あやかし駄菓子屋商店街 化け化け壱花 ~ただいま社長と残業中です~

菱沼あゆ

文字の大きさ
20 / 176
弐 当たりクジ

人生で、これで間違いなかったということは滅多にない

しおりを挟む

「よし、これでちゃんとした店に入れるな。
 二人とも朝食くらいおごってやろう」
と朝の道でタクシーを探しながら倫太郎が言う。

 壱花がいたし、まず靴をと思って急いでくれたようで、倫太郎たちもホテルの朝食は食べていなかったのだ。

 冨樫が、
「口止め料ですか」
とその横で鼻で笑って言っていた。

 ……上司にすら容赦ないな~、と思いながらタクシーに乗り、泊まっていたのとは違う、大きなホテルに入っている料亭に行った。



 朝から優雅だな、と思いながら、壱花は店の窓から外を眺めていた。

 大阪の街が一望できる。

 朝の食事は、普通のご飯か、白粥しらがゆか、茶粥が選べるようだった。

「……これは難問ですね」
と悩む壱花を尻目に、男ふたりはさっさと頼んでいる。

「茶粥で」
「白粥で」

「……その流れなら、私は普通の白いご飯ですね」
と呟いて、

「いいから早くしろ」
と二人同時に言われた。

 注文を取りに来ていた若い女性に笑われる。



「やはり、茶粥で間違いなかったです」

 結局、茶粥にした壱花が美味しくいただきながら笑って言うと、白粥にした倫太郎が、

「こっち食ってみろ。
 間違いなかったとは言えなくなるぞ」
と子どものように張り合ってきて、自分の白粥を一匙ひとさじすくい、壱花の口に入れようとする。

「や、やめてくださいっ」

 壱花は赤くなって身を引き、逃げた。

 真顔で、あーん、はやめてくださいっ、と強く口を閉じ、抵抗していたが、特に深い意味もなくやっているらしい倫太郎は照れもしない。

 そのうち、嫌がる子どもに薬を飲ませるように、後ろ頭を押さえて、無理やり口に突っ込んできそうだった。

 駄菓子屋にずっといるから、こんな子どもみたいなところがあるのだろうか。

 いや、そんな莫迦な……っと思ったとき、

「……すみませんが、朝っぱらからイチャつかないでください」
と二人の向かいに座る冨樫が冷ややかに言ってきた。

「イチャついてませんよ~。
 さては社長、あっさり決めたけど、本当は迷ってましたね、茶粥と……

 あっ」

 いつの間にか、壱花のお盆の上の茶粥が白粥に変わっていた。

「社長ーっ」
と叫びはしたが、もう諦め、

「……仕方ないですね、食べていいですよ」
と壱花は言った。

 だが、倫太郎は一口だけ食べて、あとは返してくれた。

「ありがとう。
 満足した」
と倫太郎は言う。

「いや、俺はいつも茶粥なんだ。
 でも、今日は白粥にチャレンジしてみようと思って。

 これはこれで美味かったんだが、横で二人が茶粥の美味そうな匂いをさせてるから」

 わかりますわかります、と壱花は頷いた。

 仕事に関しては、倫太郎の話は高度すぎてついていけないことがあるが、これはわかる、と思っていた。

「今日こそはチャレンジしてみようっ、と思って、いつもと違うものにしてみるときありますけど。

 なんとなく後悔が残りますよね。

 変えてみたものが定番になるときもありますけど。

 そういう意味では、駄菓子とか100均とかって、新しいものにチャレンジしやすいですよね。

 定番のとチャレンジの品ととりあえず、両方買ったりできるから」

 その話を聞いた冨樫が、
「お前、物買いすぎて捨てられなくて、家が大変なことになるタイプじゃないのか」
と言ってくる。

 ぎくりとしていた。

 祖母のもったいないもったいないという言葉を聞いて育った壱花もまた、なにもかももったいないと思ってしまうタイプで。

 だったら買わなきゃいいのに、そこはいまどきの人間らしく、100均などでポイポイ買ってしまうので、ちょっと困ったことになっている。

「そういえば、お前の家、見たことないが」
と言う倫太郎に壱花は慌てて言う。

「ゴ、ゴミ屋敷とかじゃないですよっ。
 片付いてますよ、普通に。

 ただただ物がたくさんあるだけですよ」
と言って、倫太郎に、駄目だろ、それ、という目で見られる。

「そういえば、社長のお部屋はいつも片付いてますよね」

「ほぼ住んでないからな」
という二人の会話を聞きながら、ふーんという目で冨樫が見ているのに気がついた。

「あっ、違いますよっ。
 別の仕事の関係でお邪魔したりすることがあるだけで。

 今回もですっ」
と言い訳したが、冨樫は、

「別にどうでもいい」
と言ったあとで、倫太郎を向き、

「社長は今まで、身近な女子社員に手を出されたことがなかったので、なんだかショックなだけですよ」
と言っていた。

「いや、こいつとはなにも関係ないぞ、ほんとに」

「今だって、すっと二人で並んで座ったじゃないですか」

 関係ある証拠でしょうと刑事のような追い詰め方をしてくる冨樫に倫太郎が言う。

「いやいや、いつも店番するとき並んで座ってるから。
 ただの癖だ。

 っていうか、別に俺は社長の権力を使って、こいつをどうこうしようというつもりはないし。

 これから先もない」

 ……ないんだ。

 いや、別にいいんだが、と思う壱花に追い討ちをかけるように倫太郎が言ってきた。

「じゃあ、お前、クビになれ」

「はっ?
 なんでですかっ?」

「店にいるお前とは手は切れないから、会社にいるお前と手を切ろう。

 クビになれ。
 そしたら、こいつに女子社員に手を出してるのなんのと言われなくていい」
と冨樫を見ながら言ってくる。

「いやーっ、それ、どんなパワハラですかっ。
 私が仕事でミスしたとかならともかくっ」
と叫んで、二人同時に、

「いや、よくしてるだろう」
と言われてしまったが。

 ……いや、たいしたミスはしてないじゃないですか。

 最近では、お客様に出したお茶を持って帰ってる途中、廊下でひっくり返したりくらいですよ。

 お客様が出てくる前に拭きましたから。

 ただ、それをお客様を案内しながら、先に出てきたお二人がたまたま目撃ししただけじゃないですか。

 ……ねえ?
と思いながら、壱花はいい出汁の出ている味噌汁を啜った。


しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

リストラされた42歳、確率の向こう側へ。~なぜか俺の選択肢がすべて正解になる件~

RIU
ファンタジー
「君には今月いっぱいで席を空けてもらいたい」 42歳、独身、社畜。会社のために尽くしてきた柏木誠は、理不尽な理由でリストラされた。 絶望の中、雨の神社で野良猫を助けた彼は、不思議な光と共に【確率固定】という異能――「無意識に正解を選び続ける豪運」を手に入れる。 試しに買った宝くじは10億円当選。 復讐心に燃える元上司を袖にし、元天才投資家の美女をパートナーに迎えた柏木は、その豪運で現代社会を無双していく。 「俺の選択に間違いはない。なぜなら、確率の方が俺に合わせるからだ」 枯れたおじさんが資産と余裕を手に入れ、美女たちに頼られながら、第2の人生を謳歌する痛快サクセスストーリー!

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...