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伍 百鬼夜行花札

常連さんが増えました

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「お疲れ。
 今日は酒と花札持ってきてやったぞ。

 一杯呑みながらやろう」

 数日後。
 開店してしばらくした頃、そう言いながら、斑目がやってきた。

「いやあ、此処に来るのに疲れなければと思って、一升瓶片手に走ってたら、通りすがりのサラリーマンたちに奇異な目で見られたぞ」
と言う斑目に、倫太郎が、

「仕事で疲れてこい」
と言う。

 花札はやらんぞ、と倫太郎は言ったが、斑目が人の話なんぞ聞くわけもないので、台所からかき集めてきたバラバラのグラスで一杯やりながら、花札がはじまった。

「この間のケリがついてなかったからな」
と言う斑目に、倫太郎が、

「じゃあ、まだしゃべってないのか」
と確認する。

「しゃべるわけないだろう。
 もしかしたら、壱花は斑目壱花になりたくて俺と結婚するかもしれないからな。

 自分の花嫁のおかしな噂を流す男がいるか」

 何故、名前目当てに結婚……と思いながら、壱花は手札を見る。

「噂広めないんなら、やらなくていいだろ、これ」

 あのとき、壱花たちが勝ったら噂を広めないという賭けがうやむやになってしまったので、ケリをつけたかったのかと思ったが、そうではないようだった。

「賭けはともかく、俺は勝負事に負けるのが嫌いなんだ。
 勝つまでやるぞ」

「じゃあ、今すぐ負けてやれ、壱花」
と札を手に倫太郎が言うが。

 所詮、この男もただの負けず嫌いだった。

 


「えーっ。
 なんにもないっ。

 じゃあ、猪を見ながら、一杯」

「勝手に役を作るなっ。
 猪見ながら一杯やって楽しいかっ。

 っていうか、あっという間に通り過ぎるぞ、猪っ」
と壱花は倫太郎に叱られたが、次の回でなにも役がなかった倫太郎は、

「じゃあ、鶴を見ながら、一杯」
としゃあしゃあと鶴と杯を出して言ってきた。

「じゃあ、俺は蝶を見ながら、一杯」
とその次の回で斑目が言う。

「普通の花札になっても、やっぱり主張したもんがちじゃないですか……」
と言った冨樫はもう審判をやめ、上から花札を覗き込んでいた高尾と、駄菓子を買いに来ていた浪岡と一緒に、もう火のついていないストーブを囲んで一杯やりはじめた。

 此処はつまみだけは豊富にある。

「あっ、その甘辛のお菓子、私にもくださいよっ」
とそちらを見て叫んだ壱花に、倫太郎が言った。

「また止まらなくなるぞ。
 おっとっ、猪で一杯っ」

「さっき、私が猪を見ながら、一杯って言ったとき、社長、すぐ駆け抜けて見られないとか文句言ってたくせにーっ」
と壱花は物言いをつけてみたが、

莫迦ばかめ。
 猪を丸焼きにして一杯だっ」
と言い返されてしまう。

 ひいっ、と悲鳴を上げた壱花に、倫太郎は、
「猪だぞ。
 食って一杯に決まってるっ!」
と叫んでくる。

 揉めている間に、移り気な斑目はケセランパサランに頭にのられながら、ストーブに火をつけ、スルメの干物を焼きはじめた。

「あっ、それ、こっちにもくださいよ~っ」
とまだ花札を手に訴える壱花に、高尾が、

「いい匂いがしてきたね。
 じゃあ、僕はスルメで一杯!」
と言って、酒の入ったグラスをかかげ、笑ってみせた。



                                   『伍 百鬼夜行花札』完





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