31 / 51
樹海に沈む死体
誰より、あいつがヤバくないか?
しおりを挟む「ところで、都合よく縄が落ちてたもんだな」
と言うと、亮灯は、軽く咳払いし、
「そうですね。
あれ、此処らの可燃粗大ゴミをくくる縄らしいですから。
その辺にあったんじゃないでてすか?」
と言う。
……なんだかわからないが、漠然と怪しい、と思いながら、亮灯の顔を見ていたが、素早く話題を変えようとする。
「ともかく、死体に関しては、それで全部ですよ」
「まあ、犯罪を隠したくなる陸たちの気持ちもわかるが。
結婚を発表しようかって言う幸福の絶頂からいきなり、突き落とされたわけだからな。
だが、殺意はなかったんだし、相手は窃盗中の犯罪者だ。
素直に名乗り出た方がよかったんじゃないか?」
「そう言ったんですけどねー。
やだっ、て言ったそうです」
「やだ、ね」
と晴比古は力なく笑った。
現実逃避するあまり、早希は自分の置かれた状況が見えていないのだろう。
「だが、そんな簡単に浮気を疑うなんて、陸は元々浮気癖があるんじゃないのか?」
「はあ、そうみたいですね」
と言う亮灯の表情を見ながら訊いた。
「そもそもお前たちは、なんで、陸に協力することになったんだ」
「それは……」
「それは?」
黙る亮灯に、
「犯罪は早く白状した方がいいぞ。
お前も陸にそう言ったんじゃないのか」
と言うと、
「なにも犯罪じゃないですよ。
陸に見られてたんですよね」
と言いたくなさそうに語り出す。
「見られてた?」
「先生と一緒ですよ。
覗いてたんですよ。
空き部屋に連れ込まれるところから」
「連れ込まれたって、誰に?」
と言うと、照れ隠しか、怒ったように、
「志貴にですよ」
と言う。
「志貴が私と話すのに、私を空き部屋に引っ張り込んで。
それから、私の部屋に移動したとこをですね」
「なんで、そこからお前の部屋に移動した。
なんで、陸に見られて、脅されるようなことになる」
つい冷ややかな目で見て言ってしまう。
「まあ、いいじゃないですか」
「よくねえよっ。
つまり、お前らは、自分たちのこれから犯す犯罪のアリバイために、関係をバラされたくないから、陸に脅されて協力したわけだな。
志貴は警察官だろうが。
自覚はあるのか」
「いやまあ、私のために刑事になったと豪語する人ですからね」
「……あんな真面目で感じのいい男なのにな」
「いや、普段の仕事は、これ以上ないくらい真面目にやってますよ」
晴比古は少し考え言った。
「なあ、陸には浮気癖があったんだよな。
お前はそれを知っていた。
陸はお前の弱みを握っていたわけだが。
陸を冷凍室に閉じ込める直前辺りで、お前、陸に迫られなかったか」
「先生は、仏眼じゃなくて、千里眼がありますね」
と亮灯はちょっと感心したように言う。
「でも、払ったら、やめてくれましたよ」
「それ、やめたの、彼女に見られたからじゃないのか?
どっかから見られてたんだよ。
陸はそのことを軽く考えていたんじゃないのか?
陸的には、よくあることだから。
だけど、彼女は今、通常の精神状態じゃない。
此処へ来て自分を裏切る気かと思った陸を早希はカッとなって、冷蔵庫の前で殺そうとした」
「凶器は恐らく、手にしていた懐中電灯です。
予定では、もっと軽いもので殴るはずだったんですが。
腹が立って、咄嗟に、手にしていた重い方のもので力いっぱい殴りつけたんでしょうね。
そうでしたか。
見られてたわけですね」
それが仲間割れの原因か、と呟く亮灯に、
「お前、推理は見事だが、そういった感情の機微には疎いよな」
と言った。
「陸に迫られたこと、志貴は知らないんだろう」
「言えないですよ」
「そうだな。
言ったら、まず、志貴が陸を殺そうとするだろうからな。
お前は、自分の計画を志貴に乱されたくないから、陸に襲われたことを黙ってた」
「いや、先生、妄想が膨らんでます。
襲われたまで行ってないですよ」
「じゃあ、なにされたんだ」
「先生、志貴より、追及が厳しいですね」
「うちの可愛い助手だからな。
陸を見つけたら、とりあえず、殴っておくよ」
と晴比古が笑顔で言うと、
「大丈夫ですよ」
と言う。
「ちょっと後ろから抱きしめられて、首筋に……
それだけですから」
「鈍器は何処だ?
懐中電灯じゃやり損ねたんだろう?」
もっと重いものはないのか、と言うと、先生、やめてください、と被害者のはずの亮灯が止めてくる。
「ああ見えて、陸弱ってるんですから、見逃してあげてください」
「いや、お前、見逃してって。
強姦された本人が見逃してやれってことはないだろう」
「だから、話を大きくしないでくださいってば。
それだと、私が強姦されたことになっちゃうじゃないですかっ」
そのとき、ノックの音がした。
「はい」
と返事をすると、志貴が現れる。
「先生、樹海で発見された深鈴さんの遺体、見に行かれますか?」
無表情にそう問う彼は、もうすべてバレたとわかっているようだった。
「亮灯は?」
と彼女に訊いている。
「行くわ」
「そう。
今の話は、後でゆっくり聞かせてもらうね」
じゃあ、下で待ってる、と志貴はドアから手を離し、ゆっくりとそれは閉まった。
亮灯と二人で固まる。
「……だから言ったじゃないですか。
志貴に余計なことを知らせると、私が復讐する前に、別の殺人事件が起こってしまいます」
「なあ。
誰より、あいつがヤバくないか?」
そう思うのなら、もう話を大きくしないでくださいよっ、と足を踏まれた。
そのまま、亮灯は部屋を出て行く。
志貴を追っていくようだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる