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理由がありませんっ
支社長に朝食を作らせてしまいました……
しおりを挟む結局、支社長のお言葉に甘え、お風呂に入った。
ゆっくりお湯に浸かると、なにもかもが夢だったような気がしてくるが。
……まあ、この船で風呂に浸かってる時点でなにも夢じゃないか、と思ったとき、また誰かがノックした。
いや、だから、陽太だ。
ドア越しによく通る声がする。
「ゆっくり入れとは確かに言ったが、いい加減出ろ。
朝食を食べる時間がなくなるぞ」
すっ、すみませんっ、と慌てて深月が出ると、陽太は、もうスーツを着ていた。
「あれっ?
お風呂は……」
と深月が言い終わるより先に、
「いや、お前、長そうだから、ゲストルームのシャワーを浴びたんだ」
と陽太は言う。
「もう朝食は用意してある。
早く来い、冷めるだろうが」
「えっ? 誰が用意したんですか?」
「この船に俺以外いると思うのか。
っていうか、お前は他に誰かいると思ってたのに、半裸で浴室まで走ったのか。
お前はどんな種類の変態だ」
と畳み掛けるように言われてしまう。
深月が口を開くより早く、陽太は窓の外を見、
「デッキで食べるか。
いい天気だ。
なにか羽織って出ろよ」
と言ってキッチンから料理を運び始めた。
「わっ、私も運びますっ」
ええっ、今すぐにっ、と支社長に料理まで作らせてしまった深月は、慌ててキッチンに駆け込んだ。
広いデッキには小洒落たダイニングテーブルやソファがあった。
……雨降ったら、どうすんだ、これ。
などというショボイことを考えながら、深月は陽太とともに料理を運ぶ。
っていうか、カフェで出てきそうな朝食だ、と手の中にある白いシェル型の皿に盛られた支社長作の朝ごはんを眺める。
よく見たら、野菜を洗っただけ、とか。
チーズ切っただけとか。
ちょっと焼いただけとかのものばかりなのだが。
盛り付けが素晴らしい。
センスの違いか……と深月はちょっぴり落ち込んだ。
それにしても、いい天気だ。
ちょっと寒いが。
「明るくなりましたよねー。
お正月過ぎると、ぐっと明るくなる気がしますね。
夕方暗くなるのも、すごく遅くなるし」
広いダイニングテーブルに皿を置いた深月は少し伸びをするようにして岸の方を見た。
海風が神社の辺りと同じようで少し違う。
「この辺りも結構明るくなるの早いな」
と陽太が言ったので、
「支社長が前……」
とうっかり言いかけ、深月は黙った。
支社長が此処に来たのは、他の親族に飛ばされてきた説と、本社で役員になる前に一度支社でも見てこいと言われて、やってきた説があったのだ。
「そこで詰まられる方が気まずいだろうが。
大丈夫だ。
俺は必ず、返り咲く」
……飛ばされたんだな。
「そんなことより、さっさと食え。
お前の風呂が長かったから、冷めかけてるだろうが」
と言われたのだが、まだ充分料理は温かく。
注がれた紅茶も程よい温かさで、いい香りがした。
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