あやかし駄菓子屋商店街 化け化け壱花 ~ただいま社長と残業中です~

菱沼あゆ

文字の大きさ
68 / 176
肆 化け化けガム

冨樫の予言

しおりを挟む

 秘書室の方からだな。
 なんだろ? 冨樫さん、と思いながら、壱花は秘書室と社長室をつなぐ戸を開けてみた。

「冨樫さん?
 どうかされました?」

 冨樫は自分のデスクの前に立ち、青ざめている。

 倫太郎が壱花の後ろから覗いて訊いた。
「どうした? 冨樫」

「い、いえ、なんでも……」
と言いかけた冨樫だったが、

「なんでもあります」
と言い直す。

 普段、ミスしたらすぐに言え。
 下手に隠そうとして、事態を大きくするな、と自らが言っているからだろう。

「実は、今度の会議につけていくピンバッジを落としてしまって……」

 ピンバッジ? と眉をひそめた倫太郎が、ああ、と言う。

「叔父貴がつけて来いってみんなに配ったやつな。
 いいよ、別に。

 急になんか思いついて作っただけだろ?
 取引先との付き合いで作っただけかもしれないしな」

 なくなったのは、倫太郎の叔父が、彼の会社で行われる会議の参加者に配ったピンバッジのようだった。

 倫太郎は思いつきで作ったものだろうから別にいいと言うが、常にキッチリしないと気が済まない冨樫は気になるようだった。

「じゃあ、俺の分つけてけよ。
 俺がつけてなくても誰もなにも言わないだろ?」

「いえ、そんな。
 社長の分をお借りするなんてできません。

 落としたのは確かなんで、今、ひっくり返して探してるんですが。
 魔法のように消えてしまって」

 そう言いながら、冨樫は壱花の方を見る。

「ま、魔法で探したりとかできませんよっ。
 私はしがないMac使いなんで」
と壱花は蕎麦屋の話を引きずったまま言ってしまい、

「莫迦め。
 ミスのことならお前だと思っただけだ」
と遠慮なく冨樫に罵られた。

 自分のミスなのに態度でかいなと思っていると、冨樫が神妙な顔で、
「すまん」
と謝罪してきた。

「冨樫さんに素直に謝られると不気味ですね~」

 苦笑いする壱花の後ろから倫太郎が言う。

「まあ、何処かにあるだろうから、暇なとき、適当に探しとけ」

 そのまま倫太郎は社長室に引き上げていった。

 閉まった扉の方を見ながら、冨樫が言う。

「社長はああおっしゃってくださるけど、そうもいかないな。
 部下が会議に必要なものをなくすとか、社長のメンツにも関わるじゃないか」

「……そうですねえ」

 倫太郎は軽く言っていたが、冨樫が気にしないように言っている可能性もある。

 壱花は考えてみた。

「そうだ。
 スカーフでもやってたらいいんじゃないですか?
 ピンバッジつける辺りが見えないように」

「待て。
 お前じゃないんだ。

 スーツの上にスカーフとかおかしいだろう」

「じゃ、こう、さりげない感じを装って、ネクタイを風になびかせてみるとか」

「ずっとか。
 しかも、どんな突風でネクタイ、スーツから飛び出して風になびいてる設定なんだ」

 野外か、と言われる。

 野外の会議、気持ちよさそうだがな、と思いながら壱花は言った。

「いや、室内でも空調が壊れることがあるかもしれませんよ。

 そうだ。
 私が忍び込んで、空調いじりましょう。

 暖房が強ければいいんですよ。
 ものすごく暑くしたら、みんな上着脱ぐじゃないですか」

「北風と太陽か……」

「暖房の風量も上げたら、ネクタイもはためくかもしれません」

「……その会議は中止になるだろう」
と冨樫が予言する。

「っていうか、お前が忍び込んで、そんな操作してるのがバレて捕まったら、俺がピンバッジなくした以上の不祥事だろ?」

「そうですよ、冨樫さん。
 だから、ピンバッジなくしたなんて、たいしたことじゃないんですよ。

 いや、会議によってはたいしたことかもしれませんけど。
 今回は社長が大丈夫とおっしゃってるんですから」
と壱花は冨樫を慰めてみる。

 そうか? と冨樫は半信半疑な感じの返事をしたあとで、

「まあ、それにしても、お前は次から次へといろいろと思いつくな。

 ミスして叱られてるときも、ああしとけばよかった、こうしとけばよかったとか妄想して聞いてないんだろう」
と言ってくる。

 いや……だから、なんでまた私が叱られてるんですかね、と思ったのが伝わったようで、冨樫は、

「すまん」
とふたたび謝ってきた。

「私も探しますよ、冨樫さん」

「いや、いい。
 お前は自分の仕事をしろ」
と言う冨樫が元気がないように見えて、

「あんまり気にしない方がいいですよ。
 そういうときは、ミスを連鎖して起こしやすいんで」
と言ってみた。

「ありがとう、風花。
 ミスの女王なお前が言うと説得力があるな。

 肝に命じておくよ」

 ……だから、なんで礼を言いながら、微妙にディスってくるんですかね?

 しかも、私、実はそんなにミスしてませんからね。

 イメーシで語らないでくださいよ、と思いながら、壱花は仕事に戻ったが。

 冨樫の言う通り、やはり、壱花はミスの女王だったのか、その予言は的中する。
 

 
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

リストラされた42歳、確率の向こう側へ。~なぜか俺の選択肢がすべて正解になる件~

RIU
ファンタジー
「君には今月いっぱいで席を空けてもらいたい」 42歳、独身、社畜。会社のために尽くしてきた柏木誠は、理不尽な理由でリストラされた。 絶望の中、雨の神社で野良猫を助けた彼は、不思議な光と共に【確率固定】という異能――「無意識に正解を選び続ける豪運」を手に入れる。 試しに買った宝くじは10億円当選。 復讐心に燃える元上司を袖にし、元天才投資家の美女をパートナーに迎えた柏木は、その豪運で現代社会を無双していく。 「俺の選択に間違いはない。なぜなら、確率の方が俺に合わせるからだ」 枯れたおじさんが資産と余裕を手に入れ、美女たちに頼られながら、第2の人生を謳歌する痛快サクセスストーリー!

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...