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参 付喪神
壱花、これをやろう
しおりを挟む「美園さん、美園さん」
参道に戻った壱花は、あの大木の根元にある割れた茶色い急須に話しかける。
「美園さん、美園さん。
美園さーんっ」
「やかましいわっ」
という声がして、腕組みした美園が海老茶の着物を着て現れる。
大木の前に立っていた。
「壱花と話したら未練が出るからと知らぬフリをしていたのに余計なことを」
と美園は壱花と居た付喪神様を睨む。
「千代子が寂しがっているらしいぞ。
もう少し此処にとどまってみてはどうだ?
私も村人のために神様のフリをつづけることにしたから」
と付喪神様が説得してくれる。
「なにがフリだ。
お前はもう立派に神をやっている」
と美園も壱花と同じことを言う。
「それに比べて、私は人同様の生活をしているだけで、特に誰かの役に立っているわけでもない。
みなには遠くに息子たちがいると言っていたが、突然、この世に生じた私に親族などいない。
すっと消えて生まれ変わってみるのもいいかと思ったのだが」
と言う美園に壱花は言う。
「美園さんは役に立ってますよ。
あ、役に立ってるっていうのも変ですけど。
みんなを明るくしてくれるし、私に名前をくれたし」
「そうです。
壱花が化け化けなおかげで、俺も少し駄菓子屋の仕事が楽になりましたし」
と美園さんのためにかもしれないが、倫太郎が滅多に言わないようなことを言ってくれる。
「おばあちゃん、美園さん来なくて寂しがってますよ。
……でも、美園さんが生まれ変わりたいのなら、止める権利は我々にはないですけど」
と言うと、美園は少し考えている風ではあった。
憑いている物が壊れたのなら、すっぱり生まれ変わろうというのは、如何にも美園らしい発想だが。
やはり、不安もあったのだろう。
「付喪神というのは、長く大事にされてきた物に宿る魂だ。
私は此処に捨てられたが、通りかかる者たちに拝まれ、付喪神となった。
だが、その本体が割れた以上、此処にとどまるのも潔くない気がしてな」
美園がそんな話をしている間、倫太郎は木の根元にしゃがみ、なにかしていた。
「直りましたよ」
立ち上がった倫太郎が美園に向かい、急須を突き出す。
美園の急須は黄色のマスキングテープでぐるぐる巻きにされていた。
倫太郎が、メモに印をつけるために持っているテープだ。
「……警察が張る、立ち入り禁止のあれみたいになってますけど」
と壱花は呟く。
っていうか、社長……。
せめて、接着剤で……と思ったが、まあ、そんなもの持ち歩いている人間はなかなかいない。
これが精一杯の修復方法だったのだろう。
美園は、かえって無様になってしまったおのれの姿を見下ろしていたが、やがて笑い出した。
「ははは。
人間というのは乱暴なものだな。
形式にこだわらないというか。
世のことわりを無視して、あちこち破壊して歩く種族なだけのことはある」
と褒めているのか、けなしているのかわからないことを言ってくる。
「壱花」
と付喪神様が言ってきた。
「これをやろう」
と付喪神様は壱花の手のひらに白いふわふわしたものをのせてくる。
「可愛がってやれ」
うさぎの尻尾のようなそれは、たんぽぽの綿毛のように風に舞い上がり、ふわりと壱花の肩に舞い降りた。
ケセランパサランだ。
「おしろいで飼えるんですよね?」
と壱花は可愛らしいそれを見ながら微笑む。
「でも、昔のおしろいって鉛とか水銀ですよね?
鉛か水銀与えとけばいいのでは?」
と冨樫が言い出す。
なにかロマンがなくなったな……と思いながらも、壱花はケセランパサランを見る。
その白いふわふわの塊は、またふわりと飛んで倫太郎の頭の上に舞い降りた。
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