129 / 176
捌 あやかしのあやかし
ある意味、船を満喫しています
しおりを挟む壱花は老婆とキッズルームに行き、カラオケに行き、スポーツルームを眺め、本などもあるショップに行った。
ある意味、旅を満喫している。
いや、眺めているだけなんだが……。
展望レストランに行ったとき、倫太郎が追いついた。
「まだ、あのあやかし、ウロウロしてんのか」
「そうなんですよ。
一体、なにが目的なのか」
老婆はお玉を手に肉うどんを食べている家族連れのお父さんの横に立っている。
「……ああしてると、おかわりをよそおうとしている食堂のおばちゃんみたいですよね」
「なあ、壱花。
メダルゲームをしながら、ふと考えたんだが。
俺たち、そのうち、ここから飛ぶよな?」
倫太郎が渋い顔で言ってくる。
「俺が寝た場所に戻ってくるはずなんだが……。
この船って、ずっと移動してるよな」
そ、そういえば……。
「まあ、船内に戻るとは思うんだが。
夜間移動する場所に寝るのは初めてなんで」
と倫太郎は眉をひそめる。
「……社長が寝たとき船がいた場所に戻る可能性があるということですね?」
真っ暗な夜の海で溺れている自分と、そんな自分を眺めながら、立ち泳ぎをしている倫太郎が頭に浮かんだ。
いや、助けてください、社長……と泳げない壱花は妄想の倫太郎に思う。
「そうでなくとも、移動してるから。
あやかし駄菓子屋が、よし、こいつを船に戻そう、と思ったときと、実際に戻ったときとでは、位置がずれているかもしれん」
他の人の寝室にいきなり俺が現れたらどうする、と倫太郎は言うが。
「その場合、確実に、私と冨樫さんもいっしょに現れますよね……」
っていうか、我々は、あやかし駄菓子屋の意思により、連れていかれたり、戻らされたりしていたのですか。
オーナーの呪いじゃないんですか?
そう壱花が思ったとき、倫太郎がおのれの顎に手をやり、小首をかしげて呟いた。
「まあ、考えすぎだとは思うが」
「でも、まあ、気にはなりますよね。
そういえば、移動している船でそうなるのなら、きっと豪華寝台列車でもそうなりますよね」
壱花は列車が去ってしまったあとの、寒風吹きすさぶ線路に戻され、凍えて寝ている自分と倫太郎を想像した。
寒いというより、危ない……。
「乗る予定があるのか? 豪華寝台列車」
いや、ありませんけどね……と思う壱花に、
「やめておけ。
お前が乗ると、必ず事件が起きるから」
とまた言われる。
「っていうか、船でもすでに起きてるしな」
「世界を巡る豪華客船じゃなくて、普通のフェリーなのに起きちゃってますね。
っていうか、これ、私がいなくても、起きてますからね」
と壱花が老婆を見たとき、一万円のイルカを抱えた冨樫が現れた。
……結局、一万円突っ込んだそうだ。
倫太郎が、冨樫の腕の中の黒い瞳でふかふかしたイルカを見ながら言う。
「お玉持ったあやかしがウロウロするより、こっちの方が余程大事件だな」
と。
0
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
芙蓉は後宮で花開く
速見 沙弥
キャラ文芸
下級貴族の親をもつ5人姉弟の長女 蓮花《リェンファ》。
借金返済で苦しむ家計を助けるために後宮へと働きに出る。忙しくも穏やかな暮らしの中、出会ったのは翡翠の色の目をした青年。さらに思いもよらぬ思惑に巻き込まれてゆくーーー
カクヨムでも連載しております。
リストラされた42歳、確率の向こう側へ。~なぜか俺の選択肢がすべて正解になる件~
RIU
ファンタジー
「君には今月いっぱいで席を空けてもらいたい」 42歳、独身、社畜。会社のために尽くしてきた柏木誠は、理不尽な理由でリストラされた。 絶望の中、雨の神社で野良猫を助けた彼は、不思議な光と共に【確率固定】という異能――「無意識に正解を選び続ける豪運」を手に入れる。
試しに買った宝くじは10億円当選。 復讐心に燃える元上司を袖にし、元天才投資家の美女をパートナーに迎えた柏木は、その豪運で現代社会を無双していく。
「俺の選択に間違いはない。なぜなら、確率の方が俺に合わせるからだ」
枯れたおじさんが資産と余裕を手に入れ、美女たちに頼られながら、第2の人生を謳歌する痛快サクセスストーリー!
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
子持ち愛妻家の極悪上司にアタックしてもいいですか?天国の奥様には申し訳ないですが
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
胸がきゅんと、甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちだというのに。
入社して配属一日目。
直属の上司で教育係だって紹介された人は、酷く人相の悪い人でした。
中高大と女子校育ちで男性慣れしてない私にとって、それだけでも恐怖なのに。
彼はちかよんなオーラバリバリで、仕事の質問すらする隙がない。
それでもどうにか仕事をこなしていたがとうとう、大きなミスを犯してしまう。
「俺が、悪いのか」
人のせいにするのかと叱責されるのかと思った。
けれど。
「俺の顔と、理由があって避け気味なせいだよな、すまん」
あやまってくれた彼に、胸がきゅんと甘い音を立てる。
相手は、妻子持ちなのに。
星谷桐子
22歳
システム開発会社営業事務
中高大女子校育ちで、ちょっぴり男性が苦手
自分の非はちゃんと認める子
頑張り屋さん
×
京塚大介
32歳
システム開発会社営業事務 主任
ツンツンあたまで目つき悪い
態度もでかくて人に恐怖を与えがち
5歳の娘にデレデレな愛妻家
いまでも亡くなった妻を愛している
私は京塚主任を、好きになってもいいのかな……?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる