あやかし駄菓子屋商店街 化け化け壱花 ~ただいま社長と残業中です~

菱沼あゆ

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弐 当たりクジ

迷い込んでみよう

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 昨日はおかしな夢を見た……。

 と冨樫は思っていた。

 スーパーに買い出しに行ったら、慣れない様子の社長が店内でウロウロしていて。

 思わず、声をかけたら、河童や子狸や、透明人間な狐でいっぱいの怪しい駄菓子屋に連れていかれて。

 あやかしに紛れていても違和感がない、

 というか、平素より、あやかし以上に理解不能な風花壱花かざはな いちかがいて。

 文字焼きをみんなで焼いて食べ、目が覚めたら社長の部屋で。

 三人で社長のマンションの下のカフェで朝ごはんを食べたあと、風花と自分を社長がそれぞれの家まで送ってくれた。

 社長に送ってもらうなどと、まことに申し訳ない感じの夢だ。

 と思う冨樫は倫太郎を前に困っていた。

 自宅まで送ってもらった礼を言うべきか。

 だが、あれは夢なんだから、礼を言うのはおかしいような。

 何処から何処までを夢にしたら、話に矛盾が出ないのか自分でもわからないながらも。

 ともかく、夢だということにしてしまいたかった。

 だが、性格上、礼を言わずにはいられないので。

 冨樫は倫太郎に、とりあえず、礼を言ってみた。

「社長、ありがとうございます」

 仕事をしながら、うん、と適当に頷いたあとで倫太郎は顔を上げ、

「なにがだ?」
と訊いてくる。

 ……困ったぞ、と冨樫は思っていた。

 今朝送っていただいて、などとうっかり発言してしまうと、あのあやしい駄菓子屋での出来事を夢にできなくなってしまう。

 冨樫は迷って、
「いえ、いつもお世話になっておりますので」
とぼんやりとしたことを言ってしまった。

「なんだ。
 盆暮れの挨拶か。

 もう正月過ぎたぞ」
と言いながら、たいして気にもせず、仕事に戻る倫太郎に、ちょっとホッとしながら、

「では失礼します」
と出て行こうとしたのだが。

「待て」
といきなり止められた。

「お前、今日は早く帰れよ」

「……何故ですか?
 今、今度の会合に向けて、かなり仕事が山積してるんですが」

「じゃあ、なおさら帰れ。
 疲れてやると効率よくないからな」

 倫太郎は、やたら、早く帰れと勧めてくる。



 早く帰れ、と冨樫に向かって、倫太郎は言った。

 残業するなよ。
 疲れるな、と思いながら。

 疲れてうっかり、迷い込んできたりしないよう。
 さっさと帰って、身体を休めるんだっ、と思い、部下を見つめる。

 冨樫は釈然としない顔をしながらも、
「なんだかわかりませんが。
 ……ありがとうございます」
ととりあえず礼を言って、去っていった。



 社長に追い立てられるように帰ってしまったので、暇だな。

 そんなことを思いながら、冨樫はスーパーに寄っていた。

 昨日、買ったものが消えていたからだ。

 あの店に忘れてきたんだろうな。

 いや、あの店なんて存在しないけど。

 ……でも気になる、と冨樫は思っていた。

 冷蔵庫といえば、ビールやお子様ビールなんかを冷やしているだけの小さなものしかないあの店じゃ、きっと食材が腐っているに違いない、と思っていたからだ。

 だが、ほんとうに気になっているのは、たぶん、別のことだった。

 自分とよく似ているという、あの透明人間狐、高尾のことだ。

 ガラス戸越しには、その姿がぼんやりと見えていた。

 自分に似ていると言われれば、そんな気もする。

 何故、あいつは俺と似ているのか。

 たまたまだろうか?

 では何故、あやかしの中で、あいつの姿だけが見えないのか。

 そして、最初は聞こえなかったあいつの声が、途中から聞こえ始めたのは何故なのか。

 ……なんか考え過ぎて疲れたな、と思いながら、スーパーを出て歩いていると、その灯りが見えた。

 眩しいくらいに店内を照らし出しているスーパーの光とは違う。

 赤提灯のぼんやりとした灯りと、木造の小さな建物の中の少し薄暗い光。

 呑み屋と間違いそうな雰囲気ではあるが、ちょっとホッとする灯りだった。

 ああ、また来てしまった、と思いながらも、

 まあ、いい。
 これは夢だということにしよう、と思う。

 店のガラス戸に手をかけた。

 店内には、壱花と高尾だけがいた。

 高尾の姿は一瞬見えたが。

 目を凝らして見ようとすると、ガラス越しでも消えてしまう。

 ……何故なんだ、
と思ったとき、壱花がこちらに気づき、手を上げた。

 そして、見えないが、高尾がこちらを見て笑った気がした。

 何故だろう。

 ちょっと泣きそうになる――。


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