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漆 枕返しの宿
やっぱり起きないじゃないか
しおりを挟む「やっぱり起きねえじゃねえか」
「っていうか、この寝相では、枕返し意味ないですよね?」
現実の宿に戻った倫太郎と冨樫は壱花を見て呟き合っていた。
今日はベッドではなく布団だったので、壱花は何処までも転がっていっている。
……すぐに、はだけてしまう浴衣でなくてよかった、と男二人、ホッとしてしまうくらいの無惨な寝姿だ。
哀れに思った倫太郎が立ち上がり、時代劇で、道端に倒れて死んでいる人にムシロをかけてやるのと同じ感じに、壱花に布団をかけてやる。
そんな倫太郎の後ろから冨樫が言ってきた。
「まあ、高尾さんの話だと、枕を返されると死んでしまったりするそうなので。
枕返し、出ない方がいいのかもしれませんね」
「でも、今まで誰も死んでないんだろ?
どのみち、起きてるときには出ないんだろうし。
まだ暗いし、もうちょっと寝るか」
そう倫太郎が言い、二人はもう一度横になって、目を閉じた。
しばらくすると、てってってってって、と駄菓子屋に飛ぶ前に聞いたのと同じ、軽い足音のようなものが聞こえてきた。
倫太郎は、そうっと片目だけ開けてみる。
すると、壱花が銭箱、と呼んでいたあれのフタが開いていて、水干姿のちっちゃな生き物がトコトコ歩いていた。
平安時代の男の子のような格好をしたそれは、放り投げられていた壱花の枕をせっせと返し、引きずっていく。
飛び出して寝ている壱花の頭の下に突っ込もうと頑張りはじめた。
横になって寝たフリをしている倫太郎の後ろで、ぼそりと冨樫が言うのが聞こえてきた。
「死を呼ぶ枕返しにしては、ずいぶんと可愛らしいですね」
「……なんか手を貸したくなるな」
壱花が聞いていたら、
私を殺すのに!?
と叫んでいたかもしれないが。
そのとき、壱花がまた派手に寝返りを打った。
どーん、と壱花の頭が枕返しが返した死を呼ぶ枕の上にのり、だーんと壱花の手が振りをつけて、畳に落ちる。
枕返しが壱花の腕の下敷きになった。
「枕返しー!」
「社長、どっちの心配をしてるんですか……」
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