41 / 176
参 付喪神
ケセランパサランですか? いいえ、埃です
しおりを挟む「いやー、でも社長。
なんか申し訳ないですね。
私、役立たずなのに出張なんて」
旅費日当まで出してもらって悪いような気がする、と思いながら、翌日、社長室で壱花は言ったが。
書類から目を上げた倫太郎は、
「いつ飛んでもいいように、靴からなにからバッグに詰めて、店内ウロウロされても邪魔だし。
キャリーバッグ抱えて寝てたら、お前、絶対、寝返り打って俺の上に落とすからな」
と言ってくる。
側で聞いていた冨樫が、
「でも、風花の部屋を別にとる必要はない気がしますけどね。
どうせ朝まで社長の部屋にいるのに」
と口を挟んできた。
いや、そこだけ聞いたら、私、ものすごく怪しい女な感じなんですけど……。
「でも、経費切るの、木村だろ。
壱花の部屋代なかったら不自然だろうが。
出張先が、たまたま壱花のおばあさんちの近くだったから、今回、出張時の研修をすることにしたって、みんなには言うさ」
と軽い感じで倫太郎は言っていたのだが。
あとで、その話を聞いた木村たちはすかさず挙手して、言ってきた。
「社長、私は奈良が実家なんですが」
「僕は北海道です」
「私は博多ですっ」
全員が社長の出張に便乗したがった。
それを聞いた冨樫が少し考え、
「じゃあ、私はインカで」
と言ってきた。
「お前まで便乗するな……。
っていうか、お前の実家、インカじゃないだろ。
旅行なら自費で行け。
そして、俺はインカに用はないっ」
と倫太郎に怒鳴られていたが。
出張前日の夜、壱花と冨樫は荷物を倫太郎の部屋に置いてから店に来ていた。
出発時間が早いので、もうそのまま倫太郎の部屋から駅に向かうことになったのだ。
「いや~、便利ですよねえ、こういうとき」
と埃取りのミニワイパーを手に壱花は言う。
高いところにある商品の埃をとっていたのだ。
ちょっと埃をかぶっている方が雰囲気はあるとは思うが、あんまり埃まみれだと買う人がいないからだ。
壱花はワイパーについた埃を見ながら呟く。
「この中にケサランパサランはいないですかね?
幸せになれるんですよね、ケサランパサランがいると」
「……それ灰色じゃないか。
ケサランパサランって、白いふわふわした毛玉みたいな妖怪だろ?」
と倫太郎が言うと、冨樫が、
「猛禽類が小動物を食べたあとに排泄された毛玉だという説もありますよね」
と言ってきて、
「……もっと夢のある話はないんですか」
と壱花は眉をひそめる。
高尾が、
「ケサランパサランねえ。
おしろいで飼えるってあれでしょ?
江戸時代にもいたらしいけど。
僕はまだ見たことないね、若いから」
と笑って言ってくる。
いやだから、あやかしの若いの基準がわからないんですけど……と思いながらも壱花は言った。
「きっとケセランパサランは、ふわふわで可愛いうさぎの尻尾みたいなのですよ。
見つけたいですっ」
だが、倫太郎は眉をひそめて言ってくる。
「これ以上、此処に常駐するあやかしを増やすな。
すでに五体はいるのに」
「五体?」
と壱花は訊き返す。
指を折ってみた。
「高尾さんでしょ?
ああ、子河童ちゃんとかよく来ますよね。
あと、子狸ちゃんたち。
……キヨ花さんも結構来ますかね」
と言って、高尾に苦笑いされる。
「いや、キヨ花の常駐は勘弁」
と言って。
だが、倫太郎は壱花を向いて、
「莫迦」
と言ってきた。
「高尾だろ、お前だろ、冨樫に、ライオンに、オウムじゃないか」
と冷ややかにこちらを見ながら言ってくる。
「いやいやいやっ。
私、妖怪じゃないんですけどっ」
とワイパーを振って、せっかく取った埃を撒き散らしながら言う壱花に倫太郎は、
「いや、お前、なに考えてるのかわからないから」
と言う。
そして、
「あの、私も妖怪じゃないんですけど」
と反論する冨樫には、
「社長に向かって、ものすごい勢いで文句言ってくる秘書、得体が知れなくて怖いから」
と言っていた。
「いやいや、倫太郎。
ライオンとオウムは妖怪じゃないし。
何年も平然と此処に通ってるお前が一番あやかしとの境界線にいると思うよ。
ま、この中では、僕が一番常識人で、人間っぽいかもねー」
と高尾は誰もが頷かない主張をしながら、今日も番犬のように店の入り口で寝ているライオンの頭を撫でていた。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
リストラされた42歳、確率の向こう側へ。~なぜか俺の選択肢がすべて正解になる件~
RIU
ファンタジー
「君には今月いっぱいで席を空けてもらいたい」 42歳、独身、社畜。会社のために尽くしてきた柏木誠は、理不尽な理由でリストラされた。 絶望の中、雨の神社で野良猫を助けた彼は、不思議な光と共に【確率固定】という異能――「無意識に正解を選び続ける豪運」を手に入れる。
試しに買った宝くじは10億円当選。 復讐心に燃える元上司を袖にし、元天才投資家の美女をパートナーに迎えた柏木は、その豪運で現代社会を無双していく。
「俺の選択に間違いはない。なぜなら、確率の方が俺に合わせるからだ」
枯れたおじさんが資産と余裕を手に入れ、美女たちに頼られながら、第2の人生を謳歌する痛快サクセスストーリー!
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる