92 / 176
伍 百鬼夜行花札
もう燃え尽きた人たちがいます
しおりを挟む
「浪岡常務で2000点っ」
「なんでですかっ。
常務の点数、どんどんつり上がってってますよっ」
花札が佳境に入り、倫太郎と壱花は揉めていた。
「いや、入社当時、
『君のそのスーツ、新入社員が着るにしては小粋すぎないかね』
としてやられたことを思い出したんだ。
あのときもあのときもあのときもっ、この俺がしてやられたくらいの人だから、2000点っ!」
「……社長、怒りの記憶が増えるたびに、点数上げてくのやめてください。
そして、それたぶん、常務が正しいです」
と壱花は言って、
「正しいともっ、だからムカつくんだっ」
と堂々と言い返されてしまう。
「その点、私の主張する点数は常識的ですよ。
キヨ花さんの舞を見ながら、桜の下で高尾さんと呑む。
『高尾さんと一杯』、700点です」
壱花は、花見で一杯、的なことを言いながら、桜と高尾とキヨ花と杯の札を指差した。
「それ、どちらかと言うと、キヨ花さんで一杯では」
とその札を見て、冨樫が呟く。
「その方が訳わからんだろうがっ」
と倫太郎に言われ、
「お前らの常識がわからん」
と斑目に呟かれる。
そのとき、冨樫がまだ暗い外を見ながら言ってきた。
「この世界、そろそろ夜明けじゃないかと思うんですけど。
何処で終わりなんですか、この花札」
「最後までリングに立っていられた奴の勝ちだろう」
と斑目が言うが。
いや、リングに立っていられなくなっているのは、おじいさまたちですよ、
と壱花は壁際で、寄り添い合うようにして寝ている斑目の祖父と倫太郎の祖父を見る。
戦っていない人たちの方が燃え尽きた感じになってますけど……。
「よしっ。
なんかわからんヌエみたいなのと、なんかわからん清姫みたいなのと、なんかわからん火車みたいなので。
10000点」
と斑目が言う。
いや、なんでですか、と思ったが、
「追いかけられたら逃げられなさそうチームだ。
火車に追いかけられ、蛇と化した清姫に締め上げられ、ヌエにトドメをさされるんだ」
と言う。
だが、倫太郎が、
「ヌエにトドメが刺せるかな」
と斑目の手にケチをつけ始めた。
「ヌエ、名前は禍々しいが、レッサーパンダ説があるぞ。
ヌエは狸の胴体に狐の尻尾を持つと書いている文献もある。
その容姿から考察したら、ピッタリなのはレッサーパンダだそうだ。
昔のレッサーパンダって今より大きかったらしいしな」
……レッサーパンダ、可愛いではないですか。
「確かにそれだと、トドメは刺せない感じですね」
可愛さでハートにトドメを刺されそうだが、と動物園でレッサーパンダにエサをやるコーナーに行ったときのことを思い出しながら壱花は思う。
「っていうか、その説、ほんとうなんですか?」
「さあ?
