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肆 化け化けガム
見ているぞ……
しおりを挟む「……申し訳ございませんでした」
お昼休み。
壱花は蕎麦屋で蕎麦を前に謝っていた。
「以前、近所の女の子を膝に抱いて絵本を読んでいたら、なにを思ったか、いきなり、
『とおっ!』
とか言って立ち上がって。
顎に激突してこられたことがあるんですが。
まさか、自分がやるとは……」
反省の弁を述べ、謝ってみたが、冨樫は顎を手でこすりながら、
「幼児なら可愛いで済むが、いい歳した大人だとフォローのしようもないな」
と切り捨ててくる。
申し訳ございませんでした、となにか失敗した政治家か経営者のように、土下座する勢いで謝りながら、壱花は、
「ささ、お召し上がりください」
と蕎麦を勧めてみた。
「いや、だからって、おごってくれなくてもよかったんだが……。
っていうか、いきなり、タイムマシン! とか叫ぶから、気でも狂ったのかと思ったぞ」
時間を戻してなんとかしようとしたのかと思った、と冨樫に言われる。
「いえいえ、さすがにそんな莫迦な……」
と壱花は苦笑いして手を振った。
冨樫がまだ食べないので、蕎麦に手はつけていなかった。
タイムマシンはMacのバックアップ機能のことだ。
もしかしたら、まだそこにデータが残ってるかもと思って叫んでみたが、会社のパソコンはWindowsだった。
「お前、Mac使いだったのか。
っていうか、家にパソコンあったのか」
……いや、いまどきありますよね~、パソコン。
あなたの中の私のイメージ、どんなんですか……と思いながら、壱花は俯いたまま説教を聞いていた。
蕎麦にはまだ手をつけていない。
「でも、Mac使いって言われると、なんだか魔法使いみたいで格好いいですね」
ずっと黙っていても説教が長引きそうなので、ちょっと早口にそう言ってみた。
だが、冨樫は腕を組み、落ち着いた口調で更に突っ込んで訊いてくる。
口を割らせようと、ゆっくり窺うように訊いてくる刑事のように。
「お前、なんでMacなんだ」
……余程イメージと合わないようだと思いながら、更に早口になって、壱花は言った。
「立ち上がりが早いからですっ」
「それだけか」
「それだけですっ、はいっ」
と会話を打ち切るように言ったが、冨樫は、
「なにも魔法使いじゃないな。
Macでしかできないすごい技とかできないのか」
とまた訊いてくる。
蕎麦にはまだ手をつけていない……。
「冨樫さんっ」
壱花は、とおっ! という勢いでテーブルに手をつき、腰を浮かした。
「とりあえず、蕎麦、食べましょうよっ、冨樫さんっ」
固まっちゃうじゃないですかっ、と壱花は大きな四角いスノコに綺麗に並べられた白っぽい蕎麦を指差す。
「……お前、謝罪するのに、俺を呼んだんじゃないのかっ」
「美味しいものは美味しいうちに食べないとですよっ」
「先輩や上司をなぎ倒してもかっ」
「せっかくお詫びにおごるんだから、美味しいうちに食べていただきたいからですよっ」
と主張しながら、壱花は、はいっ、と冨樫に箸入れから出した黒い箸を持たせる。
「……母親か。
いや、うちの母親、そんなんじゃないが……」
と呟きながら、冨樫は何故か少し赤くなる。
そんな二人を窓ガラスの向こうから倫太郎が見ていた。
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