100 / 176
陸 京都あやかし地図
高尾さんに地図をもらいました
しおりを挟む神社が連れてきた間違った相手は社長じゃないんだろうか、と思いながら、冨樫はまだ揉めている二人を眺めていた。
班目と壱花より、倫太郎と壱花の方が恋愛関係に近い気がしたからだ。
「そういえば、高尾さんが地図くれたんですよ」
と言いながら、壱花はガサゴソと鞄から地図を出そうとする。
倫太郎と二人、慌ててそれを押さえた。
「やめろ、あいつのくれた地図とか。
開いた瞬間になにかが起きそうだ……」
と倫太郎が言う。
確かに。
このメンツで行くと言うだけで、既になにかが起きそうなのに。
そんなもの開いたら、千年の都で、千年級のあやかしとか飛び出してきそうだ。
かつては超常現象的なことは絶対に信じないと思っていた冨樫だったが。
疑いつつも、あやかし駄菓子屋に通い詰めているうちに、誰よりもそういう勘が鋭くなっていた。
常にこれ以上の厄介事が舞い込みませんようにと身構えているからだろうか。
そんな冨樫の勘が外れることは、あまりない――。
京都に着いた壱花たちは駅近くのホテルに荷物を預け、スーツから着替えた。
いつも通りのビジネスホテルだ。
せっかく京都まで来たのだから、老舗の旅館にでも泊まりたいところだが。
経費でそんなもの切ったら、木村さんに、こらーっ、と言われるだろうし。
それ以前に、一緒に来ている冨樫さんが、こらーって言うよな……。
そう思いながらも、身軽になった壱花はホテルの前で、
「京都観光ーって感じですねっ」
と言って笑う。
「……仕事で来たんだからな」
と一応、倫太郎は釘を刺してきたが、壱花が川床に行きたいと言ったのを覚えていてくれて、鴨川のほとりにあるフレンチの店で奢ってくれた。
新幹線の中で予約してくれていたらしい。
「美味しかったですっ。
あと、京都といえば、抹茶系のデザートですよねっ」
「……今、デザート食べたよな。
コース料理についてたやつ」
と倫太郎は言ったが、その横で冨樫が、
「じゃあ、パフェ以外で」
と言った。
倫太郎が、なにっ? と振り向く。
京都に来たからには抹茶のなにかを食べたいと思っていたのは冨樫も同じなのか。
冨樫が反対しなかったので、甘味処に行けた。
うーむ。
私より冨樫さんのお願いの方が社長には効果があるということか。
それとも、滅多に言わない人が、滅多に言わないことを言ったから聞いてもらえたのだろうか。
そんなことを考えながら、壱花は寒いのに、かき氷を食べた。
店を出たところで、
「お前、ほうじ茶の食ったろ。
抹茶が食べたいって言ってたのにっ。
また違う店で抹茶のスイーツが食べたいって言いださないかっ?」
と倫太郎に壱花は罵られ言う。
「いやいや、ちょっとほうじ茶の誘惑に勝てなかっただけですよ。
ふわふわのかき氷に香ばしいほうじ茶。
とろっとしたミルクッ。
あれは食べなきゃ駄目でしょうっ。
でも、確かに抹茶に未練はありますけど。
スイーツはもういいです」
そうか? と疑わしげに見た倫太郎に、
「京都、パンも美味しいらしいですよ」
と壱花は言って、
「……観光のためにホテルを出て来たんだよな?
何処を見た? 俺たち」
と詰め寄られた。
「か、鴨川を眺めた気がしますよ……。
対岸の灯りが水面に映って綺麗だった気がしますよ」
「あやふやな記憶だな。
そして、その適当な鴨川以外に俺たちが見たのは、フレンチとかき氷だっ。
今度はパンを眺めるのかっ」
と怒られる。
「わかりましたよ~。
なんか神社が閉まってて、気が抜けちゃって」
とうっかり言って、今度は冨樫に、
「神社は閉まらないのでは?
祈祷ができないだけだろう。
神様、お休みがあるのか」
と屁理屈を言われる。
……神様、寝てるかもしれないじゃないですか。
ねえ? と誰にともなく壱花が思ったとき、倫太郎が溜息をつき、言ってきた。
「しょうがないな。
会議のあと、少し時間があるだろうから、その神社寄ってやるよ」
「えっ?
いえ、お忙しいのにいいですよっ」
と壱花は断ったのだか、
「いや、行け」
と倫太郎は言ってくる。
冨樫が横で、ぼそりと、
「間違った祈願によりやってきたのかもしれない班目さんを追い払おうとしてませんか……?」
と呟いていた。
「あ、あの、私はもう満足なんで――」
と壱花が言いかけると、倫太郎が、食っただけでか、という顔をする。
「あとは社長と冨樫さんの行きたいところに行ってください」
そう言ったのだが、ふたりとも悩んでしまった。
何処か見たい、とは思っていたようなのだが、何処を、というところまでは考えていなかったらしい。
「この時間からというと、ライトアップしてあるところとかかな」
と言う倫太郎に、
「あ、いいですね~」
と笑いながら、壱花は鞄からガイドブックを出そうとした。
高尾のくれた地図がひっついて一緒に出てきた。
ふわりとアスファルトの上に舞い落ちる。
ぱさりと開いて落ちた地図を三人は無言で見つめた。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
リストラされた42歳、確率の向こう側へ。~なぜか俺の選択肢がすべて正解になる件~
RIU
ファンタジー
「君には今月いっぱいで席を空けてもらいたい」 42歳、独身、社畜。会社のために尽くしてきた柏木誠は、理不尽な理由でリストラされた。 絶望の中、雨の神社で野良猫を助けた彼は、不思議な光と共に【確率固定】という異能――「無意識に正解を選び続ける豪運」を手に入れる。
試しに買った宝くじは10億円当選。 復讐心に燃える元上司を袖にし、元天才投資家の美女をパートナーに迎えた柏木は、その豪運で現代社会を無双していく。
「俺の選択に間違いはない。なぜなら、確率の方が俺に合わせるからだ」
枯れたおじさんが資産と余裕を手に入れ、美女たちに頼られながら、第2の人生を謳歌する痛快サクセスストーリー!
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる