21 / 95
理由がありませんっ
巫女さんに偏見があります
しおりを挟むその日、深月は社食で杵崎と一緒になった。
他のテーブルがいっぱいだったからだ。
同期の也美が、
「やだもう、杵崎さんたら~」
と楽しげに杵崎と話している。
深月はそんな杵崎を観察していた。
なんなんだろうな~。
杵崎さんと支社長が揉めた原因って。
やっぱり、女性問題とか?
などと考えてているうちに、深月の視線に耐えかねたらしい杵崎が、カレーライスを食べていたスプーンを置き、
「無言で見つめるなっ、一宮っ」
と文句を言ってきた。
あっ、すみません、と謝ったあとで深月は、
「あの~、杵崎さんって、今、彼女とか居るんですか?」
と訊いてみた。
支社長と彼女を取り合って、揉めたとか?
と思ったからだ。
すると、同席していた関谷純と純の後輩、そして、也美が、
『いや、あんた、それ訊く?』
『よく訊いてくれたわ、一宮っ』
『ありがとうっ、深月っ。
でも、まさか、あんたも杵崎さんに気があるっ?』
と言う顔を同時にした。
「……居ないが。
なにかそれで不都合でも?」
と杵崎は食ってかかるような口調で言ってくる。
「いえ、単に話の流れで」
と深月は言ったが。
杵崎は、
いや、お前。
今、完全に話の流れをぶった切って言ったよな?
という顔をしていた。
すると、也美がなんだかわからないが、足を蹴ってくる。
なに? と見ると、小声で、
「コンパ、コンパ」
と言う。
はいはい、と思いながら、深月は、
「杵崎さん、今度、みんなで呑みに行きませんか?」
と多少棒読み気味に言った。
「呑みに?」
と案の定、訝しげに杵崎は訊き返してくる。
自分と杵崎の仲は決してよくはないからだ。
「えーと、コンパです。
ああ、私は行かないかもですが」
「何故、お前が行かないコンパの話をお前がしてくる……」
お前が話振ったんだから、お前が幹事じゃないのか、と糾弾された。
いや、杵崎さん。
そこはさらっと流しましょうよ~。
仕事じゃないんですから。
こういうところが、いい男なのに、モテない理由か?
と思っている間にも、女子たちは勝手に盛り上がり、
「杵崎さん。
杵崎さん入れて、五人くらいでお願いしますー」
とか言っている。
「俺も居なくてもいいか……?」
話を振っておいて、深月が行かないと言ったせいか、杵崎もそう言うと、
「やだーっ。
杵崎さんが来てくれないのなら、行きませんよ~、私~」
とさりげなくテーブルの上の杵崎の腕に触れながら、也美が言った。
そ、そうか、と言う杵崎は、そんなに表情には出ないものの、ちょっと嬉しそうだった。
詳しい話はまたメンバーを集めてからということになり、その場は解散したのだが。
もういい時間だったので、化粧ポーチを取りに総務に戻ろうとしたら、
「一宮」
と杵崎が後ろから呼びかけてきた。
はい、と振り向くと、
「あの、新橋也美とかいうお前の同期、やけに積極的だったが、巫女さんじゃないよな」
と不安げに言ってくる。
「いや、なんでですか……」
「あまりにぐいぐい来るから、俺を騙そうとしてるんじゃないかと」
「あの、巫女さんが総出で貴方を騙しにかかってるわけではないですからね……」
と深月は言ったが、ちょっと気になっていることはあった。
ポーチを手に化粧直しにトイレに行くと、ちょうど也美が居た。
前髪のチェックをしながら、
「お疲れー」
と言ってくる。
「ねえ、也美。
さっき、やけに杵崎さんに積極的だったけど。
也美って、杵崎さんのこと好きだったっけ?」
営業の誰かがいいと言っていたような、と思って訊くと、
「いや~。
だって、まだ誰かと付き合ってるわけじゃないし。
何処にチャンスがあって、誰と相性がいいかなんて、ちょっと話しただけじゃわかんないじゃん。
だから、私、いいな、と思った人が居たら、積極的に話しかけるようにしてるの」
と也美は言う。
なるほど。
確かに、支社長だって、なんか怖そうな人だなと思ってたけど、そうでもないし。
……杵崎さんは今のとこ、そのまんまだけど、と思いながらも、也美の前向きな意見に、ちょっと納得もする。
でも、そうして、キープ的な扱いをされることが多くて、杵崎さん、女性不信になったんだったりして、と思ったとき、
