あやかし駄菓子屋商店街 化け化け壱花 ~ただいま社長と残業中です~

菱沼あゆ

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捌 あやかしのあやかし

朝ですっ

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 早めに飛んでも起きれなきゃ意味ないよな~。

 起きなきゃ起きなきゃ。

 すぐに起きなきゃっ。

 そう思いながら飛んだ壱花だったが、冷たい女湯の床の上で爆睡していた。

 倫太郎たちも昨日の騒動で疲れ切っていて、起きられない。

 だが、風呂を点検するスタッフは、すでに廊下まで迫っていた。

 壱花はまだ夢を見ている。

 決して開けてはナリマセヌ、という駄菓子屋の奥の障子を開けると、可愛い子狐が毛糸で手袋を編んでいた。

「見たな」
と言った子狐は、すたすたと壱花のところまで来ると、編んでいた手袋を片方渡し、

「見られたので、私はもうここにはいられません」
と言うのだ。

 高尾さんっ、と涙しかける壱花だったが。

 子狐は、どろんっ、と高尾の姿になり、壱花の肩を抱いて笑顔で言うのだ。

「というわけで、僕、今日から化け化けちゃんちに住むよっ」

 ……高尾さん。

 正体が子狐だろうと、なんだろうと、高尾さんは、何処までも高尾さん……。

 っていうか、私、ほとんど会社、駄菓子屋、社長の部屋の往復で過ごしていて。

 自分のアパートにはあまりいないんですけどね……。

という夢を壱花が呑気に見ている間に、スタッフの人はもう男湯の点検を終えていた。

 爆睡する壱花たち。

 だが、そのとき、ふわふわっと壱花の鼻の辺りを舞ったものがあった。

 壱花は盛大にくしゃみをして目を覚ます。

「は……、え?」
と冷たい床に手をつき、起き上がった壱花とともに、倫太郎たちも目を覚ます。

 ケセランパサランは移動していったようで、大部分消えていたが。

 ひとつ残っていたのだか、壱花の顔周辺をふわふわしていたようだ。

「なんだっ、今のくしゃみはっ。

 ……って、そうか。
 ここは、女湯っ」

 さすが、倫太郎の反応は早かった。

「出るぞっ」
と倫太郎は二人に声をかけたが、そのとき、女湯の脱衣場から音がした。

 スタッフが点検に入ってきてしまったようだ。

 やばいっ。
 逃げられないっ。

 どうするっ?

 湯にもぐるかっ!?

 いや、見えるだろっ。
と三人は視線で会話する。

 倫太郎が湯を見ながら、小声で言った。

「いや、万が一見つからなくとも。
 ここ出て、びしょ濡れのまま廊下歩いてたら、俺たちが、あやかしの船幽霊あやかしみたいだろっ」

 確かに……。

 それに、水たらして歩いちゃ、スタッフの人にも迷惑だよな、と思いながら、壱花は浴室内の様子を確認する。

 脱衣場からはロッカーの扉を開け閉めするような音が聞こえていた。

 浴場の中はシャワーも備品も桶も、ばっちりいい具合に整っている。

 これだったら、適当な人なら中まで入ってきて確認はしないかも。

 でも、目隠しになるようなものがないから、どのみち隠れられないしっ。

 やっぱり駄目元で、お湯の中に沈むしかっ?
とぎゅっと両手を握りしめた壱花は、穴あきお玉を持っていない方の手にも、なにかを持っているのに気がついた。



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