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理由が必要か?
見習わなければ、いろんな意味で
しおりを挟む「大丈夫か?
悪い奴にさらわれなかったか?」
と翌朝、おばさんの祝いから帰ってきたという陽太に深月は訊かれた。
「さらわれていたら、此処にいません」
と朝日の眩しい支社長室で深月が言うと、
「そういう意味じゃない。
誰かにお持ち帰りされなかったかと訊いてるんだ」
と陽太は言ってくる。
「いや……帰り着くまで電話かけ続けてたのでおわかりでしょうに」
だが、そう言いながら、深月は思っていた。
電話なんて幾らかけても役に立たないもんなんだな、と。
陽太の電話が杵崎のキスから守ってくれることはなかったし。
陽太がそれを知ることもできない。
ていうか、杵崎さん、もう全然ケロッとしてるから、記憶にないんじゃなかろうか、と思いながら、深月は、
「失礼しました」
と支社長室を出た。
秘書室では杵崎が忙しそうに資料を確認しながら、電話で話している。
「総務に発注してた名札の確認に行ってきます」
と言って深月は秘書室を出る。
総務に行った深月は、あっという間に、みんなに捕まった。
「ちょっと深月ーっ」
「深月っ、ちょっと来なさいっ」
ひーっ。
みんな怒ってるっ?
なんでっ!?
「あんた、幹事のくせに先に帰ったけどっ」
と由紀が深月の胸倉をつかみかけたとき、
「深月ーっ」
と異様にテンションの高い声が聞こえてきた。
誰だっけ? この声、と深月は振り返る。
「やだーっ、もう深月ーっ。
ありがとうー」
彼女が登場した瞬間、全員が、ケッという顔をした。
そういえば、まだ名前を知らない水かけ女さんだ。
「ありがとう、深月」
と彼女は親しげに手を握ってくる。
あなたに深月と呼ばれる日が来るとは……と苦笑いしながら、深月は、なにがなんだかわからないまま手を握られていた。
「貴女のおかげで素敵な人と巡り会えたわ」
人数が多すぎて、全体の動きを把握しきれなかったのだが。
どうやら、昨日のコンパ、上手くいったようだった。
「なんでこの陰険女が真っ先に決まるのよーっ」
と由紀と沙希の怒号をまるで、教会のライスシャワーでもあるかのように浴びながら彼女は微笑んで言ってくる。
「深月っ、式には呼ぶから、ぜひ、来てねっ」
よく話を聞けば、どうも連絡先を交換しただけのようなのだが。
彼女の中では、もう式まで決まっている感じだった。
彼女がご機嫌なまま去ったあと、沙希が言ってくる。
「悔しい~っ。
あの女、男の前では態度が全然違うのよっ。
私たちにまでやさしいんだからっ」
「相手はどんな方なんです?」
とよくは知らないらしい也美が訊いていた。
「杵崎さんのご友人ですか?」
と。
確かに杵崎の友人はイケメンエリートが多かったようだ。
まあ、既婚者も混じっていたようだが……。
杵崎さん入れて五人と最初に指定してしまったせいで連れてきたのかもしれないな、と思ったとき、沙希が、
「違うのよっ、公務員よっ。
なによ、あの女っ。
派手な見た目のくせに堅実ねっ」
と褒めているのか、けなしているのか、よくわからないことを叫び出す。
「なんだ。
じゃあ、いいじゃない。
公務員でしょ?
そんなの普通に見合いでも来るじゃない」
とやはり、相手が誰だかは知らなかったらしい由紀が言い出す。
「いやっ、なんだかんだで、堅実が一番よっ」
と主張する沙希に、由紀が、
「そんなので、あんたよく、支社長狙ってたわね」
と言っていた。
「いや、堅実に生きるのが一番だと思ってはいるけど。
棚ぼたで降ってくるかもしれないリッチで素敵なイケメンとの生活も魅力的だから。
いつ何処から降ってきてもいいように、一応、口は開けとくのよっ」
と言う沙希に、
……その姿勢、見習わなければな、いろんな意味で、と深月は思っていた。
結婚のことだけではなく、人生何処からぼた餅が降ってくるかわからないからだ。
どんなことでも積極的で前向きになるのは悪いことではない。
しかし、その話になぞらえれば、支社長と私の場合だと。
私たちを酔いつぶれさせた酒が支社長を乗せたぼた餅だったのか。
支社長にどんどん酒を勧めた、誰だかわからない爺さんが支社長を背負ったぼた餅だったのか。
いや、棚か。
などとぼんやり考えている深月に、みんなが、
「深月っ。
コンパ、コンパッ。
次のコンパッ」
と要求してくる。
「えーっ。
またメンツ探すの大変なんですけど~」
と言うと、由紀が、
「なに言ってるのっ。
今回参加してたメンバー、一人ずつが五人ずつ連れてきて、何度か開催したら、かなり開けるじゃないの、コンパッ」
と無茶な計算をし始める。
「この広い世界、運命の人と巡り会える確率は低いけど、それだけやってれば、確実に上がるわっ」
なんか壮大な話になってきたな……。
っていうか、一人が五人連れてこいって、どんなねずみ講だ、と思いながら、総務を去った。
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