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樹海に沈む死体
地の底まで叩き落としておいて
しおりを挟む「いいじゃないの。
最後まで二人で仲良くそこに居なさいよ。
外に出るのなら、志貴さんと中本さんに上手いこと言ってあげるけどね。
先生、いい弁護士さん、紹介してあげられますよね」
といきなり振られ、
「あ……ああ」
と晴比古は返事をする。
「駄目よ、陸っ!」
早希のものらしい声がした。
「出ないわよっ。
またそんな女の甘言に乗らないでっ」
さすが、女の方が賢いな、と思っていた。
亮灯が根拠もなく、つるつる言いくるめようとする人間だと感じ取っているようだった。
ただ、今回ばかりは、亮灯の言うことが正しいのだが。
今すぐ出て来た方が彼女らのためだ。
それがわからないほどの莫迦ではあるまいが、と思っていると、早希は言い出した。
「みんなの前でこんなこと言えるもんですかっ。
この旅行で、陸と結婚するの、発表するつもりだったのよ。
そのために、今まで、陸のこと隠してきたんだから。
誰より先に私が結婚するはずだったのに」
いや、順番とか、どうでもよくないか?
女には大事なことなのか?
と思い、晴比古は辺りを窺ったが、亮灯も浅海もそこはどうでもよさそうに聞いていた。
あのさ、と亮灯が冷静に語る。
「陸なんかと結婚したら、真っ先に結婚どころか、真っ先に離婚することになるわよ」
「しないわよっ、離婚なんてっ。
だって、好きなんだものっ。
定職定まらなくても、浮気癖があっても、好きなんだものっ」
それを聞いた亮灯が言う。
「陸……早希さんと絶対結婚するのよ。
こんな相手、二人と居ないわよ」
わかった、と陸が言う。
「貴女の決意はわかったわ。
でもね、貴女はみんなを羨ましがらせたかったのかもしれないけど。
陸と結婚するなんて言ったところで、誰も羨ましいなんて思ったりしないわよ。
確かに見てくれはいいかもしれないけど」
そんな亮灯の言葉を、こいつ、ほんとに、ろくなこと言わねえな、と思いながら、晴比古は聞いていた。
亮灯は地の底まで早希を叩き落としておいて、優しく囁くように呼びかける。
「ねえ、出てきて。
誰も貴女を笑ってない。
誰も貴女を責めてない。
……こともないかもしれないけど」
そこは言い切れっ、と思った。
「早希……」
と後ろから声がした。
「早希っ、出て来てっ。
誰も貴女を笑ってなんかないよっ」
振り返ると、早希の友人たちが立っていた。
中本が後ろについている。
彼が連れてきてくれたようだった。
「出て来て、早希。
一緒に警察に行こう」
返事はない。
が、先程までのように、反抗的なことを言い返してきたりはしなかった。
強がってはいるが、恐ろしいのだろう。
弾みとは言え、自分が人を殺めてしまったことが。
だから、その事実を認めたくないのだ。
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