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参 付喪神
……ちょっと上の方とか言わなかったか?
しおりを挟む千代子が野菜を台所に持っていったのを確認し、壱花は呟いた。
「……知らなかった~。
七郎さん、狸だったんだ~」
「七匹目の子狸で、七郎ってつけられたのかな」
と倫太郎が言う。
その横では冨樫が几帳面な字で小さな手帳にかきもちの作り方をメモしていた。
余程美味しかったらしい。
「まあ、なんでもいいじゃないか。
千代子さんが毎日楽しく過ごせてるのなら」
と倫太郎が言うのを聞いたとき、みかんの横にあるものに気がついた。
砂糖をまぶしたいろんな色の丸い飴が入った駄菓子だ。
「そういえば、さっき、誰かが野菜と一緒にくれましたよね」
と壱花が言ったとき、ちょうど台所から戻ってきた千代子が言った。
「ああ、それ。
村田さんが私が好きだから、上の商店でよく買ってきてくれるのよ」
食べる? と袋を開けてくれる。
三人はひとつずつ、好きな色の飴をもらった。
壱花はピンクの飴を口に入れ、
「砂糖の味だ」
と言って笑った。
いろんな色はついているのだが、イチゴ味とかではなく、何色でも砂糖の味なのが、なんだかツボだ。
疲れがとれる感じがする。
「そういえば、上に商店あったねー。
ちょっと離れてるから、あんまり行ったことないけど。
駄菓子とかも結構あるんですよ、社長」
と言うと、
「そうか。
帰りに覗いてみるか。
なにか珍しい駄菓子があるかもしれないし、参考になるかもしれん」
と倫太郎が言ってきた。
「じゃあ、おばあちゃん、また来るねー」
庭に出た壱花が手を振ると、
「みなさん、お土産ありがとう。
壱花、お母さんたちによろしくね」
と千代子は言った。
いや、お土産、みんなで岡山駅で買ったから、岡山に岡山土産を持ってきてしまった感じになったので、礼を言われるほどではないんだが……と苦笑いしながら壱花は坂を下りる。
何度振り返っても、千代子はまだ手を振っていた。
次、来られるの、いつかなあ、とちょっと寂しくなったとき、倫太郎が言ってきた。
「帰り、時間があったら、またちょっと千代子さんのところに寄るか?」
「えっ?」
「千代子さん、最中が好きだって言ってたじゃないか。
ほら、あんこを後から挟むやつ。
何処かにあったら、買って持ってきてあげたらどうだ」
「え、社長、すみません。
でも、いいですよ。
遠回りになるので。
ありがとうございます。
お気持ちだけで嬉しいです」
と壱花は慌てて言った。
「……社長、時折、優しいですよね」
と微笑んで言って、
「俺はいつも優しいが!?」
と言い返されてしまったが……。
「……ちょっと上の方とか言わなかったか?」
「ちょっと離れてるとも言いましたよ」
「お前らのちょっとって、どんだけだっ!?」
と揉める壱花と倫太郎の声を聞きながら、冨樫はふたりの後について、商店に向かっていた。
意外に広い立派な国道をどんどん山の上に向かって歩いていく。
「この上に店とかあるのか。
絶対、あやかしがやってるだろ。
だったら、ライバル店だなっ」
と歩くのに疲れた倫太郎がわめいている。
会議からの流れで、なんとなく付いてきたが、そろそろ遠慮して別行動するか、と言い合っている壱花と倫太郎を見ながら、冨樫は思う。
しかし、ひとりで何処へ行くかな。
特にすることもないし、食事して、ホテル帰って寝るくらいしか……。
社長たちは夜は店に飛ぶんだろうが、俺は此処からは迷い込めないからな、
と思ったとき。
坂道は後ろ向きに歩くと楽、と言って反対向いて歩いて、後ろから来た車に撥ねられかけた壱花が、倫太郎に怒鳴り飛ばされながらも、また後ろ向きに歩きながら言ってくる。
「富樫さん、何処か行きたいところありますか?」
「え……」
「商店見ても、まだ時間あるから、観光行きましょうよ。
何処か見たいところありますか?」
と太陽を背にした壱花が笑顔で訊いてくる。
その顔を見ていたら、何故かちょっと動揺してしまい、
「……八つ墓村」
と思わず言っていた。
「……八つ墓村?」
と倫太郎に訊き返され、
「あっ、すみませんっ。
岡山で他に思い浮かばなかったのでっ」
と冨樫は慌てて言う。
壱花に、
「いや……他にも観光地ありますからね」
と言われてしまったが、その壱花も、
「他の観光地って何処だ?」
と倫太郎に問われ、
「えーと、吉備津神社とか、吉備津神社とか、吉備津神社とか?」
と言って、
「他にないのか……?」
と言われていたが。
「やだなー、もう。
ありますよ~、いっぱい~」
とすぐに壱花は誤魔化すように笑いながら言ってきた。
「冨樫さんと一緒で、急だったから、すぐには思い浮かばなかっただけですよ~。
でも、八つ墓村かあ。
ちょっと遠いんですよね、八つ墓村」
「遠いんですよね、八つ墓村ってすごい会話だな……」
とそれを聞いた倫太郎が呟く。
「そういえば、私、ずっと友だちの家は八つ墓村にあると思ってたんですが。
獄門島だったらしいんですよ」
友だちの家が獄門島ってどうなんだ……。
岡山、よくわからない、と思いながら、冨樫は壱花について、まだまだ続く山道を登っていく。
金田一の映画、なにを見たかという話をみんなでしながら歩いていると、壱花が空を見上げ、言ってきた。
「なんか楽しいですね、三人でこうして歩くの。
修学旅行みたいで」
「そうだな」
と倫太郎も田んぼと空き地と山以外、なにもない周囲を見回して言う。
いつも住んでいる場所より西側なので、日はまだ高く、視界を遮るビルもなく、車のあまり通らない広い道は開放感に満ちあふれている。
「さ、急いで行きましょう、富樫さんっ。
他のところも回りたいですからねっ」
と壱花が微笑みかけてくる。
此処で失礼しようかな、とさっきまで思っていたのに、冨樫は、つい、
「……ああ」
と言っていた。
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