ないからな、と言う。

「なんでそんなやさしいんですか?」

 あまりは自分を見上げ、そう問うてきた。

「……嬉しいからだろ。
 お前がそんなにも俺のことを好きだとわかって」

 腕の中で、あまりは俯く。

「いろいろショックで気を失いそうです……」

 そう呟いていた。

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