「お疲れー」
と言いながら、どやどやと先輩たちもトイレにやってきた。
もう昼休みも終わりのようだ。
お疲れ様ですーと言いながら、深月は急いで化粧を直した。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら
瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。
タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。
しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。
剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。
うちの幼馴染がデレすぎてて俺の理性はもう限界。でも毎日が最高に甘いからもうどうでもいいや
静内燕
恋愛
相沢悠太の日常は、規格外の美少女である幼馴染、白石葵によって完全に支配されている。
朝のモーニングコール(ベッドへのダイブ付き)から始まり、登校中の腕組み、そして「あーん」が義務付けられた手作り弁当。誰もが羨むラブラブっぷりだが、悠太はこれを「家族愛」だと頑なに誤解(無視)している。
「ゆーたは私の運命の相手なんだもん!」と、葵のデレデレは今日も過剰の一途。周囲の冷やかしや、葵を狙う男子生徒のプレッシャーが高まる中、悠太の**「幼馴染フィルター」**はついに限界を迎える。
この溺愛っぷり、いつまで「家族」で通せるのか?
甘すぎる日常が、悠太の鈍感な理性を溶かし尽くす――最初からクライマックスの、超高濃度イチャイチャ・ラブコメ、開幕!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
**俺、東大院生の実験対象にされてた。**同居している美人家庭教師のやばい秘密
まさき
青春
俺は今、東大院生の実験対象になっている。
ある雨の夜、アパートの前にずぶ濡れの美女が立っていた。
「家庭教師です。住まわせてください」
突然すぎる申し出に困惑しながらも、なぜか断れなかった。
桐島咲楽、東大大学院生。成績は天才、料理は壊滅的、距離感はおかしい。毎日転ぶ、焦がす、なぜか距離が近い。そのくせ授業は鬼のように丁寧で、俺のことを誰よりもよく見ていた。
偏差値42だった俺の成績は、気づけば上がっていた。でも、それより気になることがある。
咲楽さんが、研究ノートに何かを書いている。「被験者」という文字が、見えた気がした。
距離が近いのは、データのためか。褒めてくれるのは、実験のためか。でも、あの顔は。あの声は。
「データじゃなくて、私がそう思っています」
嘘をついているような顔じゃなかった。
偏差値42の俺に、東大院生の美女が押しかけてきた。ドタバタな毎日の中で、俺の心臓が休まる暇がない。これはドキドキなのか、心配なのか。それとも、もう恋なのか。
不器用な天才と、鈍感な高校生の、やばい同居生活。
定時で帰りたい私と、残業常習犯の美形部長。秘密の夜食がきっかけで、胃袋も心も掴みました
藤森瑠璃香
恋愛
「お先に失礼しまーす!」がモットーの私、中堅社員の結城志穂。
そんな私の天敵は、仕事の鬼で社内では氷の王子と恐れられる完璧美男子・一条部長だ。
ある夜、忘れ物を取りに戻ったオフィスで、デスクで倒れるように眠る部長を発見してしまう。差し入れた温かいスープを、彼は疲れ切った顔で、でも少しだけ嬉しそうに飲んでくれた。
その日を境に、誰もいないオフィスでの「秘密の夜食」が始まった。
仕事では見せない、少しだけ抜けた素顔、美味しそうにご飯を食べる姿、ふとした時に見せる優しい笑顔。
会社での厳しい上司と、二人きりの時の可愛い人。そのギャップを知ってしまったら、もう、ただの上司だなんて思えない。
これは、美味しいご飯から始まる、少し大人で、甘くて温かいオフィスラブ。
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる