あやかし駄菓子屋商店街 化け化け壱花 ~ただいま社長と残業中です~

菱沼あゆ

文字の大きさ
109 / 176
陸 京都あやかし地図

戻って来てしまいました

しおりを挟む


 一瞬、時間が巻き戻ったのかと思った……と苦笑いしながら、壱花は店内の様子を眺めていた。

 京都に出発する前日と変わらない光景がそこにあったからだ。

 子ダヌキや子ギツネたちが集まっているストーブの上ではカニが煮られ、七輪ではカニがあぶられ。

 ケセランパサランがまた鍋に飛び込み、煮られようとしていた。

 いや、りて……と思いながら、壱花は手のひらに乗せて救出する。

「京都は、どうだった?」
と訊いてくる班目に、

「いや、まだ帰ってきたわけじゃないんだが……」
と倫太郎が言っていた。

 班目が、焼いた太いカニの足にカニミソをつけて壱花に渡してくれる。

 酒も出てきた。

 子ダヌキたちが面白がって、二匹で一升瓶を抱え、酌をしてくれるのだ。

「ほら、お前も食べろ」
と斑目はやって来た生活に疲れたサラリーマンにも、身も旨味もぎっしりのカニの脚を渡していた。

 なかなか見かけないような太いカニの足に、受け取ったそのサラリーマンは少し考え、申し訳ないと思ったのか、その辺の駄菓子を幾つも箱飼いしようとする。

「い、いやいやいや、いいですっ。
 サービスですっ。

 また来てくださいっ」
と慌てて壱花は止めた。

 倫太郎が班目に言う。

「うちの店は1個10円とか30円とかなんだ。
 そんなのもらったら客が困るだろうが」

 いや、社長も結構、振る舞ってますけどね……。
 自分で作った好きなものとか、と思う壱花に班目が訊いてきた。

「京都観光はしてきたのか」

「はあ、一条戻橋とか、二条公園とか、嵐山とか、雪の貴船神社とか、一瞬だけ、化野念仏寺あだしのねんぶつじとか……」

「夕方から行ったんだろ?
 ずいぶん回れたんだな」

 はあ、おかげさまで……。

「なんで二条城じゃなくて、二条公園なんだ?
 貴船神社、今、雪降ってんのか?」

 降ってるわけないですよね~、と思う壱花に、

「で、明日は何処行くんだ?」
と班目が訊いてくる。

 オウムに頭に乗られながら、倫太郎が言った。

「明日、……っていうか、もう今日か?
 神社に行くんだそうだよ。

 リベンジしに」

 そのまま、ぺらっとその神社と壱花との因縁をしゃべられ、笑われる。

「恋愛に祈願なんて、なんの意味もないぞ。
 気休めだ壱花」
と言う班目に、

 まあ、そうなんですけどね……と壱花が思っていると、班目は、

「俺は神や仏には頼らない。
 倫太郎にも頼らない。

 自分の力でお前を手に入れる」
と壱花を見つめ、言ってきた。

 いやいや……、真正面から見て言わないでくださいよ。

 冗談だとわかっていても照れるではないですか、と思う壱花の横で倫太郎が、
「待て。
 なんで今、俺まで入った?」
と訊いている。

「あやかしにも頼らない、という意味だ」

 そう班目は言った。

 友人として協力してもらうという意味ではなかったようだ。

「こんなあやかしばっかりの店やってるお前もあやかしだろうよ」

「それなら、壱花もあやかしだろう……」
と言いかけ、ん? と倫太郎は店の隅を見る。

「なんかあの辺、なにかなくなってないか?」

 高尾がぎくりとした顔をした。

「あっ、柚子が足らなくなったね。
 小豆洗いのおじいちゃんがたくさん柚子持ってきてくれたんだよ」
と言いながら、立ち上がり、奥へ行こうとする高尾を胡散臭げに倫太郎が見ている。

 壱花はさりげなく高尾について行き、
「高尾さん、なにかしました?」
と訊いてみた。

「いや、別に?」
と高尾は笑いながら、奥の座敷にあった白い大きなビニール袋から、何個か柚子をとっていた。

「それはいいんだけどさ、化け化けちゃん。
 いいの?
 神社で祈願し変えて」

「えっ?」

「その間違った名前で祈願したせいで、やってきたのが倫太郎じゃないの?」

 ……いや、そんなこと。

「正しい名前で祈祷して、倫太郎が君の前から消えちゃったらどうするの?」

 …………いやいや、そんなこと。

 別に社長とはそんなんじゃないですし……。

 会社でも此処でもただの雇用関係でしかないですし。

「どうした、壱花。
 冷めるぞ」

 高尾と一緒に柚子を手に戻った壱花に、倫太郎が言ってくる。

 はあ、と生返事をし、美味しくカニをいただいて、包丁振る鬼に追われたり、京都中走り回ったりした疲れは吹き飛んだが。

 昨日みたいに、すっきりはしなかった。

しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。 借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー カクヨムでも連載しております。

リストラされた42歳、確率の向こう側へ。~なぜか俺の選択肢がすべて正解になる件~

RIU
ファンタジー
「君には今月いっぱいで席を空けてもらいたい」 42歳、独身、社畜。会社のために尽くしてきた柏木誠は、理不尽な理由でリストラされた。 絶望の中、雨の神社で野良猫を助けた彼は、不思議な光と共に【確率固定】という異能――「無意識に正解を選び続ける豪運」を手に入れる。 試しに買った宝くじは10億円当選。 復讐心に燃える元上司を袖にし、元天才投資家の美女をパートナーに迎えた柏木は、その豪運で現代社会を無双していく。 「俺の選択に間違いはない。なぜなら、確率の方が俺に合わせるからだ」 枯れたおじさんが資産と余裕を手に入れ、美女たちに頼られながら、第2の人生を謳歌する痛快サクセスストーリー!

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちだというのに。 入社して配属一日目。 直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。 中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。 彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。 それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。 「俺が、悪いのか」 人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。 けれど。 「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」 あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。 相手は、妻子持ちなのに。 星谷桐子 22歳 システム開発会社営業事務 中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手 自分の非はちゃんと認める子 頑張り屋さん × 京塚大介 32歳 システム開発会社営業事務 主任 ツンツンあたまで目つき悪い 態度もでかくて人に恐怖を与えがち 5歳の娘にデレデレな愛妻家 いまでも亡くなった妻を愛している 私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...