好きになるには理由があります ~支社長室に神が舞い降りました~

菱沼あゆ

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理由がありませんっ

そんなもの支社長がお引き受けになる必要はありません

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 深月が去ったあと、杵崎は、また仕事に戻ったが、ちょうど区切りがついたところで立ち上がる。

 軽くノックして、支社長室に入った。

 さすがにもう陽太は舞ってはいなかった。

 真面目に仕事をしている陽太の前に立つと、陽太は顔を上げないまま、
「なんだ?」
と訊いてくる。

「お忙しいのに支社長が引き受けられなくても。

 会社として地域に貢献するところを見せたいのなら、他の者を出してもいいんじゃないですか?」

 そう杵崎は言ったが、陽太は本社から送られてきた資料の確認をしながら言ってきた。

「いや、俺がやる。

 だって、よく考えたら、俺がやらなかったら、他の男があいつに感謝されてしまうじゃないか」

 そう言いながら、ノートパソコンを開ける陽太に向かい、杵崎は、
「……支社長が、そんな色ボケなさるような方だとは思いませんでした」
と言い放ち、さっさと支社長室を出た。

 おいっ、という陽太の言葉を無視して、下に降りる。

 総務のカウンターの前を通ると、笑いながら電話の応対をしている深月の姿が見えた。

 こちらに気づき、電話で話しながら軽く頭を下げてくるので、下げ返して通り過ぎた。
 



 昼休み、杵崎が社食に行くと、また深月が居た。

 いや、広い社食だ。

 今までも、いつも何処かに居たのだろうが、最近、やたら目につくな、と思っていた。

 すると、その深月が居る窓際の席から、金子由紀が手を振っているのに気づいた。

「杵崎、此処空いてるよー」

 ……空いているのはわかっているが、あまりそこには行きたくない。

 そう思っていたが、深月もこちらを見て、ぺこりと頭を下げてきた。

 よそに行くのもなんだかタイミングを逃した感じだ、と思いながら、杵崎は仕方なく、深月たちのテーブルに行った。

 深月が由紀たちと話しているのが聞こえてくる。

「それでね、従兄弟の子が一緒に遊ぼうって言うんですよ。

 お正月にアメ賭けてやったので、味しめちゃって。

 なんでしたっけ?
 ほら、百人一首でやるやつ。

 えーと、確か……」
と言ったあとで、深月は手を打った。

「ハゲめくり!」

「坊主めくりだ」
と言いながら、杵崎が由紀の隣にトレーを置くと、由紀が呼んでおいて文句を言ってくる。

「やだもうっ。
 なんで、こっち来んのよ。

 一宮の方が二個も椅子余ってるじゃないのよ。
 あっち行きなさいよ」

「なんだよ。
 別にいいだろ」
と言ったが、

「だって、あんたと私が並んで座ってると、いろいろと勘ぐる奴が居るからよ」
と由紀は主張する。

 事情を知る純が苦笑いし、深月が、おや? という顔でこちらを見ていた。

 ああ、と由紀が深月の表情に気づき、自分を手で示して軽く言った。

「前、ちょっと付き合ってたの」

 深月は、ええっ? と驚いたあとで、こちらを振り返り、
「でも、金子さん、巫女さんじゃないですよね?」
と言ってくる。

 純が、は? という顔をし、自分は、
「だから、騙されてはいない……」
と小さく答えた。


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