あやかし駄菓子屋商店街 化け化け壱花 ~ただいま社長と残業中です~

菱沼あゆ

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弐 当たりクジ

文字焼きを焼いてみよう

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「もんじゃ焼きか。
 昔の文字焼きだよね」

 その夜、高尾がそんな話をしてきた。

「文字焼き?」

「江戸時代くらいからあったよ。
 生地を鉄板に落として文字を焼きながら、文字の勉強したりしてたんだ。

 結構最近までは、今のと違って、甘い焼き菓子だったよ」

 すみません。

 あなた方の結構最近、がいつなのか、よくわかりません。

 そして、高尾さん、自分は意外に若いとおっしゃってましたが、化け狐の若いは何百歳のことなんですが。

 まあ、江戸後期なら、そんなに年でもないかと思ったとき、いやいや、と高尾が笑って言ってきた。

「って、年寄り狐から聞いたんだよ」

 ……何処まで本当なんだろうな、この人の話。

 まあ、キツネだからな、と思ったとき、倫太郎が売り場にあるストーブの方を見ているのに気がついた。

「……もしや社長。
 焼きたいのですか?」

 文字焼きをストーブでやってみたいようだ。

 うーん。
 どうやってやるんだろうな、と壱花はスマホで調べようとしたが、この空間は電波がつながったりつながらなかったりする。

 今はつながらないようだった。

「小麦粉を水で溶いて焼けばいいだけみたいだったよ」
と高尾が教えてくれる。

「黒蜜を混ぜたり、入れ物状に焼いて、中に黒蜜を入れたりして、甘くしたり。

 形もいろいろ。
 でも、小麦粉って、此処あったかな?」

 高尾はあの上新粉などがある店の隅を窺っていた。

「ないのなら、スーパーに行って買ってきましょうか?」
と壱花は言って、

「化け化けちゃん、一回、外出て、戻ってこられるの?」
と訊かれる。

 そうだ。
 普段、此処に来るのはおばあさんに店長代理と認められたから、自動的に転移してやって来てるんで。

 社長みたいに自力で来られるかはまだわからないのだ。

 出たら明日の夜まで戻ってこられないかもしれない。

「化け化けちゃん、今日、疲れてないし」

 迷い込めないでしょ? と言われる。

「……いや、突然、遠方まで行って大変だったんですよ?
 帰ってから、通常業務がいっぱい残ってたんで、慌ててやったし」

 倫太郎たちがタクシーでアパートに寄ってくれたので、大量の買い物をアパートに押し込めてから急いで戻ったのだ。

 だがまあ、思いもかけずに大阪を満喫できて楽しかったので、そんなに疲れてはいないのかもしれないが。

 そういえば、職場に戻ったとき、木村に、
「なにかみなさん、いい匂いがしますね」
と笑われてしまったのだが。

 たぶん、髪や服に染み付いたソースの匂いのせいだろう。

 そこで、いつの間にかストーブの側に移動としていた倫太郎が振り返り、
「それは俺に小麦粉を買ってこいと言うことか」
と言う。

 そう言われたら、まるで社長を使いっ走りにしているようだが。

 いやいや。
 あなたがやりたそうだったからですよね。

 って、私もちょっとやってみたいですが、と壱花が思っていると、高尾が立ち上がった。

「あ、じゃあ、僕買って来てあげるよ」

 だが、倫太郎が、待て、と言う。

「お前一回出て行ったら、戻ってこなさそうなんだが」

「そんなことはないよ。
 大抵の場合は戻ってくるよ」
と高尾は笑うが、確かに気まぐれなところがあるので、小麦粉持ったまま、美女にでも声をかけられれば、そのままついて行ってしまいそうだ。

「俺が行ってくる。
 小麦粉と黒蜜だな?」
と倫太郎が言った。

「ボウルとお玉と菜箸とお皿もいるんじゃないですか?
 あ、あれば、フライ返しも」

 それくらいは奥にあるかもしれないなとは思ったのだが。

 二十年近く此処にいても、そんなものは探したこともないらしい倫太郎は、よくわからないので買ってくる、と言った。

「ついていきましょうか?」
と壱花は立ち上がったが、

「いや、そいつをひとりにするな。
 気に入った女の客が来たら、商品タダでごっそりやりかねんっ」
と高尾のことを言いながら、急いで倫太郎は出て行った。

「……よほどやりたかったんですね」

 仕事でもそうだが、探究心旺盛な人だ、と思いながら、壱花は倫太郎が消えた暗闇を見る。


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