あやかし駄菓子屋商店街 化け化け壱花 ~ただいま社長と残業中です~

菱沼あゆ

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漆 枕返しの宿

舌切り雀が出てきそうなお宿ですね

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 なんだかんだと話の流れで、結局、その枕返しが出るという宿に泊まることになってしまった。

「家に帰れば、あやかしいっぱいいるのに、旅先でまで、あやかしお宿に泊まらなくてもいい気がするんですが……」
と雰囲気ある竹林の小道を歩きながら、壱花は呟く。

「家に帰ればって、お前、駄菓子屋に住んでるわけじゃないだろうが」
と倫太郎に言われ、

「いや~、もうほぼ家ですよ。
 ほんとうの自宅の記憶が最近なくて」
と答えながら、壱花は道の向こうにある明かりに目をやった。

 上から覆い被さるような竹のトンネルの先に、ぼんやり明るい昔風の建物が見える。

「なんか舌切り雀が出てきそうなお宿ですね」

「お前、もれなくなにかやらかして、舌をちょん切られそうだな」
と言う倫太郎に、

 待ってください、ちょん切られるのは雀の方のはずですが……と思ったとき、冨樫が呟くのが聞こえてきた。

「今、私の頭の中では、いろいろ話が混ざって、雀が枕返されてましたよ」

 ……雀、枕使って寝るのだろうか、と思ったときには、もう宿に着いていた。



「いや~、いい宿じゃないですかっ。
 料理は美味しいし、源泉掛け流しだしっ。

 竹林が見える露天、最高でした。
 ざざざっと竹が風に揺れる音が時折したりしてっ」

 風呂上がりに浴衣で、ほかほかな壱花が部屋でそう言ったが、倫太郎は、

「確かにいい宿だが。
 お前の評価は当てにならん」
と言ってくる。

「お前、何処でもなにかいいとこを見つけ出してくるからな。
 どんなヤバイ宿でも、此処いいですね~、星5とかやりそうだから」

 いや、そもそも評価サイトに投稿したりしませんから……。

 西崎さんは、して欲しそうでしたけどね、と壱花は思う。

 まだ一部でしか評判になっていない枕返しの宿を、この観光地の目玉にしたいようなのだ。

「ぜひ、SNSとかで宣伝してくださいっ。
 特に、壱花さんとか。

 若いお嬢さんとか、そういうの得意なんじゃないですか?」
と満面の笑顔で言われたのだが。

 いや、……私、そういうのものすごい苦手なんですけど、と壱花は思う。

 西崎さんの期待が重い。

 誰か友だちに頼もう、と思いながらも壱花は言った。

「此処、離れなのもいいですよね~。
 騒いでも怒られませんし」

「いい大人がなにして騒ぐんだ」
と言う倫太郎に、壱花は少し考え、

「枕投げとか?」
と言う。

「……枕返しの宿で枕投げ、どうなんだ」

 そう倫太郎が言ったとき、冨樫がお茶菓子の側にあった、宿の紹介の紙を見せてくる。

「古来より、枕は人の霊が宿る神聖なものとされているので、枕を投げてはいけないそうですよ」

「……投げまくってましたよ、修学旅行」
と壱花は青ざめる。


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