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漆 枕返しの宿
寝たフリしてみましょう
しおりを挟む「じゃあ、寝たフリしてみましょう」
そう壱花が提案し、電気を消して、三人とも横になって黙ってみた。
ざわざわと竹林の音と鳥が鳴くような声だけが聞こえてくる。
「……来ませんね~」
と壱花がすぐに言うと、
「待てない奴だな、お前。
もうちょっとじっとしてろよ」
ていうか、しゃべるなっ、と倫太郎に言われる。
でも、ちょっと怖くないですかね~と目を閉じ、壱花は思っていた。
普段使わない枕を使って寝ているせいか、落ち着かない。
目を開けたら、なんかわかんない手の長いおばあさんとか覗き込んでそうだな、と思ったとき、かたん……と頭の上で音がした。
てててててと小さな足音がする、と壱花が思わず目を開けると、今、じっとしてろと言ったくせに、倫太郎も顔を動かし、そちらを見ていた。
暗闇の中、頭の上に今、一体、なにがっ!? と身構えた瞬間、飛んでいた。
壱花たちと居るせいか、また冨樫も一緒に飛んでしまったようだ。
あーっ! と三人で叫ぶ。
「おや、おかえり~」
とまた勝手に店でくつろいでいる高尾がもうついていないストーブの前で笑う。
「固まってるよ、ラムネ」
「えっ?
ほんとですかっ?
わー、楽しみ……じゃなくてっ。
今、今、今、見れそうだったのに~っ」
「え? なにが?」
と高尾が言っている間に、店が開店したので、わーっとラムネを楽しみにしていた子狸や子狐たちが入ってきた。
待てない子どもたちのために、まず、ラムネを分ける。
「わー、しゅわしゅわするっ。
ほんとにラムネですよっ」
と自らも口に頬張り、壱花は言った。
「そのしゅわしゅわは重曹と酸を一緒に水に溶かすと起こる化学変化だ。
お前が言っていたように、排水溝の掃除に使うあれと一緒だ」
「あの社長……、おいしさ半減するんで」
待てよ。
ってことは、今、お口の中もお掃除されているのだろうか。
ってことは、歯を磨かなくていい!?
砂糖が入っているのに、つい、そう思ってしまったとき、高尾が、
「なにが見れそうだったの?」
と訊いてきた。
「あやかし 枕返しですっ」
高尾は、ふうん、という顔をしたあとで、
「僕はまだ会ったことないんだけどね、枕返しって」
と言う。
「枕を返すなんて可愛いイタズラな気もするけど。
寝ている間は枕に魂が宿っているから、返されると戻れなくて死んじゃうって話もあるよね」
「えっ?」
「でも、枕は神聖なものだから、枕神が宿るとも言うよ」
「枕神?」
「夢のお告げとかあるじゃない。
あれって、普段から信仰してる神様が枕神として夢に現れて、いろいろ教えてくれるからなんだって。
どっちが出てくるんだろうね、その宿」
と笑ったあとで、高尾は、
「ところで、お土産は?」
と訊いてくる。
「出張楽しかった?」
「まだ半分しか終わってませんけど、はい」
そう壱花は答えたあとで、
「あ、草餅です」
とラムネに気を取られて忘れていた草餅を、ようやくみんなに配る。
「出張が楽しかったってどうなんだ……」
と呟きながらも、倫太郎も草餅を食べていた。
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