あやかし駄菓子屋商店街 化け化け壱花 ~ただいま社長と残業中です~

菱沼あゆ

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弐 当たりクジ

なんだかんだで、お前の方がマシだ

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「まあ、お前でも、なんだかんだで女だからなあ」

 夜、壱花が店の真ん中に立って、ぐるっと商品を見回し、チェックしていると、そんなことを呟きながら、倫太郎がやってきた。

 なんだその、いきなりの言葉の暴力は……と思う。

「なんだかんだで女って、なんですか」
 なにか微妙に下げられている感じがして、壱花は訊いてみた。

「いや、冨樫がベッドに飛んでくるより、お前の方がマシだな、と今、外からお前の姿を見ながら思ってたんだ。

 いくら綺麗でも男はな……」
と倫太郎は呟く。

 その言い方だと、私より冨樫さんの方が綺麗、という風にも聞こえますよね。

 いやまあ、そうなんだが……と思っていると、
「いやあ、化け化けちゃんは可愛いよ~」
とカウンターにいた高尾が言ってきた。

 可愛いよ、はおべんちゃらでもありがたいんだが。

 その前の化け化けはなんとかならないのだろうかと思って、壱花は訊いてみた。

「あのー、そのあだ名、花花になりませんか?」

 だが、高尾は笑い、言ってくる。

「だって長いじゃん、花花って」

「いやいやいやっ。
 長さ的には、化け化けと一緒じゃないですかっ」

 まあ、花花より、化け化けの方が言いやすいのは確かだが、と思いながら言ったのだが。

 あやかしだからなのか、ただの性格なのか、高尾は人の話はあんまり聞いていない。

 倫太郎が言った。

「そういえば、今日は冨樫と一緒に来る予定だったんだが。
 急に同期の呑み会が入ったとかで、遅れてくるそうだ」

「いや、呑み会があるのなら、わざわざ来なくても……」
と言いかけたのだが。

 冨樫さん、なにか此処に来たい理由があるのかもしれないな、と思った。

 そのとき、奥に入っていった倫太郎がなにやらゴソゴソし始めた。

 また文字焼きを作ろうとしているようで、小麦粉を水で溶いて持ってくる。

 すぐにストーブの辺りでいい匂いがし始めた。

 その匂いをカウンターで嗅ぎながら、壱花は倫太郎に訊いてみた。

「冨樫さんって、この店のこと、どう思ってるんですかね?
 あやかしなんて信じなさそうな人なのに」

「だから、夢だと思ってるんだろ?」
と真剣にストーブの上にお玉で生地をたらしながら、倫太郎が言ってくる。

「でも、社長と一緒に来る約束したんでしょ?
 夢の場所なのにおかしいじゃないですか」

「超常現象的なものを信じない現実主義者は、信じまいとするあまりに、むしろ、その発想こそ、超常現象だろって言いたくなるような不思議なことを言い出したりするからな」

「でも、そういえば、社長もそういうタイプのような気がするんですけどね」

 思うように文字が書けたらしく、満足げな顔で上体を起こした倫太郎は言う。

「いや、だから俺は、あやかしという生き物がいる、ということで自分の常識と折り合いをつけたんだ。

 人間がこの世界のすべてわかっていると思ったら大間違いだ。

 まだ見ぬ深海魚だってたくさんいるだろうし。

 だから、街にも山にも、あやかしという種族のまだ見ぬ生き物がいたんだ、と思うことにした。

 ただ、誰の目にも見えるわけではないから、その存在に気づかない人もいる。

 それだけのことだろ」

 なるほど……。

 時間軸がおかしいのも、人間にはまだわからない時間の流れ方があると言われれば、そうかなとも思うし。

「まあ、幽霊だって見えてないだけですよね、きっと。
 人間の目にすべてのものが見えるわけではないし。

 ……そういえば、あやかしは此処に来たら見えるけど、幽霊って見たことないですね」
と壱花がキョロキョロすると、

「じゃあ、見せてあげようか?」
と高尾が間近に顔を寄せて言ってくる。

 け、結構です~……と壱花は身を引いた。

 その綺麗な顔が近くに来すぎたからではなく、おかしな術でもかけられそうだと思ったからだ。

「でも、冨樫さんって不思議なこと言いますよね」

「不思議なことって?」
と倫太郎が訊いてくる。

「パフェが嫌いだって言うんですよ」

「……嫌いな奴もいるだろうよ」

 そう倫太郎は眉をひそめて言ってくるが。

「いえ、それが駄菓子からマカロンの話になって、洋菓子の話になって、パフェが嫌いだという話になったんですよ。

 唐突すぎません?

 普通、洋菓子でパフェ思い浮かべます?」

「なんだ、お前たちの話は飛びがちだから、間を端折はしょって、そう言ってるのかと思ってたよ」
と倫太郎は言うが、そうではない。

「洋菓子はなにが好きですか?
 と訊いたら、冨樫さん、いきなり、顔をしかめて、

『パフェが嫌いだ』
 って言ったんですよ。

 なにかパフェに強烈に嫌な思い出でもあるんですかね?」

「なんだ、パフェの強烈に嫌な思い出って。
 パフェに大根が入ってたとか、漬物が入ってたとかか」
と倫太郎が言ってくる。

「『でも、なんだかどうしても嫌いなんで。
  顔も見たくないんだ』

 そう言ったんですよ、冨樫さん」

「……パフェの?」
と呟いたあとで倫太郎が訊いてくる。

「パフェの顔って何処だ……」

「……何処なんでしょうね」
と言ったとき、ガラス戸の向こうに冨樫の姿が見えた。

 迷うことなくこちらに来る姿に、倫太郎が、

「今日は呑み会で疲れたのかな?」
と呟き笑っていた。

 冨樫が寒さで少し曇ったガラス戸に手をかけようとして、目を凝らすようにこちらを見たことに気がついた。

 その視線の先はこちらを向いているが、見ているのは自分ではない。

 壱花は振り向いた。

 高尾が少し笑って彼を見ている。

 ……顔も見たくない、か。

 なんか気になるな、と壱花は思っていた。



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