うちにヌエ、来たことないから」
と倫太郎が言ったときにはもう、壱花の頭の中では、レッサーパンダが小さな買い物カゴを持って、駄菓子屋に来ていた。
「ヌエ、来ないですかね~」
と思わず、期待して入り口の方を見てしまう。
だが、この札に描かれているヌエは虎っぽくて怖い。
これがお買い物カゴ持ってきたらやだな……。
でも、うちには番犬的にライオンさんがいるから、襲いかかってはこないかな、と店の入り口でまた大欠伸をしているライオンを見る。
あの大きな口が開くたびに、食われそうでちょっと怖いんだが……。
そう思いながら、改めて札を眺め、壱花は言った。
「それにしても、不思議な札、多すぎですよね」
「なんでですかっ。
常務の点数、どんどんつり上がってってますよっ」
花札が佳境に入り、倫太郎と壱花は揉めていた。
「いや、入社当時、
『君のそのスーツ、新入社員が着るにしては小粋すぎないかね』
としてやられたことを思い出したんだ。
あのときもあのときもあのときもっ、この俺がしてやられたくらいの人だから、2000点っ!」
「……社長、怒りの記憶が増えるたびに、点数上げてくのやめてください。
そして、それたぶん、常務が正しいです」
と壱花は言って、
「正しいともっ、だからムカつくんだっ」
と堂々と言い返されてしまう。
「その点、私の主張する点数は常識的ですよ。
キヨ花さんの舞を見ながら、桜の下で高尾さんと呑む。
『高尾さんと一杯』、700点です」
壱花は、花見で一杯、的なことを言いながら、桜と高尾とキヨ花と杯の札を指差した。
「それ、どちらかと言うと、キヨ花さんで一杯では」
とその札を見て、冨樫が呟く。
「その方が訳わからんだろうがっ」
と倫太郎に言われ、
「お前らの常識がわからん」
と斑目に呟かれる。
そのとき、冨樫がまだ暗い外を見ながら言ってきた。
「この世界、そろそろ夜明けじゃないかと思うんですけど。
何処で終わりなんですか、この花札」
「最後までリングに立っていられた奴の勝ちだろう」
と斑目が言うが。
いや、リングに立っていられなくなっているのは、おじいさまたちですよ、
と壱花は壁際で、寄り添い合うようにして寝ている斑目の祖父と倫太郎の祖父を見る。
戦っていない人たちの方が燃え尽きた感じになってますけど……。
「よしっ。
なんかわからんヌエみたいなのと、なんかわからん清姫みたいなのと、なんかわからん火車みたいなので。
10000点」
と斑目が言う。
いや、なんでですか、と思ったが、
「追いかけられたら逃げられなさそうチームだ。
火車に追いかけられ、蛇と化した清姫に締め上げられ、ヌエにトドメをさされるんだ」
と言う。
だが、倫太郎が、
「ヌエにトドメが刺せるかな」
と斑目の手にケチをつけ始めた。
「ヌエ、名前は禍々しいが、レッサーパンダ説があるぞ。
ヌエは狸の胴体に狐の尻尾を持つと書いている文献もある。
その容姿から考察したら、ピッタリなのはレッサーパンダだそうだ。
昔のレッサーパンダって今より大きかったらしいしな」
……レッサーパンダ、可愛いではないですか。
「確かにそれだと、トドメは刺せない感じですね」
可愛さでハートにトドメを刺されそうだが、と動物園でレッサーパンダにエサをやるコーナーに行ったときのことを思い出しながら壱花は思う。
「っていうか、その説、ほんとうなんですか?」
「さあ?
うちにヌエ、来たことないから」
と倫太郎が言ったときにはもう、壱花の頭の中では、レッサーパンダが小さな買い物カゴを持って、駄菓子屋に来ていた。
「ヌエ、来ないですかね~」
と思わず、期待して入り口の方を見てしまう。
だが、この札に描かれているヌエは虎っぽくて怖い。
これがお買い物カゴ持ってきたらやだな……。
でも、うちには番犬的にライオンさんがいるから、襲いかかってはこないかな、と店の入り口でまた大欠伸をしているライオンを見る。
あの大きな口が開くたびに、食われそうでちょっと怖いんだが……。
そう思いながら、改めて札を眺め、壱花は言った。
「それにしても、不思議な札、多すぎですよね」
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
リストラされた42歳、確率の向こう側へ。~なぜか俺の選択肢がすべて正解になる件~
RIU
ファンタジー
「君には今月いっぱいで席を空けてもらいたい」 42歳、独身、社畜。会社のために尽くしてきた柏木誠は、理不尽な理由でリストラされた。 絶望の中、雨の神社で野良猫を助けた彼は、不思議な光と共に【確率固定】という異能――「無意識に正解を選び続ける豪運」を手に入れる。
試しに買った宝くじは10億円当選。 復讐心に燃える元上司を袖にし、元天才投資家の美女をパートナーに迎えた柏木は、その豪運で現代社会を無双していく。
「俺の選択に間違いはない。なぜなら、確率の方が俺に合わせるからだ」
枯れたおじさんが資産と余裕を手に入れ、美女たちに頼られながら、第2の人生を謳歌する痛快サクセスストーリー!
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる